次のGAFAを探しています

【次のGAFAを探しています】第9回:パランティア・テクノロジーズ(PLTR)

GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。


きっかけは米同時テロ、ティール氏らが設立

ビッグデータ解析のソフトウエアを開発するパランティア・テクノロジーズを立ち上げたのは、オンライン決済サービスのペイパルの共同創業者で投資家として有名なピーター・ティール氏。ペイパルの黎明期に共同創業者であるイーロン・マスク氏と対立したエピソードを持つなど話題には事欠かない人物で、今もパランティアの会長を務めています。



パランティアの創業は2003年。2001年の米同時多発テロを受け、膨大なデータを解析してテロを未然に防ぐソフトウエアを開発するという創業者らの使命感が結実し、誕生しました。主要顧客には米国防総省、米軍、米中央情報局(CIA)、米連邦捜査局(FBI)などが名を連ね、安全保障を左右するような極秘情報を取り扱うプラットフォームを提供するだけに、2020年にニューヨーク証券取引所に上場した後も「謎多き企業」というイメージがつきまとっています。


ビンラディン容疑者の隠れ家を探索か?

実際にはデータ分析のためのソフトウエアを情報機関などに提供しており、パランティアが膨大なデータを預かって解析を手掛けている訳ではありません。しかし、米国政府がアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の隠れ家を突き止めるのに同社の技術が使われたと報道され、「テロとの戦いの秘密兵器」と形容されるなどちょっと怪しい企業というイメージは拭いきれないようです。


米国政府との関係は密接で、特にティール氏はトランプ前大統領の熱烈な支持者として知られています。2016年12月には大統領就任を目前に控えたトランプ氏がシリコンバレー企業のトップを招いて開いた会合でも米国政府との密接な関係が反映されたようです。


トランプ氏の真向かいの特等席に座ったのはグーグル創業者のラリー・ペイジ氏でもアップルのティム・クック氏でもアマゾンのジェフ・ベゾフ氏でもテスラのイーロン・マスク氏でもフェイスブックのシェリル・サンドバーグ氏でもありませんでした。GAFAの代表を差し置いてその席に座ったのは、当時は未上場だったパランティアのアレクサンダー・カープ最高経営責任者(CEO)だったのです。


中国共産党とは取引せず、上場目論見書に明記

米国の安全保障にかかわるビジネスのため対立する国の政府とは取引しない方針です。パランティアがニューヨーク上場前に米証券取引委員会(SEC)に提出した上場目論見書には中国共産党とは協力しないと明記されています。


顧客数も少なく、2021年の年次報告書によると、わずか237。時価総額が日本円で2兆円を大きく上回るソフトウエア開発の企業としては異様ともいえる少なさです。


しかも売上高ベースで上位20の顧客の平均売上高は4360万ドルで、合わせると約8億7200万ドルに達します。2021年12月期の売上高は15億4200万ドルだったので、上位20の顧客だけで売上高の半分以上を占める計算です。



また、売上高に占める政府機関向けの割合は58%で、民間企業向けが42%です。主に政府機関向けに提供するのが「ゴッサム」と呼ばれるソフトウエアのプラットフォームです。ゴッサムは、映画「バットマン」が活躍する犯罪都市ゴッサム・シティーを連想させるもので、漫画「バットマン」シリーズの発行元であるDCコミックスがパランティアの商標登録を差し止めるよう画策していましたが、最終的に「パランティア・ゴッサム」として定着しています。


政府機関向け、主に「ゴッサム」を提供

「ゴッサム」ではデータの統合・分析を比較的容易に実行できる技術を提供し、意思決定の最適化を支援しています。テロや災害への対策、サイバーセキュリティーといった用途が多く、必然的に政府機関の利用が多くなりますが、不正行為の調査などで金融機関も活用しているようです。


「ファウンドリー」と呼ぶソフトウエアのプラットフォームは、主に民間企業が利用しています。データの中央運営システムを構築する仕組みで、必要なデータの統合と管理、解析するツールを総合的に提供します。センサーなどの技術の発達に伴い収集されるデータは膨大になっていますが、データの統合と解析を通じて企業の意思決定も支援しているようです。


「ファウンドリー」は航空、エネルギー、ヘルスケアなどのセクターで利用されています。特に航空業界ではエアバスとの提携から始まり、幅広い分野でデータの収集や分析に使われているようです。


「ゴッサム」と「ファウンドリー」は安全保障分野で培った技術を民生品に転用する例と言えるかもしれません。航空機メーカーが軍用ヘリコプターの技術を用い、民生用のヘリコプターを製造するようなものとすれば、理解しやすいのではないでしょうか。


日本には2019年に進出、SOMPOと合弁展開

パランティアは米国の政府や企業にべったりという訳でもなく、2021年12月期の海外売上比率が43%に達するなど国外への進出にも積極的です。米国の同盟国である日本では2019年にSOMPOホールディングスと共同出資でパランティア・テクノロジーズ・ジャパンを設立しています。


すでにSOMPOホールディングスを含めて複数の企業と契約を結んでいるそうです。日本政府にもアプローチしており、防衛や安全保障の分野での導入を視野に入れているとの情報も出ているようです。


「パランティア」という社名は「指輪物語(映画:ロード・オブ・ザ・リングの原作)」に登場する黒い水晶に由来しており、指輪物語では遠方を見ることができる不思議な水晶として描かれています。政府機関や企業はデータ解析を通じて未来を予見するような意思決定が可能なのか、パランティアの取り組みは今後も続くようです。

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中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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