GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
米国のペット市場規模は日本の10倍
「犬または猫を家族の一員と考える飼い主の割合は95%」。米調査会社のパッケージド・ファクツによると、米国での調査ではこうした結果が出ており、「ペットの健康のためにペットフード関連の支出を増やしてもいい」と答えた飼い主の比率は69%に上るそうです。
犬や猫を大切に思う傾向は日本にも負けず劣らずで、ペット市場は拡大傾向が続きます。関連商品の電子商取引(EC)を手掛けるチューイが発表した年次報告書によると、米国のペット関連市場の規模は2021年に1170億ドルに達しました(パッケージド・ファクツ調べ)。
1ドル=146円で計算すると17兆820億円で、矢野経済研究所がまとめた日本の2021年度の市場規模1兆7187億円のちょうど10倍です。住宅事情が異なるとはいえ、大きな差があり、米国人のペット愛を証明しているといえそうです。
パッケージド・ファクツによると、米国市場は2017-21年に年平均で6.9%成長しました。2020-25年の平均予想成長率は7.5%で、伸びが加速するとみています。成長加速の要因のひとつに2020年から本格的にまん延した新型コロナウイルスがあります。
新型コロナ流行を受けた行動制限で景気は冷え込みましたが、行政による「ステイホーム」命令を受けて家で過ごす時間に余裕ができた人の一部がペットを飼い始めたようです。「家族の一員」と一緒に過ごす時間が長くなった人も増え、総じて絆も深まったとみられます。
ペットとの絆、ステイホームでより深く
新型コロナ流行に伴う景気低迷を理由にペットフードやおやつへの支出を削った飼い主の割合はわずか5%でした。もともとペット関連市場は経済の低迷時にも堅調なことで知られているようで、米国ペット製品協会(APPA)によると、2008-10年のリーマンショック前後では米国の全般の消費支出は減少しましたが、ペット関連支出は12%増えました。
2010年単年では食品支出が3.8%減る中、ペット支出は6.2%増えています。ペットを子どものように考える飼い主は意外と多いようですが、この統計結果は「自分がひもじい思いをしても子どもには食べさせる」という親心の表れなのでしょうか。
ペット関連商品のECを手掛けるチューイにとって、市場の拡大とネット通販への移行をもたらした新型コロナ流行は結果的に強い追い風になりました。コロナの影響が通年で反映された2021年1月期決算は売上高が前年比47.4%増の71億4600万ドルに急拡大し、2022年1月期には売上高の伸びが鈍りましたが、それでも前年比24.4%増の88億9100万ドルと成長を続けています。
ファンド100社が投資拒否の都市伝説
チューイは2011年にチューイ・ドットコムとして事業を始めます。共同創業者の中心人物はカナダ出身のライアン・コーヘン氏で、創業後に最高経営責任者(CEO)となります。チューイを立ち上げた後、ベンチャーキャピタル100社から投資を断られたと豪語するツワモノです。
100社というのは都市伝説かもしれませんが、コーヘン氏はベンチャーキャピタルの投資家との面談で断られるたびに「相手が自分のビジョンを理解していない」と考えたといいます。フラストレーションは溜まっても失望はしなかったようで、断られるたびに逆に燃え上がり、やる気が満ちてきたそうです。まさに鋼のメンタルの持ち主といえそうです。
面談を通じて多くの投資家が問題点に挙げたのが、ECの巨人であるアマゾンの存在とペットフードECの先駆けといえるペッツ・ドットコムの失敗でした。コーヘン氏はアマゾンとの競争では専業の強みを生かした小回りの利くサービスで対抗できると考え、ペッツ・ドットコムの失敗はコストを吸収する十分な規模に到達できなかったと分析していたようです。
創業者はゲームストップの会長に就任
その後、投資運用会社のティー・ロウ・プライスやブラックロックから出資を取り付け、事業は成長します。コーヘン氏は2017年にペットやペット用品の小売事業を手掛けるペットスマートがチューイを買収した後もCEOにとどまりますが、2018年に退任。2019年のニューヨーク証券取引所への上場を見届ける前にチューイを去りました。
ちなみにコーヘン氏は2021年にビデオゲームの小売りチェーンを展開するゲームストップの会長に就任します。ヘッジファンドが空売りしていた銘柄を不特定多数の個人投資家が買い上げ、株式市場を混乱に陥れたあの「ゲームストップ株騒動」の渦中にあった企業です。
スマホ専業証券のロビンフッド・マーケッツなどを通じて個人投資家がヘッジファンドなど株式市場に絶大な力を持つ勢力に反逆を起こしたとされる騒動です。物言う株主になった同氏の人生は依然として波乱万丈といえるのかもしれません。
8割超を翌日配送、2日以内はほぼ100%
話をチューイに戻しますと、強みは多様な製品の取り扱いと迅速な配送体制です。3000を超えるペット用品やペットフードのブランドを取り扱い、製品数は10万点を超えます。2022年1月末時点で運営する14の物流センターを通じ、80%超の注文品を翌日に配送し、2日以内の配送はほぼ100%に達しているそうです。
また、サブスクリプション(定期購入)サービスも導入しており、定期的に製品を配送することでペットフードを切らすといった事態を回避できるようです。
チューイはこうした強みを背景に存在感を高め、売上高の増加が続いています。純損失は2018年1月期の3億3800万ドルをピークに毎年減少していますが、2016年以降に黒字を計上したことはありません。ただ、市場予想では今後も純損失は段階的に減少すると見込まれており、2025年1月期には念願の黒字転換を果たすとの見方が優勢なようです。