次のGAFAを探しています

【次のGAFAを探しています】第12回:センチネルワン(S)「技術力はイスラエル軍サイバー部隊仕込み?」

GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。


創業者はイスラエル出身、2013年に起業

ロシアとウクライナの戦争が長引いています。日本は戦後、平和を享受してきましたが、世界には周辺を敵に囲まれ、常に緊張状態を強いられてきたイスラエルのような国もあります。


イスラエルは最近になってアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどと立て続けに国交を樹立し、周辺の敵対国は減っていますが、それでもイランやシリアとは今もにらみ合いを続け、ヒズボラやハマスといったイスラム武装組織としばしば交戦しています。


サイバーセキュリティーのソフトウエアを開発するセンチネルワン(S)はそのイスラエルで誕生しました。トーマ・ウェインガート最高経営責任者(CEO)が友人のアルモグ・コーヘン氏らと2013年に創業しています。


常に交戦状態にあるようなイスラエル軍は強力で、サイバー部隊も最先端の技術力を持つとされています。サイバー部隊出身者にはテック企業を立ち上げて成功した人も多いのですが、センチネルワンはやや毛色が異なるようです。


そもそもウェインガート氏とコーヘン氏が出会ったのはイスラエル軍のサイバー精鋭部隊ではなく、テルアビブ郊外の町の小学校。小学生時代の幼なじみが長じて共同で起業し、その企業がニューヨーク市場への上場にこぎ着けるという稀有な例と言えるかもしれません。


センチネルは「哨兵」の意

イスラエルには男女ともに兵役の義務があり、ウェインガート氏は入隊時にイスラエル国防軍の中央コンピューティング・システム・ユニット(MAMRAM)への配属を希望しましたが、かないませんでした。


MAMRAMはサイバー関連のエリート部隊のひとつで、出身者には優秀なプログラマーが多いことで知られています。コーヘン氏も希望の部隊には配属されず、2人はほとんど足跡を残すことなく除隊の時期を迎えます。センチネルワンの「sentinel」は哨兵(見張りの兵士)を意味し、サイバー部隊出身者の技術力を連想させますが、創業者2人に限ればやや肩透かしという印象です。



コーヘン氏は除隊後、サイバーセキュリティーを手掛けるイスラエル企業、チェック・ポイントで職を得ます。チェック・ポイントの創業者は筋金入りのエリートが集まることで知られる軍のサイバー精鋭部隊「8200 unit」の出身。コーヘン氏は取締役になりますが、センチネルワンの立ち上げ時には幼なじみのウェインガート氏と行動をともにします。


センチネルワンはイスラエルで起業し、その後に本社をシリコンバレーに移します。ウェインガートCEOは米国に渡った後、「8200 unitの出身ですか?」といった質問をよく受けたそうで、そのたびに否定する必要があったようです。


エリート部隊出身ではない利点

ただ、ウェインガート氏はイスラエル軍のサイバー部隊出身ではなかったことが成功につながったとも語っています。エリート部隊では出身者による組織が作られているようですが、組織の論理に縛られずに自由に事業を展開できる利点を挙げています。


前置きが長くなりましたが、センチネルワンはパソコンやスマートフォン、サーバーなど通信ネットワークの末端に接続されたデバイス(エンドポイント=Endpoint)でサイバー攻撃を検知(Detection)し、被害の拡大を食い止める対応(Response)をするEDR(Endpoint Detection and Response)ソリューションを開発しています。


EDRはエンドポイントセキュリティーのひとつで、デバイスにデータが到達するまでのネットワーク(中継機器)などを保護するゲートウェイセキュリティーとは異なります。在宅勤務の普及に伴いオフィスのネットワークを守るだけでは不十分で、重要性が高まっているようです。


センチネルワンのEDRは企業や団体などの法人向けで、人工知能(AI)技術を駆使した自立型のプラットフォームとして高い評価を得ています。2022年1月末時点の顧客数は6700を超え、前年同時期の3900に比べて大幅に増えています。



このうち年間収入が10万ドルを超える顧客は520に上り、前年(219)の2倍以上に急増しました。新興企業の例にもれず、純損益ベースでは赤字ですが、売上高が2年連続で倍増するなど急成長を続けています。


エリート部隊の出身者を積極的にスカウト

米国に本社を置き、イスラエルやチェコ、オランダ、フランス、日本、UAEなどにもオフィスを構えています。このうちイスラエルのテルアビブにあるオフィスでは人員の積極的なスカウトに力点を置いているようです。


センチネルワンのウェインガートCEOはサイバー精鋭部隊出身ではなかった利点を挙げていますが、イスラエルのサイバー精鋭部隊「8200 unit」の本部前にはセンチネルワンが人員募集の屋外広告を掲出しているそうです。


自由な立場を維持しつつ、サイバー精鋭部隊の技術力はちゃっかりと取り込む。センチネルワンのサイバーセキュリティーはやはりイスラエル軍のサイバー部隊仕込みといえるのかもしれません。

この連載の一覧
第28回:ウーバー・テクノロジーズ(UBER)「社会インフラの強みと成熟化への抵抗」
第27回:パワースクール(PWSC)「学校運営を円滑に」
第26回:ジェン・デジタル(GEN)「利用者5億人のセキュリティーソフト」
第25回:フレッシュワークス(FRSH)「南インドのCEO」
第24回:ギットラボ(GTLB)「ハルキウの家で創業」
第23回:クラリベイト(CLVT)「1864年の動物誌」
第22回:ダッチブロス(BROS)「オランダ兄弟のキャラメルマキアート」
第21回:トースト(TOST)「飲食店の経営を効率化」
第20回:モービルアイ・グローバル(MBLY)「運転支援システムの先駆け」
【次のGAFAを探しています】第19回:ハシコープ(HCP)「ハシモトさんが創業」
【次のGAFAを探しています】第18回:テラドック・ヘルス(TDOC)「遠隔医療界のアマゾン」
【次のGAFAを探しています】第17回:ギンコ・バイオワークス(DNA)「生きた化石」
【次のGAFAを探しています】第16回:アップラビン(APP)「創業者はイラン生まれ」
【次のGAFAを探しています】第15回:チューイ(CHWY)「ファンド100社が投資拒否の都市伝説」
【次のGAFAを探しています】第14回:リビアン・オートモーティブ(RIVN)「ピックアップトラックという名の高級車」
【次のGAFAを探しています】第13回:パロアルト・ネットワークス(PANW)「筋金入りのサイバー部隊仕込み」
【次のGAFAを探しています】第12回:センチネルワン(S)「技術力はイスラエル軍サイバー部隊仕込み?」
【次のGAFAを探しています】第11回:ライアン・スペシャルティ(RYAN)「マライア・キャリーの声帯に保険?」
【次のGAFAを探しています】第10回:エンバーク・テクノロジー(EMBK)「早熟の天才?20歳で起業」
【次のGAFAを探しています】第9回:パランティア・テクノロジーズ(PLTR)
【次のGAFAを探しています】第8回:ユーアイパス(PATH)
【次のGAFAを探しています】第7回:ロイヤルティ・ファーマ(RPRX)
【次のGAFAを探しています】第6回:ユニティ・ソフトウエア(U)
【次のGAFAを探しています】第5回:ショッピファイ(SHOP)
【次のGAFAを探しています】第4回:スノーフレイク(SNOW)
【次のGAFAを探しています】第3回:ロブロックス(RBLX)
【次のGAFAを探しています】第2回:ルーシッド・グループ(LCID)
【次のGAFAを探しています】第1回:エアービーアンドビー(ABNB)

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

島野 敬之の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております