GAFAはグーグル(上場会社はアルファベット)、アップル、フェイスブック(現在はメタ・プラットフォームズ)、アマゾンの頭文字をとったものです。この4社がデジタル経済の覇者となり、株式市場に君臨しています。GAFAは未来を見据えて挑戦を続けているようですが、盛者必衰は世の常。GAFAの次に備えるのもいいかもしれません。
幼稚園から高校まで
米国の初等・中等教育は「K-12」という言葉で表現されます。大学入学前までの13年間の義務教育期間を示すもので、「K」は幼稚園(Kindergarten)の年長、「12」は日本の小学校、中学校、高校に相当する12年間を表しています。
米国では学区ごとに初等教育と中等教育に区切りが異なり、小学校以降も完全な6-3-3制ではなく、多様な仕組みが採用されているようですが、高校を卒業するまで原則的に無償で教育の機会を得ることができます。
米国では学区(school district)と呼ばれる行政区分が初等・中等教育に関する大きな権限を持ち、地域ごとに特色も異なるようです。学区や学校にとって学校運営を効率化し、運営費用を獲得するための行政手続きを簡素化するためにITの有効活用が不可欠です。
ニューヨーク証券取引所に上場するパワースクール・ホールディングスは、学校運営を円滑にするためのソリューションを提供しています。教育界のデジタル化がほかの業界に比べて遅れており、関係者の多くがデジタルトランスフォーメーション(DX)の恩恵を受けていないとの見方に基づき、DXの採用を呼び掛けつつ事業を展開しています。
SaaSを中心に展開、顧客数は1万4000超
パワースクールは、インターネット経由でクラウドサーバーにあるソフトウエアを提供するSaaSを中心に展開しています。SaaS事業の2021年12月期の売上高は前年比42%増の3億6800万ドルです。売上高全体に占める割合は66%。サブスクリプション(定額課金)モデルが中核です。
顧客数は2021年末時点で1万4000を超えています。生徒数の多さで全米100位に入る学区の9割超がパワースクールのサービスを利用するなどスタンダートになりつつあるようです。また、海外展開にも積極的で、90カ国以上にソリューションを販売し、対象となる生徒の数は4500万人を超えています。
本社はカリフォルニア州フォルソムで、米国をはじめ、カナダとインドで子会社が事業を展開しています。
原点は高校時代に開発、01年にはアップルの傘下に
パワースクールのビジネスの原点は創業者のグレッグ・ポーター氏が1983年に開発した記録用のソフトウエアにあります。ポーター氏はカリフォルニア州サニーベールの高校に通う生徒だったときにこのソフトウエアを開発しています。
その後も開発に取り組み、14年後の1997年にウェブベースの生徒情報システム「パワースクール」が完成。複数の学区や学校が採用するなど成果が出ます。
そして2001年にはアップル(AAPL)がパワースクールを6200万ドルで買収します。アップルの最高経営責任者(CEO)だったスティーブ・ジョブズ氏は教育への情熱で知られており、ポーター氏とは頻繁に話し合っていたといいます。
ただ、アップルは2006年にパワースクールを英ピアソンに売却します。ピアソンは当時、有力経済紙フィナンシャル・タイムズ・グループを傘下に抱えていました。
そのピアソンは2015年6月にパワースクールを投資会社のビスタ・エクイティー・パートナーズに3億5000万ドルで売却します。ちなみに1カ月後の2015年7月には、ピアソンがフィナンシャル・タイムズ・グループを日本経済新聞社に売却することで合意しています。
主力プロダクトは生徒情報システム
買収と売却の対象になってきたパワースクールの主力のプロダクトとしてまず挙げられるのが「パワースクールSIS(生徒情報システム)」です。学校運営に不可欠なデータ管理の中核を担うプラットフォームで、地区、州、連邦のガイドラインに沿って生徒のデータを管理する機能を提供します。
公立学校をはじめ、チャータースクール(特別認可学校)や私立学校でも利用されており、対象の生徒数は1900万人を上回っています。
「パワースクールSIS」では、生徒の在籍確認、学年、出欠状況、健康状態、態度、成績などのデータが一元的に管理されています。学区や学校ごとに異なるニーズに合わせ、ソフトウエアを設定し直すことも可能です。これまでに培った経験に基づき、あらかじめ異なる設定のパターンを準備しており、それらも提供しています。
学校運営の日常作業を効率化する機能を通じ、教師の作業負担を軽減します。また、20年間にわたる投資を通じて規制のデータベースを構築しており、学校運営の予算を獲得するために行政機関に提出する報告書についても容易に作成できるようです。
さらに生徒の保護者が出欠状況、課題、通信簿、教師からのメッセージ、学校からの通達といった情報にアクセスすることも可能です。
学習管理システムも提供
このほかの主力プロダクトには学習管理システム(LMS)の「パワースクール・ユニファイド・クラスルーム」があります。対象をK-12に絞って開発したLMSで、専攻管理、カリキュラム管理、コミュニケーションツール、総合的な査定・分析などの機能を一つのプラットフォームに統合したソリューションです。
生徒の学習履歴や習熟度、成績などを把握することで改善につなげるツールです。このうち「Schoology Learning」と呼ばれるプロダクトは60カ国以上で使われています。
このほかにも高校卒業後の進路選択に利便性を提供する「パワースクール・ユニファイド・コミュニティーズ」、生徒の感情面の状態を監視し、落ちこぼれそうな生徒に対処する「パワースクール・ユニファイド・インサイツ」といったプロダクトも提供しています。
業績は売上高が着実に伸びており、今後も増加が見込まれます。純損益は赤字ベースが続いているものの、段階的に縮小する見通しで、市場予想では2024年12月期決算で税引き前損益ベースで黒字転換を果たすとの見方が有力です。