GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
創業者はイラン生まれ、ロス育ち
このコーナーの第12回と第13回ではイスラエル出身者が立ち上げたサイバーセキュリティー事業者をご紹介しましたが、今回取り上げるアップラビンの共同創業者はイランの出身です。
イスラエルとイランは不倶戴天の敵といった様相で対立していますし、在テヘラン米国大使館人質事件やその後の対米強硬姿勢でイランに対する米国人の感情は極めて悪いと思います。
ただ、そうした中でも個人は個人という意識は強いようです。異なるバックグラウンドを持つ人々が自由に経済活動を行い、事業の価値が高ければ成功できる点が米国の懐の深さでしょうか。
アプリ開発事業者の支援サービスを手掛けるアップラビンの共同創業者、アダム・フォローギ氏は1980年にイランで生まれました。イラン革命そして在テヘラン米国大使館人質事件が起きた年の翌年です。
その年にはイラン・イラク戦争も始まっており、一家はその後、戦火を逃れるため、米カリフォルニア州に移住します。フォローギ氏はロサンゼルスで育ち、カリフォルニア大学を卒業した後、2011年にアップラビンを立ち上げました。
アプリ開発者に支援サービス
アップラビンは、スマートフォンなどのアプリを開発する事業者向けに支援サービスを手掛けています。アプリを巡る市場や成果の分析、集客、収益化などビジネスの成長に必要なツールを提供しています。
ウェブサイトのプロダクトを見ると、まずアプリのマーケティングツールが目を引きます。潜在ユーザーの特定や新規ユーザーの獲得、広告の費用対効果(ROAS)目標の設定とそれに伴うコスト調整といったソリューションを提供します。
アプリの開発事業者は、リアルタイム分析や詳細なデータに基づくリポートで現状を把握し、アプリを成長させるための改善策を講じることも可能というわけです。
また、アプリのユーザー獲得数を増やす対策の一環として、スパーク・ラブス(Spark Labs)を通じてクリエイティブと呼ぶ広告コンテンツの制作も手掛けています。広告の中でアプリの疑似体験が可能な「プレイアブル広告」やインパクトの強い動画広告などを制作し、ユーザーの誘導を手助けします。
アプリ内広告の効果を測定するソリューション「アジャスト」も提供しています。広告主が効果を把握し、今後のマーケティングに生かす仕組みです。
アプリのマネタイズで収益拡大に力点
一方、アプリのマネタイズでは収益機会の拡大に力点を置き、アプリ開発事業者を支援します。特に強みを持っているのがアプリ内広告のビディング(入札)プラットフォームです。
広告主がアプリ内広告の枠をあらかじめ買い取る予約型を除けば、広告主と広告枠をマッチングさせる何らかの仕組みが必要ですが、ウオーターフォール型と呼ばれる従来の仕組みでは収益機会の最大化は困難でした。
ウオーターフォール型はアドネットワークごとに順番を決め、広告枠への広告配信を打診する仕組みです。アドネットワークとは複数のアプリを集めて広告配信ネットワークを作り、広告主に提供するシステムで、数多くの事業者がアドネットワークを築いています。
ウオーターフォール型では最初のアドネットワークで決まらなければ、順番通りに次のアドネットワークに打診します。途中で決まるようであれば、さらに下位のアドネットワークで広告主が高い料金を提示したとしてもそれは無効になるのです。
一方、ヘッダー入札(アプリ内ビディング)と呼ばれる仕組みでは、複数の広告プラットフォームに一斉に入札するので、最も高い料金に決まります。アプリ開発事業者は従来型の仕組みで逃していた需要を取り込み、収益化を有利に進めることができるのです。
アップラビンは2018年にアプリ内ビディング機能を持つプラットフォーム「MAX」を買収し、この分野を一気に強化しました。MAXを立ち上げたのはアプリ内広告のビディングシステムを手掛けるモーパブの創業者です。
買収でビディング事業を強化
モーパブは2013年にツイッターに3億5000万ドルで身売りしますが、2021年10月にはアップラビンがツイッターからモーパブを買収することを決め、2022年1月に取引が完了しました。アップラビンは9年前にツイッターが支払った金額の3倍、10億5000万ドルという大枚をはたきましたが、アプリ内ビディング事業でさらに存在感を高めています。
MAXとモーパブを相次いで買収したようにアップラビンは企業買収にも積極的なようです。2022年8月には、以前にこのコーナーでも紹介したゲームエンジンの「ユニティ」の開発会社、ユニティ・ソフトウエアを買収する計画を発表しました。
買収提示額は175億4000万ドル。現在の為替レートで換算すると2兆5000億円を超える超大型買収です。ユニティ・ソフトウエアが拒否し、この買収は流れましたが、時価総額ではユニティがアップラビンを大きく上回ります。小が大を呑むことをいとわない姿勢のようです。
さらに2018年に参入したモバイルゲーム事業でも急成長しています。操作が簡単で多くの人がプレーできるハイパーカジュアルゲームという分野に特化していますが、ゲームアプリを支援してきたノウハウがあるだけに存在感が大きくなっているようです。
業績は2021年4月に上場したばかりのソフトウエア企業としては上々で、すでに黒字に転換しています。売上高は急激に伸びており、2021年12月期には3年前の5.8倍に達しています。
市場予想では2022年12月期に小幅な赤字に転落する見通しですが、2023年12月期に再び黒字に転換し、その後の利益を積み上げていくとみられているようです。