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【次のGAFAを探しています】第11回:ライアン・スペシャルティ(RYAN)「マライア・キャリーの声帯に保険?」

GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。


ベッカムの脚、マライア・キャリーの声帯

「デビッド・ベッカムが脚に1億ポンドの保険を掛けた」「マライア・キャリーは声帯に保険を掛けている」・・・。一昔前にはこの手の話題をときどき耳にしました。日本でもグラビアアイドルの脚や胸に保険が掛けられたことが話題になりましたが、当時は保険の種類にまで思いが至りませんでした。


いま思えば、自分の脚だけを対象に保険を掛けたいという人は明らかに少数派で、一般の保険ではカバーできないのは自明です。ただ、英国や米国ではスペシャルティと呼ばれる多様なリスクに対応する保険のマーケットが発達しています。日本のグラビアアイドルは脇に置くとしても、サッカー選手として超絶的な人気があったベッカムや7オクターブの音域を持つといわれたマライア・キャリーの保険を引き受けることは可能だったはずです。


米国では特殊なリスクに対応し、一般の保険会社がカバーしない保険の市場をエクセス&サープラスマーケット(E&Sマーケット)と呼びます。2010-20年のE&Sマーケット(元受保険料収入ベース)の年間平均成長率は7.6%で、一般の損害保険市場の平均成長率である3.8%の2倍のペースで拡大しています。


スペシャルティ保険のエキスパート

ライアン・スペシャルティ・グループ・ホールディングス(RYAN)はスペシャルティ保険のエキスパートです。高度な専門性やノウハウ、技術が必要とされる分野ですが、最高経営責任者(CEO)のパトリック・ライアン氏が2010年に創業した後、市場急成長の波に乗って業容を拡大しています。


主力事業はスペシャルティ保険の仲介です。保険のリテール・ブローカーや代理店とE&S専門の保険会社を結ぶホールセールの保険ブローカーとしてのビジネスが最も大きく、全体の手数料収入に占める割合は65%に上ります。


強みは前線で顧客に保険商品を売るリテール・ブローカーや代理店との強固な関係です。ライアン・スペシャルティは米国の全50州で効率的に保険商品をリテール・ブローカーや代理店に卸すことができるような体制を整えていると説明しています。



「RTスペシャルティ」などのブランドで展開するホールセールビジネスでは、不動産保険、災害保険、家計保険、専門職・役員責任保険、労災保険、運輸保険などを取り扱っています。


このうち不動産では一般の住宅やコンドミニアム、商業施設、複合施設が補償の対象で、洪水、地震、山火事、暴風雨などはもちろん、テロやパンデミックなどに保険を掛けることも可能なようです。


家計保険では多様な商品を取り揃えています。例を挙げればコレクションのクラシックーカーや個人で所有する馬のダメージに対する補償のほか、セグウェイやスノーモービルの利用で生じる事故などを対象とする損害賠償保険もあります。


「RT ProExec」のブランドで手掛ける専門職・役員責任保険では、専門職や会社役員が抱えるリスクに対応します。専門職のリスクとしては真っ先に医療事故が思い浮かびますが、医師や歯医者、助産師などを対象とする商品も揃っているようです。


会社役員対象の保険商品、誘拐や身代金をカバー

また、会社役員が抱える金銭的なリスクには株主代表訴訟がありますが、賠償責任保険で対応が可能です。このほか会社役員を対象とする保険では誘拐や身代金をカバーする商品が目を引きます。


主力のホールセールビジネスのほか、保険契約の引受権限ビジネスも手掛けています。保険会社が引き受けの権限や管理・販売の責任をライアン・スペシャルティに付与するもので、あらかじめ定められた引き受けの基準に沿い、複雑なリスクにも迅速に対応できるようになります。全体の手数料収入に占める引受権限ビジネスの割合は15%に上ります。


さらに引受管理ビジネスでは、保険会社から委託を受けた保険代理店や引受会社を通じ、商品の設計、保険の引き受け、カバー範囲の設定などを手掛けます。全体の手数料収入に占める割合は20%に達しています。


通期決算で黒字化、先行きの業績見通しも堅調

ライアン・スペシャルティは2021年7月にニューヨーク証券取引所に上場しました。金利上昇局面という追い風も吹き、株価は比較的安定しています。時価総額は100億ドル前後で推移しています。


上場して1年あまりですが、ソフトウエア開発やクラウド関連のビジネスを手掛ける企業に比べると、業績面では地に足が着いているという印象です。第10回でご紹介したエンバーク・テクノロジー(EMBK)は2023年まで売上高を計上する見込みがありませんでしたが、ライアン・スペシャルティは少なとも2019年12月期には利益を出しています。



2021年12月期決算は売上高に相当する経常収益が前年比40.7%増の14億3300万ドルで、内訳はホールセールビジネスが38.5%増の9億3200万ドル、引受管理ビジネスが46.2%増の2億9100万ドル、保険契約の引受権限ビジネスが44.7%増の2億1000万ドルと3部門とも順調に伸びています。


一方、リフィニティブがまとめた市場コンセンサス予想では、2022年12月期決算の経常収益は前年比22.7%増の17億5900万ドル、純利益は同126.5%増の1億4900万ドル。大幅な増益を達成するとの見方が優勢です。


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中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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