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第24回:ギットラボ(GTLB)「ハルキウの家で創業」

GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。


ウクライナのハルキウ、水道のない自宅で創業

ロシアによる侵攻で広く知られるようになったウクライナ南東部のザポリージャ州。2022年9月にロシアが一方的に併合を宣言した州のひとつで、欧州最大級の原子力発電所があることも注目される要因になりました。


この州にはZAZという自動車メーカーが本拠を置いています。ウクライナ語の「ザポリージャ自動車工場」の略語が社名になったそうで、農業機械などの製造から自動車メーカーに転身したようです。


ZAZはソ連の国民車構想の中心的な存在で、1960年代に国民車「ザポロージェツ」の生産を始め、1990年代まで続けています。ロシアのプーチン大統領がKGB時代に愛用していたとのエピソードも伝わっています。


この国民車と同じ名前を持つのが、ソフトウェア開発とIT運用を組み合わせたプラットフォームを提供するギットラボの共同創業者、ドミトリー・ザポロージェツ氏です。


同氏はウクライナ北東部に位置するハルキウ州の州都、ハルキウの出身です。ギットラボがシリコンバレーで注目される存在になり、本社をサンフランシスコに移転した後もハルキウにとどまり続けました。


創業は2011年10月。大学卒業後にプログラマーとしてソフトウエア開発会社に勤務していたザポロージェツ氏が自宅で立ち上げました。ちなみに当時は自宅に水道が引かれておらず、共同井戸に水を汲みに行く毎日だったそうです。


起業の原動力はツールの使い勝手への不満

起業の原動力は、プログラムのソースコードを管理する「ギットハブ」というツールに対する不満でした。ソフトウエア開発会社に勤務していたときに使っていましたが、ソースコード管理のプラットフォームの使い勝手を改良するためにオープンソースプロジェクトの「ギットラボ」を立ち上げたのです。


しばらくは趣味の延長のような状態が続きますが、「ギットラボ」の存在を知ったオランダ生まれのシッツェ・シブランディ氏が加わり、事態は一気に動き始めます。2014年には会社組織としてギットラボを正式に設立しました。役割分担も生まれ、ザポロージェツ氏が技術、シブランディ氏が経営を担います。



この年の終わりには、スタートアップ企業を支援するアクセラレーターとして豊富な実績を持つ米カリフォルニア州のYコンビネーターに支援を申請し、認められました。2016年には資金調達の第2弾に当たるシリーズBに踏み切り、約2000万ドルを調達。顧客数や従業員数も着実に増えるなど、その後も業容の拡大が続きます。


そして2021年10月にナスダック市場に上場しました。ザポロージェツ氏がウクライナの自宅で起業に踏み切ってからちょうど10年後に上場を果たしたのです。


デブオプスのプラットフォームを提供

ギットラボは現在、自らをDevOps(デブオプス)のプラットフォームを提供する企業と位置づけています。デブオプスとは開発(デベロップメント)と運用(オペレーションズ)を組み合わせた言葉であり、ソフトウエアやコンピューターシステムの開発手法を表しています。


この開発手法は、ソフトウエアやシステムの開発担当と運用担当の連携を緊密化することでスピードアップを図る仕組みです。従来は企業などで開発チームと運用チームに垣根があるケースも多く、ときに生じる対立が円滑なシステムのアップグレードを阻害していましたが、デブオプスを通じた開発・運用の円滑化で機能やサービスの改良を迅速化します。


ギットラボが企業などに提供するプラットフォームの具体的なワークフローではマネジメント(プロジェクトのライフサイクルの管理と最適化)、プラン(開発内容の立案支援)、クリエイト(コードやデータの設計・開発・管理)、検証(コードの品質検査など)、パッケージ(アプリケーションのパッケージ)、セキュリティ検査、リリースと配置の自動化、アプリケーション環境の設定・管理、モニタリング(監視とフィードバック)、プロテクト(保護)の順番です。


プロテクトまで来たらまた最初に戻るため、ずっと走り続けるイメージでしょうか。ギットラボのプラットフォームは世界中の10万以上の組織が使用しているようで、NASA(米国航空宇宙局)や米国空軍、連邦住宅抵当貸付公社(フレディマック)などの政府機関に加え、IBM、ソニー、ゴールドマンサックス、シーメンス、バイエル、アリババグループといった産業界を代表するような企業も使っているのです。


顧客数と売上高が急増、赤字も縮小へ

2022年1月末の顧客数は4593に上り、前年の2745から67%増えています。また、年間に100万ドル以上を支払う顧客数は39と前年の20から倍増しています。


業績面でも売上高の急成長が続いており、2022年1月期は前年比66%増の2億5300万ドルと2年前の3倍の水準に達しました。市場予想では2025年1月期には8億ドルを超え、2020年1月期からの5年間で売上高が10倍になる見通しです。



また、2022年1月期には粗利益率が88%と高水準を維持しており、営業費用の増大で最終赤字を継続していますが、今後段階的にEBITDA(利払い・税引き・減価償却前損益)の赤字幅は縮小するとみられています。


一方、ギットラボはリモートワークの先駆けとしても知られています。60を超える国・地域に居住している従業員約1800人すべてがリモートで仕事をしているそうです。共同創業者のドミトリー・ザポロージェツ氏も例外ではなく、水道が通じていない家に住み続けたのかどうか不明ですが、ウクライナからリモートで仕事に取り組んでいたようです。


創業者が退任、ロシア侵攻後もウクライナに居住

そのザポロージェツ氏はギットラボがナスダックに上場した後に会社を離れています。いまもウクライナに住んでいるようで、ときどきツイッターでつぶやいています。


2022年2月26日、ロシアによるウクライナ侵攻の2日後には「ウクライナの勝利を信じている」とツイート。2022年8月には「ホームタウンに毎日、攻撃がある」「血に飢えた隣人などいてほしくなかった」とロシアを糾弾しています。

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中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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