日々是売買~トレードへの道

第86回「米国『トリプルA』格付け失う 来週は為替協議の思惑も」

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ドル円、買い戻しが続く?

 

今週のドル円は買い戻しが先行しました。米中両国は14日、互いにかけていた関税を115%引き下げたと発表。米国の対中関税は30%、中国の対米関税は10%と大幅に縮小しました。米中緊張緩和が期待されますが、引き下げ分のうち24%は90日間の停止措置で、協議次第では再び上昇する可能性が残るようです。両国は貿易協議の枠組みを新たに設置し、閣僚級協議を続けるとしています。

 

米中両国が関税の大幅な引き下げで合意したとのニュースは今週12日に伝わりました。これを受けて、週明け12日のマーケットでは貿易摩擦が世界経済に悪影響を及ぼすとの懸念が後退したことで、米株式市場でダウ平均が1100ドル超上昇するなど、株価が堅調に推移。投資家のリスク志向が改善し、円売り・ドル買いが優勢となりました。米長期金利の上昇に伴うドル買いも入り、ドル円はこの日のNY時間に148.65円と4月3日以来の高値を付けています。市場では「今回の米中協議で決まった関税率の引き下げ幅は予想よりも大きかった」との声が聞かれました。

 

*Trading Viewより


ドル円は4月22日に一時139.89円まで値を下げましたが、結局昨年9月16日の安値139.58円がサポートとして働くと、そのあとは反発。4月31-5月1日の日銀金融政策決定会合を受けて円安が加速する格好となっています。

 

なお、日銀は政策金利を市場予想通り0.50%に据え置きましたが、同時に公表した4月の展望レポートで経済成長率や物価見通しを前回(1月)から下方修正。また、植田和男日銀総裁は記者会見で「米国の関税政策などの影響で、中心的な見通しを巡る不確実性は従来以上に大きくなった」との見解を示したほか、「見通しの実現確度はこれまでほど高くはない」「次の利上げのタイミングは見通し変更の有無などで前後する」などと発言。市場では「日銀の利上げ時期が不透明になり、早期の利上げには動かない」との見方が広がりました。

 

 

 

投機筋の円買いポジション、拡大は一服も高水準

 

米商品先物取引委員会(CFTC)が5月16日(日本時間17日早朝)に発表した5月13日時点の建玉報告によると、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の通貨先物市場で非商業部門(投機筋)の円の対ドル持ち高は17万2268枚の円買い越し(ドル円のショート)と前週から4591枚減少しました。

 

*CFTCのデータを基にDZHフィナンシャルリサーチ作成

 

投機筋の円のポジションは昨年7月2日には18万4223枚の円売り越し(ドル円のロング)となり、2007年6月(18万8077枚)以来の高水準を記録していましたが、そのあとは一転して円買いポジションを構築する動きが優勢に。4月29日には17万9212枚と過去最大を更新しています。先週、今週はその動きが一服となっていますが、依然として17万枚を超えており、投機筋のポジションが大きく偏っている状況です。

 

「米中両国の関税引き下げ」や「日銀金融政策決定会合」を通過し、ドル円が反発したにもかかわらず、個人的には「ポジションが整理されていない」との印象です。ポジションが非常に偏っている状況に変わりはなく、行き過ぎた「ポジションの偏り」の反動で円安方向に大きく動く可能性は引き続き警戒されます。

 

 

 

週末に不穏なニュース 為替協議の思惑も

 

米格付け会社ムーディーズは16日のNYクローズ直前に、米国の信用格付けを「AAA」から「AA1」に引き下げたと発表しました。政府債務の拡大や利払い費が増加していることが理由。なお、見通しは「安定的」としています。フィッチ、S&Pに続いて「トリプルA」格付けを失うことになりました。

 

なお、ムーディーズは2023年11月に、米格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げており、1年半経過した本日16日に引き下げを行っています。個人的な感想として「何で今!?」です。週明け19日の東京市場がいつも通りネガティブニュースを受けとめる役目を負いそうです。

 

 

 

ドル円の一目均衡表チャートを見ると

 

ドル円の一目均衡表チャートを見ると、今週は見事に雲に頭を抑えられた格好となっています。16日取引終了時点では雲の上限(148.98円)、下限(146.46円)となっており、ここを明確に上抜けることができるかどうかが焦点となっています。一方、転換線は145.51円、基準線144.27円となっており、週末の終値(145.70円)で上回っています。

 

*Trading Viewより


一本調子で円高・ドル安が進むとも考えづらいですが、来週は米関税政策や日米協議の行方次第で値が振れやすい展開も想定されます。日米財務相会談や3回目の関税交渉に大きな関心が集まっており、為替協議の思惑が高まれば、円高方向に進む可能性も。ムーディーズによる米国格下げのインパクトも完全に織り込めていない状況ですので、特に来週前半は丁寧なトレードを心掛けたいところです。

 

 

 

【免責事項・注意事項】

 

