次のGAFAを探しています

【次のGAFAを探しています】第14回:リビアン・オートモーティブ(RIVN)「ピックアップトラックという名の高級車」

GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。


ピックアップトラックの電気自動車を開発

車体の後方に荷台を備えたピックアップトラックは米国で非常に人気の高いクルマです。農村部では農作物や作業道具を容易に積み込むことのできる機能が重宝される実用的なクルマですが、都市部では車体をピカピカに磨き上げた高級モデルが走っています。


ピックアップトラックの人気は折り紙付きで、フォード・モーターの「Fシリーズ」のピックアップは2021年まで40年連続で車種別の販売台数トップの座を守っています。仕様や価格帯はさまざまで、用途に合わせて選べるバリュエーションの豊富さが支持されているようです。


根強いピックアップ人気に目をつけたのが2009年に創業した電気自動車(EV)メーカー、リビアン・オートモーティブです。当初は、テスラのようにEVの高級スポーツカーの開発を目指していましたが、競合がひしめく市場に早々と見切りをつけ、軌道修正を図ります。


それがEVのピックアップトラックやスポーツ多目的車(SUV)の開発、生産という路線でした。リビアンは「アドベンチャーEV」というコンセプトを打ち出し、注目されたのです。


ナスダック上場初日に時価総額でフォード超え

ナスダック市場に上場したのは2021年11月で、時価総額は上場初日の終値換算で約860億ドル。この年にようやくEVのピックアップトラックとSUVの販売にこぎ着けたばかりでしたが、40年連続で車種別の販売台数トップの座を維持してきたフォードの時価総額を一気に抜き去りました(その後はフォードが逆転しています)。


現在、一般の消費者向けに販売しているのは、5人乗りのピックアップトラック「R1T」と7人乗りのSUV「R1S」です。「R1T」はフル充電後の航続距離が416-640キロメートルで、「R1S」は416-512キロメートル。バッテリーのパッケージとモーターの選択で変動するようです。


価格は「R1T」が7万3000ドルからで、「R1S」が7万8000ドルからです。現在の為替レートでは優に1000万円を超える価格で、グレードやオプション次第で価格はさらに積み上がります。「アドベンチャーEV」と銘打ち、アウトドアでの使用を想定しているようですが、実際にはピカピカに磨き上げた高級ピックアップトラックとして街乗りの需要が高いような気もします。


一方、商用車の生産にも乗り出しています。アマゾン・ドットコムと共同で設計・開発した荷物配送用の小型トラックで、その名も「エレクトリック・デリバリー・トラック(EDV)」。車高が低く、ボックス型の荷台部分に乗り込んで荷物を積み下ろしできるのが特徴です。



リビアンは2019年にアマゾンから10万台のEDVを受注しました。納車が始まったのは今年7月。アマゾンがラストワンマイルの配送に利用する車両で、配達員の評判は良好と伝わっています。


創業者はMITの自動車研究所で博士号

ここでリビアンの歴史を振り返ってみますと、創業者は現在の最高経営責任者(CEO)のロバート・スカリンジ氏です。1983年に生まれ、フロリダ州のメルボルンという町で育ったスカリンジ氏は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のスローン自動車研究所(Sloan Automotive Laboratory)で学びます。


スローン自動車研究所は1929年に開設された歴史ある研究所で、数多くの優れた自動車エンジニアを輩出した実績で知られています。スカリンジ氏は機械工学の博士号を取得した後、2009年にフロリダ州で自動車メーカーを立ち上げ、後にリビアン・オートモーティブへと社名を変更します。


創業当初は燃費効率の高いクルマを開発し、2013-14年ごろまでに発売する青写真を描きますが、テスラの躍進を目の当たりにしたスカリンジ氏はEVに特化する方針を固めます。その後にEVの高級スポーツカーの開発に見切りをつけ、「アドベンチャーEV」路線にカジを切ったのは前述の通りです。


17年に工場買収、18年に2モデルをお披露目

自動車メーカーとしての転機は2017-18年に訪れます。まず2017年には三菱自動車からイリノイ州の自動車工場を1600万ドルで買収しました。三菱自動車は北米での生産からの撤退を決め、売却先を探していました。


居抜きともいえる工場買収にはメリットが多いようです。生産設備はもちろん、サプライチェーンや従業員の一部をそのまま引き継げるため、一から始めるのに比べて労力はまるで違うのです。テスラが経営破綻したゼネラル・モーターズから工場を買収し、その後に躍進したのと同じパターンと言えそうです。


また、2018年にはピックアップトラックの「R1T」とSUVの「R1S」を初めてお披露目し、一気に注目を集めました。報道によると、2009年の創業以来、工場買収費用などを含めた資金調達についてはあまり知られていないようですが、2モデルのお披露目後に資金調達は容易になったようです。


アマゾンやフォードなどが相次いで出資を決め、テスラの大株主だった投資運用会社ティー・ロウ・プライスも資金を拠出します。リビアンが発表した2022年4月時点の持ち株比率はティー・ロウ・プライスが議決権ベースで16.7%、アマゾンが16.6%、フォードが10.5%で、2021年11月の上場後も3社は大株主です。


22年の生産目標2万5000台、達成の可否に注目

順調に上場にこぎ着けたリビアンの注目点は、自動車販売がどこまで伸びるかというところでしょうか。2021年は生産数が1015台、販売数が920台でしたが、2022年には通年で2万5000台を生産するという野心的な目標を掲げています。



「量産元年」ともいえる2022年の実績は1-3月期の生産数が2553台、販売数が1227台でした。4-6月期は生産が4401台、販売が4467台で、7-9月期は生産が7363台、販売が6584台です。1-9月期の累計生産数は1万4317台と徐々に増えています。10-12月期に生産数が1万台を超え、通期目標を達成できるかどうか株式市場でも注目されそうです。

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中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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