GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
創業者はイスラエル軍のサイバー精鋭部隊出身
サイバーセキュリティーの分野ではイスラエル企業の存在感が際立っています。前回ご紹介したセンチネルワン(S)では、創業者がイスラエル軍のサイバー精鋭部隊出身ではない点を強みに成長したと説明していますが、今回ご紹介するのは筋金入りの精鋭部隊出身者が創業したパロアルト・ネットワークスです。
パロアルト・ネットワークスは企業や団体、政府機関などの法人向けにサイバーセキュリティー・ソリューションを提供しています。業界最先端とされる人工知能(AI)や自動化機能を駆使した総合的なサービスが特徴です。
創業は2005年で、7年後の2012年にナスダック市場への上場を果たしました。共同創業者の中心人物はニル・ズク氏。イスラエル軍の中でもエリートが集まることで知られるサイバー精鋭部隊「8200 unit」の出身です。
「8200 unit」は、通信を傍受して分析する諜報活動(SIGINT)や暗号解読を手掛けるとされています。ロシアとウクライナの戦争からも推測できるように情報収集は軍事活動の生命線。国の存亡が双肩にかかる部署だけにスーパーエリートが選別され、配属されるようです。
部隊ではプログラミングやハッキングのスキルを訓練
イスラエルでは男性は原則、18歳から3年間にわたり徴兵の義務があります。職業軍人にならない限り、3年後には除隊するので、早い段階で適性を見極めて育成する必要があり、16歳のときに選抜が始まるそうです。「8200 unit」では内定者に対し、放課後にプログラミングやハッキングのスキルを叩き込むとされています。
「8200 unit」は、米国防総省の情報機関、国家安全保障局(NSA)と比較されることが多いようですが、決定的な違いはスタッフの年齢です。「8200 unit」は18-21歳の若者を中心に構成され、徴兵期間が終われば除隊する人も多いのです。
サイバー戦の最前線にいた20歳すぎのエリートは引く手あまたです。世界的なIT大手にスカウトされるケースもありますが、大学や企業で経験を積んだ後に起業するパターンも多いようです。
チェックポイントが先鞭、96年にナスダック上場
パロアルト・ネットワークスの共同創業者、ニル・ズク氏はテルアビブ大学で学位を取得した後、サイバーセキュリティーを手掛けるイスラエル企業、チェックポイント・ソフトウエア・テクノロジーズ(CHKP)でエンジニアとして働きます。
チェックポイント・ソフトウエアの共同創業者であるギル・シュエッド最高経営責任者(CEO)も「8200 unit」の出身。サイバーセキュリティーを手掛けるイスラエル企業の先駆けともいえる存在で、1996年にナスダック市場に上場しています。
ただ、ニル・ズク氏は1999年に自身が関わっていた製品開発プロジェクトが中止となったことで、チェックポイント・ソフトウエアを退社します。このときの恨みがあるのかどうかは分かりませんが、ズク氏はときにチェックポイントを辛らつに批判しています。
ズク氏はその後、2005年にパロアルト・ネットワークスを立ち上げます。創業者の中心人物は通常、技術畑の人材でもCEOを務めるケースが多いようですが、ニル・ズク氏は一貫して最高技術責任者(CTO)の地位にとどまり続けています。経営よりもテクノロジーにこだわる姿勢を貫き、本人も「CEOになればテクノロジーと疎遠になる」「CEOの仕事をやりたいとは決して思わない」などと話しています。
ちなみにパロアルト・ネットワークスの現在のCEOはニケシュ・アローラ氏。そう、ソフトバンクグループの孫正義社長が事実上の後継者として2014年に指名したインド出身のあのアローラ氏です。ただ、孫社長が前言を翻して経営トップにとどまる意向を示したことで、2016年にソフトバンクを離れ、2018年にパロアルト・ネットワークスのCEOに就任しました。
「何も信頼しない」を基本にセキュリティー対策
実際のサイバーセキュリティーの現場で、パロアルト・ネットワークスはネットワークの内外ともに「信頼できない」と仮定して対策を講じるゼロトラスト(何も信頼しない)の考え方に基づき、事業を展開しています。ゼロトラストを通底に置きつつ、通信ネットワーク、クラウド、エンドポイント(通信ネットワークの末端に接続されたデバイス)を対象にセキュリティー・ソリューションを開発しているのです。
ネットワークセキュリティーでは次世代ファイアウオールを中心に展開しています。未知のマルウエアを自動的に検出して防御する「WildFire」、悪意あるウェブサイトへのアクセスを防ぐ「URLフィルタリング」、DNSサーバーを守る「DNSセキュリティー」などの機能で脅威に対応します。
エンドポイントセキュリティーでは「Cortex」シリーズのプラットフォームで総合的にサービスを提供しています。エンドポイントだけではなく、クラウドやネットワークの脅威を検出し、対応する機能が強みとされています。
8200 unit出身者の企業、パロアルトの成長力際立つ
「8200 unit」出身者が創業したサイバーセキュリティー企業ではパロアルト・ネットワークスとチェックポイント・ソフトウエアのほか、サイバーアーク・ソフトウエアが米国に上場しています。
時価総額ではパロアルトが10月11日時点で約471億ドルに上り、米国株の中で150-160位にランクされます。医薬品のモデルナの少し下で、ゼネラル・モーターズやフォード・モーターのやや上です。
チェックポイント・ソフトウエアは時価総額が約141億ドルで、パロアルトの3分の1にも満たない水準です。純損益ベースで黒字は確保していますが、売上高の伸びが鈍化しており、直近の通期決算の21億6700万ドル。パロアルトの実績である55億100万ドルの半分以下にとどまっています。
2014年にナスダック市場に上場したサイバーアーク・ソフトウエアは時価総額が約57億ドルで、チェックポイントの半分以下。「8200 unit」出身者が立ち上げた企業ではやはりパロアルト・ネットワークスの成長力が際立っているようです。