GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
学術文献の総合データーベースを運営
表題にある1864年は明治維新の4年前に当たり、教科書的に言えば尊皇攘夷に傾斜していた長州藩と英仏蘭米の4カ国が戦う馬関戦争が起きた年です。下関を砲撃した4カ国連合艦隊の中心は当時の覇権国である英国でした。
その英国では1864年にロンドン動物学会(ZSL)と大英博物館の動物学者らが共同で動物名を登録した「レコード・オブ・ズーロジカル・リターチャー」を発行します。1870年に「ズーロジカル・レコード」に改められますが、150年以上経過したいまも索引としての機能は連綿と受け継がれ、動物学の文献のデータベースとして発展しています。
動物学のデータベース「ズーロジカル・レコード」を運営しているのがロンドンに本社を置き、ニューヨーク証券取引所に上場するクラリベイトです。もともとは世界的な金融情報ベンダー、トムソン・ロイターの知的財産・サイエンス情報部門でしたが、2016年に分社化した後にカナダの投資ファンドなどに買収されました。
「ズーロジカル・レコード」はクラリベイトが運営するデータベースの一部にすぎません。科学・学術領域の総合的なプラットフォームである「ウェブ・オブ・サイエンス」に組み込まれているのです。
「ウェブ・オブ・サイエンス」は自然科学、社会科学、人文科学などの分野を網羅した学術文献のデータベースです。クラリベイトの説明によると、学術雑誌や会議録、研究データなどを収録しており、専門分野は250以上、レコード数は1億6100万件に上ります。
ライバルのグーグル・スカラーには一長一短
また、このデータベースに搭載されている「ウェブ・オブ・サイエンス・コアコレクション」では約2万1000に上る学術雑誌の論文や記事が収録されています。クラリベイトの専門チームが収集、整理、要約などを手掛けているため、検索機能も優れているようです。
最も古い文献は1900年。大学などの教育機関や研究機関、政府機関、企業などにとって必須の学術データベースで、世界的なスタンダードになっていると言えそうです。
ただ、この分野では手強いライバルも現れています。それは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」ことを企業の使命に掲げるグーグルです。
グーグルの通常の検索エンジンでも学術分野の情報を取得できますが、不必要な情報も出てくるためかなり非効率です。そこで登場したのが「グーグル・スカラー」です。
学術情報に特化した検索エンジンで、無料で使えるという利点がある半面、さまざまなレベルの文献が混合しているというデメリットもあるようです。このため有料の「ウェブ・オブ・サイエンス」を使える環境にある研究者は「グーグル・スカラー」を補足的に併用し、学術情報を取得しているそうです。
GAFAの一角が無料サービスで存在感を高める中、クラリベイトも手をこまねいている訳にもいかず、企業合併・買収(M&A)を積極化させています。2021年12月には学術雑誌や電子書籍、ニュース、動画など学術分野の膨大なコンテンツを持つプロクエストを53億ドルで買収しました。
プロクエストは膨大なコンテンツに加え、ソフトウエアも提供しています。主なプロダクトは「プロクエスト・セントラル」と「イーブック・セントラル」で、顧客は150カ国超の研究機関や企業など約2万5000に上ります。クラリベイトのジェレ・ステッド最高経営責任者(CEO)は、クラリベイトとプロクエストのサービスが相互補完的に作用すると説明しています。
生命科学・医療分野のデータベースにも強み
クラリベイトの強みは学術分野にとどまらず、生命科学・医療分野にも及んでいます。主力のプロダクトは「コルティリス(Cortellis)」ブランドで展開するデータベースで、世界の大手製薬会社30社をはじめ、医薬品や医療機器の研究開発を手掛ける数百の団体・企業が顧客です。
特に臨床試験情報のデータベース「コルティリス・クリニカルトライアルズ・インテリジェンス」には約49万5000件の臨床試験レコードが収録されており、製薬会社や医療機器メーカーの商品戦略の策定に役立っているようです。
このほかにもヘルスケアセクターの規制に関する情報を掲載する「レギュラトリー・インテリジェンス」に加え、医薬品の開発段階で使う生物学、化学・薬理学のデータベースである「ドラッグディスカバリー・インテリジェンス」があります。
ジェネリック医薬品の特許情報などを収集した「ジェネリック・インテリジェンス」というデータベースも保有しています。特許の失効時期なども一目瞭然で、後発医薬品メーカーには不可欠なデータベースと言えそうです。
クラリベイトはこの分野でも買収に踏み出しており、2020年3月にヘルスケア分野のデータや分析などを提供するディシジョン・リソーシズ・グループ(DRG)を傘下に収めました。ヘルスケア分野の情報提供を強化する取り組みの一環です。
知的財産権部門がもうひとつの柱、売上比率は5割超
クラリベイトには大別してふたつのセグメントがあり、ひとつがこれまでにご紹介してきたサイエンス部門です。もうひとつは知的財産権部門で、2021年12月期決算では売上高の52%を占め、サイエンス部門を上回っています。
知財関連の代表的なプロダクトは特許の検索や分析を容易にするプラットフォーム「ダーウェント」です。特許事務所や大手企業の研究開発部門、大学などが主要顧客です。
このほか商標のデータベースである「コンピューマーク」、ドメインの管理・登録サービスの「マークモニター」、知財管理の「CPAグローバル」といったプロダクトがあります。ちなみにCPAグローバルも2020年10月に完了した買収を通じ、傘下に組み込んだサービスです。
サイエンスも知的財産権もテクノロジーに主眼を置く企業の成長戦略を考慮すれば、ともに欠くことのできない領域で、重要性が増すことはあっても薄れることは想像しにくいと思います。クラリベイトは赤字から脱却できていませんが、積極的なM&Aなどを通じて事業拡張を進め、売上高を着実に伸ばしています。