1年の振り返りのなかで、2023年の資産運用の結果を分析する人も多いでしょう。「投資」は大晦日で終わるものではないため、年の代わりは単なる通過点に過ぎません。ただ心境的に、投下した運用資金に対して現時点の評価額がどうなっているかは1年のスタートにまとめておきたいものです。その時に意識したいのが相続です。
資産運用の結果は次世代に引き継がれる
現金を含む資産には相続税が課税されます。多くの人がこの仕組みを認識しており、不動産や生命保険といった評価額を活用することによって、相続税の負担を軽減します。また、ここ10年は生前贈与が広く知れ渡りました。年間110万円までの暦年贈与や教育、結婚・子育てなどの一括贈与の非課税措置などを活用する人も増えました。
ふと、このなかに株式や投資信託が入っていないことに気がつきます。相続が起こった際に株式会社の株を所有している場合、所有権は相続人に承継されます。その株式が上場株の場合と、非上場株の場合に分けて見ていきましょう。
上場株の相続
上場株の相続の場合、以下の4つの価額のうち、もっとも低い金額を採用します。
・相続があった日の終値
・相続があった月の終値の平均値
・相続があった月の前月の終値の平均額
・相続があった月の前々月の終値の平均値
相続があった日が土日祝であれば、相続発生日にもっとも近い日の終値を計算します。興味深いのは2段目の「相続があった月の終値の平均額」です。ある月の1日に相続があったとすると、その月の31日(月によっては30日)の平均額が著しく変化することも充分に考えられます。とはいえ上場株の終値は、誰でも確認できる数字です。
個人投資家として上場株を所有している人は、いま自分が所有している銘柄がどれくらい変動幅があるのかを、相続に向けたリスクヘッジの一環として認識しておきたいものです。
非上場株の相続
一方、非上場株の相続は評価額を算出します。その会社の事業規模や売上・利益といった業績が基準になりますが、類似した事業を行う競合社の株価を参考にするなど、複数の算出方法があります。非上場株の算出に詳しい税理士などの専門家を活用しましょう。
非上場株の相続で気をつけたいのは、株式の発行会社側で無断譲渡が禁じられている場合がある点です。通常、非上場株は上場株のような自由な売買という流動性を前提としたものではありません。第三者への譲渡は有料・無料を問わず、発行会社の取締役会や株主総会の決議を必要とする場合が多いです。
この仕組みですが、当然ながら相続による株券譲渡も対象となります。非上場株購入時の契約書に相続(もしくは特定の相続人への譲渡)が明記されている場合もありますが、ベンチャーなどの発行会社は相続と第三者への譲渡を区分けしていない場合が多いでしょう。
非上場株の購入は2010年代からスタートアップブーム、株式型クラウドファンディングで盛り上がった一方、換価や譲渡の難しい株式でもあるため、塩漬けとなっている投資家も多いでしょう。所有状態のまま相続を迎えたときにどうなるかは、時代による今後のポイントといえそうです。
2024年のスタートにいまの状態を記録に残しておきたい
不動産を代表とする資産と比較すると、株式所有は個人投資家のみで完結している人が多い印象を持ちます。証券会社が投資家と綿密にコミュニケーションを取っていたときは、家族も含めて証券会社の職員と顔見知りだったケースも多くありました。
最近の主流であるインターネット証券はどうでしょうか。セキュリティの側面もあり、家族に所有株の状況を共有している人は少なくなりました。配偶者と突然の別れなどにより相続が発生した際、相続資産を把握する相続人はインターネット証券会社に対して、家族である証明から始めなければなりません。煩雑な相続の手続きのなか、ネット証券の状況把握は大きな負担になるでしょう。
だからこそ家族に向けて、現時点の証券ポートフォリオを記録に残しておきたいものです。配偶者などの相続人が投資に慣れていれば、所有銘柄の共有や相続時の売買方針などを定めておくのも必要です。もし不慣れならば、ネット証券会社のコールセンターやサービスセンターの連絡先と、IDやパスワードを共有しておくとよいでしょう。
2024年1月からNISA新制度が始まります。投資家1人における年間取引上限額が拡大することもあり、これまで投資を控えていた人が始めるきっかけとしたり、投資にかける金額や時間を拡大したりするきっかけになるでしょう。
家族全体の資産ポートフォリオ構築を視野に入れる不動産や生命保険と異なり、証券はきわめて当人性の強いものです。だからこそ1年の区切りともいえるスタート時に、いまどのような状態なのか、可視化する時間を取ることをお勧めします。