GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
17年にインテルが買収、NY上場を廃止
グーグルの親会社、アルファベットの傘下に次世代技術の開発を推進する「X」という研究機関があるのは有名な話です。「X」の別名はムーンショットファクトリー。月探査ロケットの打ち上げ(ムーンショット)のような壮大な計画を念頭に新たな時代の技術を切り開くのが狙いです。
そのムーンショットファクトリーから誕生した企業のひとつに自動運転技術を開発するウェイモがあります。ウェイモは2016年12月に分社化し、独り立ちしています。
それから4カ月後の2017年4月、中国のグーグルとも呼ばれる検索大手の百度がオープンソース型の自動運転技術プラットフォーム「アポロ計画」を発表。中国をはじめ世界の有力な自動車メーカーや部品メーカー、ソフトウエア開発事業者らが参加を決め、自動運転技術への関心は一気に高まりました。
それから3カ月後、2017年8月に半導体世界最大手のインテルは、ADAS(先進運転支援システム)のパイオニアと呼ばれるイスラエル企業、モービルアイを153億ドルで買収します。インテルは「アポロ計画」にも参加していますが、ADASや自動運転技術で優位に立つために巨額の資金をつぎ込んだのです。
イスラエル企業のモービルアイ・グローバルは、ADAS(先進運転支援システム)の先駆けです。この分野に不可欠な画像処理のシステムオンチップ(SoC)開発でパイオニア的な存在とされ、自動運転技術のフィールドにも進出して存在感を高めています。
ヘブライ大学の准教授が創業
創業は1999年。イスラエルにあるヘブライ大学の准教授だったアムノン・シャシュア氏とビジネスマンのジブ・アブラム氏が共同で立ち上げました。2003年に教授になったシャシュア氏の専門はコンピュータービジョン(画像認識技術)と機械学習で、ともにADASや自動運転技術にとってうってつけのフィールドです。
シャシュア氏は多才な人物で、2010年には視覚障がい者向けの視覚支援デバイスの開発と製造を手掛けるオーカム・テクノロジーズを設立しました。こちらもアブラム氏とのコンビで創業し、2人はいまも共同会長というポジションに就いています。
また、2017年には人工知能(AI)による自然言語処理(NLP)を手掛けるAI21ラボをスタンフォード大学の教授らと創業。さらに2022年8月にはイスラエル初のデジタル専業銀行のワン・ゼロを開業しています。
シャシュア氏が最高経営責任者(CEO)として陣頭指揮をとるモービルアイはまず、ADASの開発に特化し、2004年に画像処理のシステムオンチップ(SoC)の「EyeQ」を発表します。2007年には高速道路で先行車と適切な車間距離を保つために自動的に速度を調整するアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)などの機能を組み込んだ「EyeQ1」がボルボに採用されています。
画像処理チップを開発、出荷数は累計1億個を突破
その後、2010年に「EyeQ2」、2014年に「EyeQ3」、2018年に「EyeQ4」、2021年に「EyeQ5」とアップグレードし、機能が飛躍的に進化しています。累計出荷数は初めての出荷を記録した2007年から2012年に100万個に到達するまで5年を要しましたが、2015年に1000万個、2019年に5000万個、2020年に7000万個、2021年に1億個と出荷数も加速度的に増えていきます。
この間にゼネラル・モーターズ(GM)、BMW、アウディ、日産自動車、テスラ、ホンダ、吉利、蔚来集団(NIO)など名だたる自動車メーカーに「EyeQ」を提供しています。これまでに「EyeQ」を採用した自動車メーカーは少なくとも50社に上り、700を超えるモデルに搭載されています。
画像処理チップで高い評価を得たモービルアイは2014年にニューヨーク証券取引所に上場します。イスラエル企業の米国上場としては過去最大規模で、8億9000万ドルを調達しました。公開価格は25ドル、時価総額は約53億ドルに達しています。
ただ、ニューヨーク市場に上場していたのは短い期間でした。3年後の2017年には半導体の世界最大手、インテルに買収され、上場を廃止します。買収額は先述したように153億ドル。3年間で会社の評価額は約3倍に急増したのです。
ADASには、アクセルを踏み続けることなくあらかじめ設定した速度を維持するクルーズコントロール、前方の車両や歩行者などとの衝突事故の衝撃低減を目指す衝突被害軽減ブレーキ、車線のキープを目的とする車線逸脱防止支援システムなどがあり、基本的に自動運転のレベル1とレベル2に分類されます。
レベル4の自動運転技術、開発を推進
モービルアイはADASの領域にとどまらず、レベル4以上の自動運転技術の提供を目指して開発に取り組んでいます。2018年には自動運転の基盤ともいえるマッピング技術「REM(ロード・エクスペリエンス・マネジメント)」をリリースしました。
REMでは車載カメラで撮影した画像をクラウドに送り、道路の情報を解析した上で蓄積します。モービルアイのシステムを搭載した車両が増えるほど、マップの精度が向上し、自動運転の機能も高まるわけです。
モービルアイは、特定条件下における完全な自動運転と定義されるレベル4の実現を目指し、「モービルアイ・ドライブ」と呼ぶソリューションの開発に取り組んでいます。自社の画像処理チップ「EyeQ」やマッピング技術などを総動員して実用化を目指します。
また、自動運転の領域ではインテルが2020年に買収したイスラエル企業で、交通アプリの開発を手掛けるムービットと提携しています。ムービットは、テクノロジーを利用して移動ルートを最適化するMaaS(Mobility as a Service、マース)を手掛けており、モービルアイはムービットのプラットフォームを活用する方針です。
モービルアイは、2022年10月に再びIPOに踏み切り、今度はナスダック市場に上場しました。12月20日時点の時価総額は約280億ドル。インテルによる買収額153億ドルの2倍には届きませんが、大きく増えています。ADASに収まらず、自動運転のレベル4に取り組み、着実に成果を挙げている点が評価されているようです。