老後のお金のはなし

金融の知識は「生活スキル」、投資で生きる力を育もう

最近、金融に関する調査の多くが、「若い世代で投資を始めた人が増えた」「20歳代・30歳代でつみたてNISAの利用者が増えている」という結果を示しています。一方で、商品性をよく理解しないまま投資をしている人も増え、「勉強しなければ投資はできない」という声も耳にします。けれど、私はそう思っていません。

 

運用をしている人が増えています


金融広報中央委員会(事務局・日本銀行)が、全国の18歳以上の3万人を対象に2022年2~3月に行った「金融リテラシー調査(2022年)」でも、他の調査結果と同様、若い世代でリスク性資産を購入する人が増えています。

 

「過去に1か月の生活費を超える金額のお金を運用したことがありますか」との質問では、回答者全体の26.9%が「運用を行った」と回答。年齢層が高くなるほど、運用した人の割合は多くなっています。

 

年齢層別では、18~29歳は20.2%。全体より6ポイントあまり低いですが、前回調査(2019年)が13.8%、前々回調査(2016年)が11.6%と、回を追うごとに増えています。特に前回調査からの3年間で6.4ポイント増というのは目を引きます。

 

「金融リテラシー」とは


と、ご紹介しましたが、「金融リテラシー調査」の目的は金融商品の利用調査ではありません。日本の18歳以上の個人について、お金の知識・判断力の現状を把握するのが目的です。

 

「金融リテラシー」とは、一般に、金融に関する知識や判断力を指します。金融広報中央委員会では、「金融に関して健全な意思決定を行い、金融面で個人の幸福を達成するために必要な金融に関する意識や知識、技術、態度、行動の全般」と定義しています。

 

一昔前なら、金融商品の購入や投資は、金融機関の店舗で窓口担当や営業職員から話を聞いて取引をしていました。けれどインターネットやスマートフォンアプリなどのオンラインで気軽に取引ができるようになり、さまざまな金融トラブルが発生しています。

 

そこで求められるのが金融リテラシーの向上です。金融リテラシーは、金融商品に限らず、一般の消費生活の中でも有効です。国民の一人ひとりが金融や経済についての知識を高め、自分の頭で考え、判断して行動できるようになる、「生きる力」を育むための取り組みが広がってきました。高校の授業で金融経済教育を取り扱うことも、その一つです。

 

商品性を理解せず外貨投資をしている人が増加


冒頭で紹介した「金融リテラシー調査」では、株式、投資信託、外貨預金・外貨MMFのそれぞれについて、購入したことがあるかを調べています。調査は3年ごとに行われ、過去3回分の調査結果を見ると、いずれも増えています(グラフ1)。


 

2019年と2022の間には、新型コロナウィルスが発生し、感染が広がりました。直後には世界中の株価が急落し、株価に割安感が出たことや、コロナ禍での外出自粛によって投資に費やす時間や資金が増えたこと、特別給付金の支給で臨時収入があったことなどが、投資をする人が増えた理由として考えられます。

 

健全な金融市場のためには、投資家層が広がるのはとても良いことです。けれど、必ずしももろ手を挙げて喜んでもいられません。(グラフ2)は、株式、投資信託、外貨預金・外貨MMFを購入した人のうち、「商品性については、あまり理解していなかった」「商品性については、理解していなかった」と回答した人の割合です。



投資信託は、株式や債券、不動産などを組み合わせた金融商品で、そもそも理解するのが比較的難しいものですが、理解せずに購入した人の割合は徐々に低下しています。2022年に外貨預金・外貨MMFが大きく増加。特に若い世代で商品性を理解せずに購入した人の割合が多くなっています。

 

これまで、金融業界では、高齢者に対する投資勧誘についての注意喚起が厳しく、購入時に確認書や承諾書などの書面を取り交わしていました。この結果を見ると、若い世代に対して、金融リテラシーが向上する取り組みにもっと力を入れなければならないのではないかと感じます。

 

金融リテラシーがなければ、投資をしてはいけないのか?


では、投資をする前には勉強を重ね、十分理解してから購入すべきなのでしょうか。

 

私はそうは思いません。投資を行う中で、経験から学ぶことは多いからです。もし失敗しても生活に影響がない程度の少額で投資をし、経済環境や金融市場の変化に応じて、投資資金がどのように変動するのかを経験することが大切だと思っています。

 

確かに、金融リテラシーは重要です。けれど、「勉強しなくちゃ」と繰り返し唱えている個人投資家の方や、セミナーに毎回お越し頂く常連さんの中には、行動せず頭でっかちになっている方が一定数いらっしゃいます。机上での学びよりも、投資経験から得られる学びの方が身につくと思います。状況が変わる中で、さまざまな考えを巡らせ、自分なりに対処する経験を1回でも多く積むことで、金融リテラシーは育まれていくのではないでしょうか。

 

投資をしている人は、生活スキルが高い


「金融リテラシー調査」では、さまざまな属性グループごとに、金融知識・判断力に関する特徴をまとめています。回答者はリテラシーに関する53の問題を解き、その回答から、金融知識や判断、行動特性、考え方などについて集計し、各属性の特徴を分析しています。

 

属性は、年齢層、職業、年収、居住する都道府県といった一般的なカテゴリのみならず、金融教育を受けた人・受けない人、住宅ローン契約者、消費者ローンの契約者、生命保険契約者、金融経済情報を全く見ない人、といったグループ分けもあります。

 

どれも興味深いのですが、ここでは、投資を幅広くしている人と全くしていない人の違いをご紹介しておきましょう。



「卵が先か鶏が先か」問題と同様、投資をしているから知識や判断力があるのか、知識や判断力があるから投資をしているのか、それはわかりません。

 

ですが、3商品に投資をしている人と、いずれにも投資をしていない人の間では、家計管理の項目では「緊急時に備えた資金を確保している人の割合」、生活設計の項目では「お金について長期計画を立て、達成するよう努力している人の割合」「老後の生活費について資金計画をたてている人の割合」の結果に大きな開きがありました。

 

私は、投資は資金を殖やすだけが目的ではないと思っています。アンケート調査を行っている金融広報中央委員会では、金融リテラシーを「生活スキル」と位置付けています。投資は、生活全般にわたって、いえ、一生にわたって、よりよく生きるために意義のある行為なのではないでしょうか。

 

【参考サイト】

金融広報中央委員会 知るぽると「金融リテラシー調査(2022年)」

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ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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