GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
10代で自動運転システムを開発、20歳で起業
トラックの自動運転ソフトウエアを開発するエンバーク・テクノロジー。年次報告書の取締役の欄をみると、ちょっとした驚きがあります。アレックス・ロドリゲス最高経営責任者(CEO)とブランドン・モーク最高技術責任者(CTO)の年齢はともに26歳なのです。
米国では在学中に起業するケースが多いとはいえ、上場企業の経営ツートップがこの年齢というのはやはり目を引きます。実際、2021年11月に特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じてエンバークが上場した時点で、ロドリゲス氏は米国の上場企業のCEOとして最年少だったようです。
ヤンキースの四番打者を連想させるロドリゲス氏はカナダの出身。中学生のときに世界ロボット選手権で優勝するなど早熟の天才として知られていたようで、カナダのウオータールー大学に進学します。19歳のときに同級生と一緒に大学の「起業コンペティション」に参加し、ゴルフカートの自動運転システムを開発しますが、このときの同級生がブランドン・モーク氏だったのです。
コンペティションで優勝し、大学の投資ファンドから2万5000ドルの資金提供を受けたロドリゲス氏らは、スタートアップ企業を支援するアクセラレーターとして豊富な実績を持つ米カリフォルニア州のYコンビネーターに自動運転システム開発の事業計画を申請し、認められます。ロドリゲス氏はモーク氏らとともに大学を中退してカリフォルニア州に移り住み、20歳だった2016年にエンバークを立ち上げました。
照準はトラック、17年に3800kmの試験運転に成功
ロドリゲス氏とモーク氏は世間の耳目を集めやすい乗用車ではなく、トラックの自動運転システムの開発に特化する方針を決め、本格的に事業をスタートさせます。2017年にはロサンゼルスからフロリダまで3800キロメートルあまりを自動運転トラックで走破する試験運転に成功。2018年には試験運転の走行距離が計10万マイル(約16万キロメートル)を突破しています。
こうした実績が認められ、ビール大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブやパソコンのHPなどの荷主に加え、物流大手のワーナー・エンタープライジズやDHLサプライチェーンなど運輸を担う企業と契約を結んでいます。エンバークが自動運転トラックの実用化の目標に掲げる時期は2024年で、段階的に自動運転システムを提供する計画です。
マッピング技術に強み、リアルタイムでデータ更新
エンバークの主力製品は「エンバーク・ドライバー」という自動運転システムです。特定の条件下で運転を完全に自動化する「レベル4」のカテゴリーで、「ビジョン・マップ・フュージョン(VMF)」と呼ぶマッピング技術に特徴があります。
同社によると、自動運転技術では通常、高精度3次元地図データ(HDマップ)を使うようですが、VMFでは道路の状態などのデータをリアルタイムでアップデートし、自動運転に活用することができます。HDマップではデータ更新が難しいのですが、エンバークはVMFを通じたデータ更新に自信を持っているようです。
というのもエンバークが提供するのは幹線道路の自動運転であり、ファーストワンマイルとラストワンマイルは人間のドライバーに運転を委ねる仕組みです。広大な米国とはいえ、幹線道路の特定区間にはエンバークの自動運転トラックが頻繁に行き交うことになるため、道路情報のアップデートも容易というわけです。
トラックメーカーと提携、製造段階でシステム搭載
同社はまた、「エンバーク・ユニバーサル・インターフェース(EUI)」というプロダクトも発表しています。ボルボ、ダイムラー、ナビスター、パッカーという主要なトラックメーカーと提携し、トラックの製造段階でエンバークの自動運転システムに必要な装置をあらかじめ組み込むというものです。
自動運転を実現するには車載カメラや高性能センサーのLiDAR、全世界測位システム(GNSS)、慣性計測装置(IMU)、コンピューティングシステムなどを搭載する必要があります。ハンドル操作やブレーキ、アクセルなどの制御も必要で、トラックメーカーとの提携は不可欠です。
大手の運輸会社などが複数のメーカーからトラックを購入する点を前提に主要なトラックメーカーと提携しています。エンバークはZFグループやカミンズといったトラック部品の大手とも協力し、EUIを円滑に進める方針です。
SaaSでソフト提供、走行距離に応じて課金
エンバークは自動運転ソフトをクラウドのSaaSベースで提供し、走行距離に応じて課金するサブスクリプション方式を採用する予定です。自動運転トラックの管理は「エンバーク・ガーディアン」というSaaSベースのモニタリング・システムを通じて実行することが可能。顧客企業はこのシステムを使い、トラックの運行状況をモニタリングする予定です。
自動運転ソフトウエアの予約件数は2021年10月時点で1万4200件に達しています。2024年から段階的に納入する予定で、まずはサンベルト(カリフォルニア州からノースカロライナ州に至る北緯37度線以南の地域)で運用を始めます。
米国本土48州への提供を始めるのはその2年後。雪道への対応などを考慮し、時間的な猶予を設けたようです。
売り上げが本格的に計上できるのも2024年以降になります。現状では売上高はほぼゼロで、赤字ばかりが目立ち、SPACでしか上場できなかった銘柄ともいえそうです。ただ、市場予想では2024年12月期に本格的な売上計上が始まり、いきなりEBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)ベースで黒字に転換すると見込まれています。
自動運転という未知の領域だけにシステムの不具合や事故といったリスクはつきまといます。エンバークの思惑通りに進まず、頓挫の危険性もはらみますが、計画通りに進めば陸上の貨物輸送に革命が起きる可能性もありそうです。