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第25回:フレッシュワークス(FRSH)「南インドのCEO」

GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。


米国を代表する企業にインド出身のCEO

米国を代表する企業でインド出身の最高経営責任者(CEO)が誕生しても最近はあまり驚かなくなりました。インド出身のCEOはマスターカードやペプシコなどのグローバル・ブランドにも広がっていますが、やはりIT企業での存在感が際立っています。


IT企業のインド出身CEOの代表格といえばグーグルと親会社アルファベットのCEOを兼任するスンダル・ピチャイ氏、マイクロソフトのサティア・ナデラ氏、IBMのアービンド・クリシュナ氏、アドビのシャンタヌ・ナラヤン氏の4人でしょうか。


4人はそろってインド南部の出身です。南部にはインドのシリコンバレーと称されるバンガロールがあり、バンガロールには優秀な学生が集まる理工系の大学があります。


4人のうちグーグルのピチャイ氏はバンガロールの南に位置するタミルナドゥ州マドゥライの出身で、西ベンガル州にあるインド工科大学カラグプル校で学位を取得しました。マイクロソフトのナデラ氏とアドビのナラヤン氏はバンガロール北方のハイデラバードで育ちました。IBMのクリシュナ氏はハイデラバードの東に位置するアンドラプラデシュ州の出身です。インド工科大学のカンプール校に通っていました。


企業に顧客管理ソリューションなどを提供するフレッシュワークスの共同創業者でCEOのギリッシュ・マスルブーサム氏はバンガロールの南に位置するタミルナドゥ州トリッチーで生まれ、育ちました。前述の4人のCEOとは企業規模がまったく違うものの、マスルブーサム氏は自ら起業し、ナスダック市場への上場を実現させています。


フレッシュワークスの創業者、チェンナイで学位取得

ギリッシュ・マスルブーサム氏は1975年生まれです。タミルナドゥ州の州都チェンナイで学生時代を過ごし、電子工学を学びます。マドラス大学でMBAを取得した後、インドを代表するIT企業のHCLグループで技術スタッフとして働きます。


その後にステップアップを重ね、ネットワーク経由でソフトウエアを提供するSaaS(Software as a Service)型ビジネスでインドの先駆けとされるゾーホーに入社。幹部として勤務した後に、自立を決意して2010年にフレッシュデスクを立ち上げました。


フレッシュデスクは2017年に社名をフレッシュワークスに変更し、現在に至ります。主要事業は企業の顧客対応や人事管理を支援するソフトウエアの提供で、ゾーホーと同様にSaaS型のビジネスを手掛けています。特に企業によるカスタマーエクスペリエンス(顧客体験価値)の向上に向けた取り組みを支援するツールに定評があります。



プロダクトの柱は、カスタマーエクスペリエンスの向上を支援するツール「フレッシュデスク」、IT企業の技術リソースの配分を適正化して生産性と従業員満足度の向上につなげる「フレッシュサービス」、企業の営業活動の効率化を支援する「フレッシュセールス」の3本です。


顧客対応の支援ツール、5万社以上が採用

「フレッシュデスク」では顧客対応の最前線に立つスタッフを支援し、生産性を向上させると同時に顧客満足度を高めるツールを提供します。電子メールやソーシャルメディアを通じた問い合わせなどへの対応を手助けする「サポートデスク」、企業のコールセンター業務を支援する「コンタクトセンター」、この分野のプロダクトを統合した「オムニチャンネルスイート」などがあります。


顧客からのよくある質問への回答や何度も繰り返されるアクションの自動化を推進するといった手法で効率化を推進します。また、顧客対応のスタッフがカスタマーエクスペリエンスの向上に集中できるように補助業務のワークフローを簡素化できるようなソリューションも提供しています。


フレッシュワークスによると、このサービスの提供を受けている企業は5万社以上。ブリヂストンやツナ缶世界最大手のタイユニオン、オンライン旅行会社のトラビックスなどが利用しています。


「フレッシュサービス」はITサービスマネジメント(ITSM)を効果的に実現するツールです。直感的で使いやすいインターフェースが特徴の統合型プラットフォームで、ITサービスに対する要求事項の管理、ITシステムの構成の管理、システム停止に対する復旧や修正の管理などに対応しています。ホンダやゴルフ用品の米テーラーメイドなどがこのサービスの顧客です。


営業活動の支援ツールである「フレッシュセールス」では担当者の営業活動を一覧表示し、ワークフローの改善につなげる機能を提供します。また、「フレッシュマーケッター」ではターゲットの選定や販促キャンペーンの取り組みを支援します。「フレッシュセールス・スイート」では「フレッシュセールス」と「フレッシュマーケッター」の機能を統合し、営業活動に役立てることを目指します。


世界で事業展開、顧客は120カ国超に分散

こうしたプロダクトを柱とする事業は成長を続けており、2021年末時点の顧客数は5万6000社を超えています。このうち年間の売上高が5000ドルを上回る顧客は前年比28%増の1万4814社、5万ドルを上回る顧客は61%増の1416社に伸びています。


また、特筆すべきなのは顧客が120超の国・地域に分散していることです。インドや中国のIT企業は自国の巨大市場の開拓に重点を置くケースが多く、アリババもテンセントも中国市場にリソースを集中させています。



また、インドのIT企業はタタ・コンサルタンシー・サービシズやインフォシスなどが積極的に海外に展開していますが、システム開発やソフトウエア開発といった受託型のサービスが多いようです。モバイル決済のワン97コミュニケーションズなどの有望企業はやはりインド国内事業に集中しています。


南インド出身のCEOが米国で高い評価を得る中、フレッシュワークスのギリッシュ・マスルブーサム氏も継続的な成長を実現できるか、今後も注目されそうです。

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中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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