本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

この連載の一覧
第86回「米国『トリプルA』格付け失う 来週は為替協議の思惑も」
第85回「投機筋の円買いポジション、やや拡大 過去最大を更新」
第84回「投資家心理は改善 恐怖指数=VIXは順調に低下」
第83回「注目は24日予定の日米財務相会談 為替について協議」
第82回「ドル円『1日の値幅は3円超』 売っても買ってもやられる相場」
第81回「虎の子だったはずのポジションが見事に粉砕」
第80回「円買いポジションの解消に伴う急速な円安・ドル高圧力」
第79回「投機筋の円買いポジション、いよいよ巻き戻しスタートか!?」
第78回「来るか!?行き過ぎた『ポジションの偏り』の反動」
第77回「投機筋の円買い過去最大 行き過ぎた『ポジションの偏り』」
第76回「投機筋の円買いが過去最大に 偏り警戒160円超えを指摘する声も」
第75回「投機筋の円買いポジション、再び6万枚超まで拡大」
第74回「投機筋の円買いポジション、5万4615枚に拡大」
第73回「ドル円、テクニカル的にも売りが出やすいか」
第72回「投機筋、ポジションはほぼフラットに」
第71回「28-29日のFOMC、利下げ見送りが濃厚」
第70回「日銀の追加利上げは織り込み済み」
第69回「ドル円は半年ぶり高値 ロングは維持したい」
第68回「やっぱり7月3日の高値161.95円突破を狙いたい」
第67回「ドル円、またまた160円台を目指していくのか」
第66回「日銀の年内利上げ観測後退 1月すらも怪しい」
第65回「感謝祭ウィーク週末のNY午後(日本の夜中2時)」
第64回「投機筋のユーロ売りポジション、再び5万枚に迫る」
第63回「クリスマスラリーに向けて仕込み時か!?その2」
第62回「クリスマスラリーに向けて仕込み時か!?」
第61回「投機筋、円買いポジションを大きく縮小」
第59回「投資の格言『損切りは早く、利は伸ばせ』」
第58回「円安予想で投機的ポジションを再び積み増し!?」
第57回「高市氏勝利を期待したポジションが含み損」
第56回「残暑厳しくも年末ラリーを期待する季節」
第55回「ドル円は年初来安値 歴史的な円安進行は終わり!?」
第54回「ブラックマンデーの再来!?!?(1カ月ぶり2度目)」
第53回「いろいろ底打ち? 日経平均は1カ月ぶり高値」
第52回「ドル円、二番底確認か?底割れか?」
第51回「投機筋のポジション、まさかの円ロングに」
第50回「株も為替もセリング・クライマックス」
第49回「植田総裁が突如タカ派路線、円高と株急落招く」
第48回「投機筋の円売りポジションが10.7万枚まで大幅に減少」
第47回「ヘッジファンドによる円売りポジションが急減」
第46回「ドル円、ピークアウトか 押し下げ介入?のサプライズ」
第45回「ドル円、またまた37年半ぶりの高値を更新」
第44回「ドル円、37年半ぶりの高値 当面は円安・ドル高基調か」
第43回「ドル円、34年ぶりの高値160円に接近 介入は困難か」
第42回「注目のFOMCを通過、今年の米利下げ予想1回に」
第41回「米雇用統計でFRBの年内利下げ観測が後退」
第40回「ドル円、介入規模は過去最大 ただ効果は1カ月」
第39回「ドル円、再び157円台に 介入は困難!?」
第38回「投機筋の円売りポジションが急減 介入受け」
第37回「政府・日銀、投機筋との攻防は長期化の可能性」
第35回「個人投資家の円買いvs投機筋の円売り」
第34回「介入期待もあってユーロ円のショートは維持」
第33回「久々のリスク・オフのムード 株安・原油急騰・円高」
第32回「ドル円、嵐の前の静けさか? 今週の値幅は1円未満」
第31回「中銀ウィークを無事通過!? ドル高・円安を期待」
第30回「ドル円ロングは維持、ストップは付かずに切り返す」
第29回「ドル円、上値重く 日銀の政策修正観測高まる」
第28回「【祝】日経平均株価、史上最高値 ドル円もそろそろ」
第27回「日経平均株価、史上最高値まであと少し」
第26回「ドル円、上値試すか 昨年11月の151円台も視野」
第25回「注目のFOMCタカ派寄りもドルは下落」
第24回「ドルと円、それぞれの買い要因が綱引き」
第23回「ドル円ショートは損切り 円安とドル高のダブルパンチで」
第22回「ドル円、1カ月ぶり146円台 追加でショート」
第21回「ドル円、年始の悪夢 1月3日のフラッシュクラッシュ」
第20回「ドル円、売りシグナル点灯 さらなる下落に期待」
第19回「ドル円、140円割れが視野に」
第18回「米債ロングは利食い FRB議長発言を前にポジションはなし」
第17回「米長期金利、2カ月ぶり低水準 上昇リスクにはなお注意」
第16回「米国債のロングポジション、含み益が拡大」
第15回「米国債のロングポジション、含み損から含み益に」
第14回「米10年債利回り、16年ぶりに『5%』を突破」
第13回「米国債、下落止まらず 利回りは2007年7月以来の高水準」
第12回「初めての米国債(CFD)買い、そろそろ底打ちかと思ったら・・・」
第11回「下手な難平(なんぴん)、素寒貧(すかんぴん)」
第10回「日経ロングはキープもリスク高い週末 米政府機関の閉鎖はほぼ確実に」
第9回「日経225ロング、含みゾーン(損)に突入!」
第8回「日経平均、レジスタンス突破でいよいよ3万4000円台乗せか!?」
第7回「日経平均、9連騰ならず テクニカル的には・・・」
第6回「日経平均をロング トレンドは友達(Trend is your friend)」
第5回「重要イベント通過もポジション取れず・・・相場は乱高下」
第4回「朝起きたらポジションが全てなくなっているという悲しみ」
第3回「ドル円、ストップロス水準に接近 祝日のため円安けん制発言も期待できず」
第2回「前週のドル円ショートはあえなくストップ 懲りずに再in」
第1回「ドル円、乱高下のあと何故か全戻し 戻りは叩く」

為替情報部 アナリスト

中村 知博

鹿児島出身。2007年国際金融情報サービス会社に入社。 外国為替取引会社・金融機関への24時間リアルタイム金融情報サービスの為替記者として従事。市場動向や見通しなどを解説する動画サービスの業務も経験。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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