GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
RPAの世界最大手、創業者はルーマニア出身
このコーナーで紹介した企業の創業者の出身国をみると、第5回の「ショッピファイ」がドイツ、第6回の「ユニティ・ソフトウエア」がアイスランド、第7回の「ロイヤルティ・ファーマ」がメキシコです。多様性が米国経済の活力を生み出す源泉という事例としてふさわしいのかもしれません。今回ご紹介する「ユーアイパス(UiPath)」の創業者はルーマニアの出身です。
企業・法人向けに業務の自動化プラットフォームを提供するユーアイパスの創業者ダニエル・ディネス氏は1972年にルーマニアの小さな村で生まれました。国内の大学で学んだ後、29歳のときにマイクロソフトにプログラマーとして就職し、シアトルに移住しますが、望郷の念が募ります。
かといってルーマニアに戻っても良い就職口は望めません。そこで一念発起して起業を決めました。ユーアイパスの前身企業を首都のブカレストに立ち上げ、ソフトウエア開発を請け負うサービスを始めたのです。
事業はなかなか軌道に乗らず、苦境の時期が続きましたが、自前で自動化ソフトウエアを開発する方向に転換し、活路が開けます。特に2012年に顧客企業だったブルー・プリズムに手ほどきを受けたことが転機になり、その後の急成長につながっています。
パソコン作業をロボットで自動化、生産性が改善
転機から10年ほど経過した現在、ユーアイパスは、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)と呼ばれる分野のソフトウエアで世界最大のシェアを握っています。2位はブルー・プリズム。ビジネスの世界ではよくあることかもしれませんが、かつての顧客としのぎを削っているようです。
ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)は、パソコンで行う業務をロボットで自動化する技術のことです。ロボットと言っても人型の機械が出てくるわけでもロボットアームが動くわけでもありません。ユーアイパスは作業を自動化するソフトウエアを開発し、企業などに提供しているのです。
RPAではデータの入力やウェブサイトからの情報収集といった業務上の判断を伴わない定型作業をロボットにまかせます。人工知能(AI)が関与しているとの連想で、ユーアイパスへの注目度が高まることもあるようですが、判断を伴わない作業なので、初期段階のRPAではAIも不要です。
オフィスでの作業の自動化を巡り、これまでは大規模なシステムの変更などが必要でしたが、RPAでは自動化の設定が簡易で、導入のハードルが低くなったようです。
RPAはDXの実現に向けた手段のひとつ
働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大を背景としたテレワークなどを契機に日本でもデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が声高に語られるようになってずいぶん経ちました。RPAはDXの実現に向けた手段のひとつと言えます。
導入費用はかかるものの、人件費を抑えられるというメリットがありますし、自動化したほうが圧倒的に速く、効率的です。しかもRPAは作業するのがロボットだけに当然ながらヒューマンエラーはなく、ミス自体も人間の作業に比べれば少ないようです。
ユーアイパスの日本語版ウェブサイトを開くと、トップページに掲載された「煩雑な仕事はロボットに任せて人間はクリエイティブな仕事を。」というコピーが目を引きます。煩雑な仕事をロボットに任せた人間がクリエイティブな仕事をしているかどうかは別にして、経営者や従業員に刺さる「殺し文句」と言えそうです。
日本企業の生産性の低さは長年にわたり指摘されるものの、なかなか解消できない課題です。生産性を高めるためにも官民を挙げてDXを推進する流れができたようで、RPAも脚光を浴びました。
RPAサービスで世界最大手のユーアイパスにとって、日本は極めて重要な市場です。2022年1月期決算の年次報告書では、31カ国にプレゼンスを持つ中で主要な営業地域として米国、ルーマニア、そして日本を挙げ、特別視しているようです。
2022年1月期の地域別売上比率は米国が43%で、日本が11%です。日本の売上比率は2020年1月期には17%に達しており、米州の売上高が急増し、比率が低下しましたが、日本市場での売上高は依然として伸びています。
人間はさらに「クリエイティブな仕事」に
RPAは今後、一段と進化する見通しです。ユーアイパスもさらに利便性の高い仕組みを開発する方針で、RPAとAIを組み合わせて生産性や効率性を引き上げる意向です。従来型のRPAでは決められた手順で作業し、業務上の変化球には対応できませんでしたが、AIを利用することで応用も可能になるようです。
RPAの進化で企業の生産性は一段と高まりそうですが、人間しかできない業務の範囲はさらに狭まりそうです。人間はますます「クリエイティブな仕事」のほうに押しやられるのかもしれません。