GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
飲食店の成長に不可欠なソリューションを提供
この連載の第17回では、マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得した4人が創業したギンコ・バイオワークスをご紹介しましたが、今回ご紹介するトーストもMIT出身者が立ち上げた企業です。
トーストは飲食店の効率的な経営に必要なソリューションを開発しています。販売情報を即時に管理するポイント・オブ・セールス(POS)、受注と配送のデジタル管理、販売促進活動、従業員管理、決済プロセス、経営分析・報告などレストランの生き残りと成長に不可欠なサービスをクラウドベースのプラットフォームで総合的に提供します。
創業は2011年で、社名をトーストに変えたのは2012年です。MITで学んだスティーブ・フレデッテ氏、アマン・ナラン氏、ジョナサン・グリム氏が立ち上げました。
共同創業者の経歴はさまざまで、フレデッテ氏はマサチューセッツ州中部のウエストミンスターの出身です。スキーリゾートとして知られるワチューセット山に近く、MITのキャンパスがある同州ケンブリッジまでは車で1時間前後の距離です。
祖父が化学の教師、叔父が州内で化学工場を経営するという家庭環境のため大学でも化学を専攻しました。叔父が経営する化学工場で働くことを漫然とイメージしていたそうですが、ソフトウエア開発会社の起業というまったく異なる道を歩みます。
創業者の1人はインド・アッサム州出身
一方、アマン・ナラン氏はインド東部のアッサム州で生まれました。ヒマラヤ山脈のふもとに位置し、紅茶の産地として有名な州です。その後に首都のデリーに移住しますが、7歳のときにネパール、14歳のときにニューヨークに移り住みます。牧歌的なネパールからニューヨークに来たときには大きなギャップを感じたそうです。
MITで化学を専攻したフレデッテ氏とコンピューターサイエンス専攻のナラン氏、グリム氏の3人はソフトウエア開発のエンデカでチームを組んで働きます。エンデカはマサチューセッツ州出身の起業家が立ち上げた企業で、オフィスがMITのキャンパスに近いこともあり、MITの卒業生が多かったようです。
ただ、エンデカは2011年にオラクルに買収されます。共同創業者の3人はそろって20代後半と起業の適齢期。買収を契機にエンデカを去り、一念発起してトーストを立ち上げたのです。
POSのプラットフォームが主力
トーストの主力プロダクトはポイント・オブ・セールス(POS)のプラットフォームです。専用のハードウエアとソフトウエアを飲食店向けに開発しただけに使い勝手が良く、待ち時間の短縮、オペレーションの適正化、円滑な支払いなど業務の効率化を支援します。
基盤となる端末の「トースト・フレックス」に搭載されたソフトウエアを通じて、注文、販売、支払いを一元的に管理し、顧客の属性などの情報も得ることができます。また、持ち運びができるハンディ型の「トースト・ゴー」ではスタッフが客席やテイクアウトの窓口で料理の注文の受け付けから電子決済までを1台で賄えるスグレモノです。
また、厨房と客席、テイクアウト窓口などのコミュニケーションを円滑にするツールも提供します。「トースト・ディスプレー・システム」は、客席で受けた料理や飲み物の注文を厨房に置いたディスプレーに表示される仕組みです。料理や飲み物の準備ができたときには逆に通知します。
さらに原材料の在庫や買掛金を自動的に管理するソフトウエア「エクストラシェフ」も提供しています。飲食店のバックオフィス業務を支援し、省力化などを通じて収益性の向上を支援しているのです。
ハードは厨房の高温・多湿にも耐える
ちなみに厨房はときに高温になるなどコンピューター・ハードウエアにとって過酷な環境で、防水性も不可欠です。トーストは、ハードウエアの製造をすべて外部に委託していますが、飲食店での使用を念頭に耐久性に配慮して、発注しているそうです。
このほかにも「トースト・オンラインオーダー&トースト・テイクアウト」があります。オンライン出前や店頭でのテイクアウトに必要な手順を簡素化する仕組みで、注文の重複などのエラーを防ぎます。また、第三者のフードデリバリーへの依存度を軽減し、自前のデリバリー機能の運営を容易にするソフトウエアも開発しています。
飲食店の労務管理に必要なシステムも開発しており、スタッフの勤務時間、チップ受領額、賃金などを一括管理する仕組みを提供しています。また、POSデータなどを元に飲食店経営の実体を分析し、リポートする機能もあります。
POSを通じて入手したデータを元にメニュー改革に取り組んだり、手持ちの顧客情報を利用した告知などでリピーターを増やしたりといった手段で売り上げを伸ばすことも可能なようです。
顧客の6割、4種類以上のプロダクトを利用
トーストの顧客である飲食店側はさまざまなサービスを組み合わせて経営効率の改善に努めているようです。POSシステムと決済ソリューションに4種類以上のプロダクトを上乗せしている顧客の割合は2021年末時点で約59%。2019年末の37%、2020年末の48%に比べて大きく増えています。
トーストの売上高はシステム提供の対価として受け取る定額課金(サブスクリプション)サービス、決済手数料と運転資金の提供に伴う金利収入(金融技術ソリューション)、ハードウエアの販売、専門サービスで構成されます。
2021年12月期の売上高は107%増の17億500万ドルで、内訳は定額課金サービスが67%増の1億6900万ドル、金融技術ソリューションが118%増の14億600万ドル、ハードウエア販売が75%増の1億1200万米ドル、専門サービスが29%増の1800万ドルです。
米国の飲食店の数は日本に比べて少ないようで、トーストの2021年の年次報告書によると、レストランは全米で約86万店。トーストの顧客数は2022年9月末時点で7万4000店に上ります。シェアはかなり高いような気もしますが、顧客数はまだまだ伸びています。
国内市場に加え、海外にもビジネスモデルを移植することもできそうです。成長の余地はまだまだ残されていると言えるのかもしれません。