GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
屋台のコーヒー行商スタイルで始動
米国市場に上場する飲食店チェーンの最大手はマクドナルドで、1月10日時点の時価総額は1970億ドルです。第2位は世界最大のコーヒーショップチェーンのスターバックスで、時価総額はマクドナルドの6割強に相当する1217億ドルに上ります。
米国でコーヒーショップを経営するハードルは高く、株式市場でも高く評価されているスターバックスがまず立ちはだかります。さらに品質の高さに定評があるピーツコーヒー、ドリンクの販売強化のために社名からドーナツを外したダンキンなどにも対抗する必要があり、なかなか大変なようです。
こうした厳しい競争環境の中で成長し、注目を集めているのがコーヒーショップチェーンのダッチブロスです。「Dutch Bros Inc.」という社名を直訳すれば「オランダ兄弟会社」。オランダからの移民を祖先に持つデーン・ボーズマ氏とトラビス・ボーズマ氏の兄弟が1992年に立ち上げました。ロゴマークはオランダを象徴する風車です。
ボーズマ兄弟はオレゴン州南西部に位置するグランツパスという町の酪農家の家庭で育ちました。1992年に38歳だったデーン氏と21歳だったトラビス氏という年の離れた兄弟は家業の酪農ビジネスに見切りをつけ、コーヒービジネスに踏み出します。
手持ちの資金で購入したエスプレッソマシンとコーヒー豆を空っぽになった搾乳舎に持ち込み、試作を始めました。フルーツやナッツなどの香りをつけたフレーバーコーヒーの試作品を家族や友人に振る舞い、改良を進めたようです。
実際の商売はグランツパスのダウンタウンで始めています。資金不足のためコーヒーショップを構えるのは無理で、屋台を押してコーヒーを販売する行商スタイルで始動しました。
積極的な慈善活動、ESGに配慮した経営
フレーバーコーヒーは徐々に評判を呼び、グランツパスと周辺地域で流行したようです。ダッチブロスも少しずつですが、成長の果実を手にします。具体的な成果を確認できたのは2000年で、初めてのフランチャイズ店が開業しました。
その後も緩やかな成長基調が続きますが、2009年に共同創業者のデーン・ボーズマ氏が亡くなるという悲劇に見舞われます。難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患い、闘病生活は2年間に及びました。
ダッチブロスはデーン氏のALS発症を機に2007年に「デーンに一杯のコーヒーを」と名付けた募金活動を始めました。今でも毎年5月に1日限定で「デーンの日」を決め、コーヒーの売り上げの一部を筋ジストロフィー協会(MDA)に寄付しています。ALSの早期発見や治療に役立ててもらうのが狙いです。
また、毎年2月14日のバレンタインデーには「ダッチラブ」と名付けた慈善活動を行います。この日に売れたドリンク1杯につき1ドルを寄付する取り組みで、貧困層に食事を提供する資金として使われるそうです。
早い段階でESG(環境・社会・企業統治)に配慮した経営を推進していたといえそうですが、それでは企業としての成長戦略はどのようなものなのでしょうか。大きな特徴のひとつはドライブスルーを中心とする店づくりです。
ドライブスルーとフレーバーコーヒー
創業当時は顧客のいそうな場所に屋台を押して行きましたが、今では顧客にクルマで来てもらいます。ドライブスルー中心であれば、こじんまりとした店舗でのオペレーションが可能で、初期投資が抑えられますし、広い座席がある店舗に比べれば固定費も安く済みます。
クルマでの来店を前提にしているため商圏も広く、いい事ずくめともいえそうですが、広範な商圏ゆえに来店するためのモチベーションを顧客に持ってもらう必要も出てきます。ダッチブロスはわざわざ来店するだけの価値を魅力的なドリンクに置いているといえそうです。
メニューはフレーバーコーヒーが中心で、スターバックスのフラペチーノに類似するような商品も多いようです。人気商品のひとつを例に挙げると、キャラメルマキアートの「ゴールデンイーグル」があります。ブレンドコーヒーにバニラシロップとキャラメルソースを入れ、ホイップクリームとキャラメルソースを載せるというまさにゴールデンなドリンクです。
ラージサイズは1000キロカロリーに達し、ダイエット中の人が卒倒しそうな水準ですが、こうしたドリンクに目がない米国人が多いのも事実です。ドライブスルー中心の店舗構成と顧客を呼び寄せる吸引力の強いメニュー。このふたつがダッチブロスの経営を支えているようです。
さらにフランチャイズ戦略にも特徴があります。部外者にフランチャイズ権を売ることはせず、対象者はダッチブロスで3年以上働いた人に限ります。身をもって店舗の運営方法を理解している人に限定し、フレンドリーな接客という強みを維持しているのです。
ただ、フランチャイズで出店しても成功するとは限りません。生計が立てられないようであれば、会社側がフランチャイズ権を買い戻すといった救済のセーフティーネットが発動する仕組みもあります。
店舗数は着実に増加、米国東部には手つかずの市場
ユニークな経営戦略の成果で事業は着実に成長し、店舗数も拡大しています。店舗数は2019年末の370店から2020年末には441店、2021年末には538店、2022年9月末には641店に増えています。
特に直営店の伸びが顕著で、フランチャイズ店は2019年末に252店、2020年末に259店、2021年末に267店、2022年9月末に271店とあまり増えていません。逆に直営店は2019年末から順に118店→182店→271店→370店と急増しています。
2021年9月にニューヨーク証券取引所に上場しており、その後に直営店の出店を加速している印象です。2022年9月末時点で出店しているのは、カリフォルニア州やオレゴン州、ワシントン州の西海岸をはじめ、ネバダ州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、コロラド州、テキサス州、オクラホマ州など西海岸から中南部にかけた地域です。
米国中北部と東部には出店しておらず、手つかずの市場が残されています。さらに海外も未開拓で、先行きの楽しみは多いといえそうです。