GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場にも君臨しています。GAFAは未来を見据えて新たな挑戦を続けていますが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
家賃の工面が巨大ビジネスに変貌?
第1回で取り上げるのは民泊を仲介するエアービーアンドビー(エアービー)です。エアービーの創業には広く知られたエピソードがあります。時はアップルが初代のiPhoneを発売した2007年。サンフランシスコでルームシェアをしていたブライアン・チェスキー氏とジョー・ゲビア氏には十分な収入がなく、家賃の支払いにも困る始末でした。
家賃の工面に苦慮していた2人に飛び込んできた朗報がサンフランシスコで開かれるデザイン関連の大規模な会議開催のため、ホテルが満室になったという情報でした。2人は3つのエアーベットを膨らませ、会議の参加者3人を自分たちの部屋に泊めました。来たときにまったく見も知らなかったゲスト3人は帰るころにはすっかり友達になり、チェスキー氏とゲビア氏の手元には対価として受け取った宿泊代金も残ったのです。
チェスキー氏とゲビア氏はこの体験を世界中で共有したいと思い、宿泊場所を探す旅行者(ゲスト)と空き部屋を貸したい人(ホスト)をつなぐ仕組みを考案したのです。ネットを通じて民泊を仲介するプラットフォーム「エアービーアンドビー」はこうして2008年に誕生しました。共同創業者のチェスキー氏とゲビア氏はエアービーの最初のホストだったといえそうです。
220カ国・地域、600万件の宿泊場所を仲介
エアービーはシェアリング経済の波に乗って急成長し、2011年にはユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場のスタートアップ企業)の仲間入り。資金調達ラウンドで得た元手を使って世界各地で民泊仲介の運営会社を買収し、自らの生態系に組み込むなど快進撃を続けました。そして、2020年12月には新型コロナウイルスが世界中の旅行業界を凍りつかせる中でナスダック市場への新規株式公開(IPO)を敢行。鳴り物入りの新規上場は市場の注目を集め、初値は公開価格(68ドル)の2倍以上となる146ドルで、投資家の期待の高さを裏づけました。
ホスト2人がゲスト3人を泊めた2007年からわずか15年。エアービーは220カ国・地域の10万を超える都市で宿泊場所を仲介する巨大プラットフォームに成長しました。2021年6月末時点でホストの数が400万人を超え、宿泊場所の数は2021年末現在、600万件を上回っています。
宿泊物件も多様化しています。エアービーの旧社名はエアーベッド&ブレックファーストで、チェスキー氏とゲビア氏が膨らませたエアーベッドも社名に入るなど簡易な宿泊場所を仲介するイメージでしたが、厳正な審査を通過したラクジュアリーな宿泊物件だけを紹介する「エアービーアンドビー Luxe」というサービスも始めています。「Luxe」では1泊20万円以上する豪華な邸宅も数多く、ラグジュアリーな物件の写真をうっとり眺めているだけでもストレス解消につながりそうです。
売上高は急成長、22年12月期には初の黒字か
さて本題に戻り、次のGAFAの有力候補かどうかという視点でエアービーを見てみましょう。ニューヨーク市場またはナスダック市場に上場する銘柄の中で、時価総額では現在、120位前後(ETFを除いています)。多角経営のゼネラル・エレクトリックのやや下、国際宅配便のフェデックスの少し上という立ち位置です。
業績は内容が公開された2015年以降、通期決算で純損益が黒字になったことは1度もありません。ただ、勢いのある新興テクノロジー企業の例にもれず、売上高は急成長を続けています。増収率は2016年が80%、2017年が55%、2018年が43%、2019年が32%。2020年はコロナ禍で売上高が30%減と落ち込みましたが、2021年には77%増と息を吹き返し、2019年の実績を大きく上回っています。
通期決算で純利益計上は1度もありませんが、四半期ベースではしばしば黒字になっています。特に北半球の夏季に当たり、旅行需要が盛り上がる7-9月期にはめっぽう強く、少なくとも2018年から2021年まで4年連続で最終黒字でした。
さらに通期でも初の黒字転換がみえてきました。アナリストの市場コンセンサス予想では2022年12月期の純利益は13億4900万ドル。3億5200万ドルの純損失を計上した2021年12月期から黒字転換を果たすとの見方が優勢です。
エアービーの新ビジネスは「体験」の仲介
それでは新規事業はどうでしょう。GAFAは買収あるいは自前で新たなビジネスに取り組むなど攻めの姿勢を貫き、成功を通じてデジタル経済の覇権を握ったように思います。エアービーに新たなビジネスモデルはあるのでしょうか?
それは「体験」かもしれません。現在の主力はホストが提供し、ゲストが借りる「宿泊場所」ですが、エアービーは以前からホストが「体験」を提供し、ゲストがそれを消費するというビジネスに力を入れてきました。それは富士山の登山案内でも、居酒屋体験でも、そば打ちでも、芋掘りでも何でも構いません。これまでネット上では世界中の人とつながることも可能でしたが、エアービーの「体験」はリアルな世界で見知らぬ人と人を結びつける仕組みの突破口になるかもしれません。
エアービーを含む旅行関連ビジネスはコロナ禍で大打撃を受け、ようやく立ち直り始めていますが、厳格な入国制限を設けている国も依然として残ります。世界がコロナの呪縛から完全に解き放たれたとき、エアービーがどのように化けるのか注目したいと思います。