10年20年先を見た投資はライフプランにおいて大切です。筆者は人生において教育費を意識する時期は2回あると考えています。1度目は幼子を学校に送り出す段階です。もう1つは子どもが大きくなって家族を持ち、自分たちにとって孫を育てる際に資金拠出をする段階です。
教育や住宅購入において子どもに提供した資金は非課税になる
子どもも巣立って残りは夫婦でお金を使おう。そう思っても可愛い孫を見ると、この子が育つにあたって金銭的な補助をできないものかという気持ちにもなります。現在の日本は高齢者世代が多いです。貯蓄率も高い現状から子どもや孫に対し住宅購入や教育などの特定用途で資金を贈与した場合に贈与税の対象にならず、非課税となる措置が運用されています。
教育資金贈与特例と住宅購入資金贈与特例
親や祖父母から30歳未満の子どもや孫に対し、教育用途の贈与については1人あたり1,500万円が非課税となります。また1000万円までの住宅購入費用も非課税となります(省エネ住宅は1000万円まで。省エネ住宅以外における非課税枠は500万円まで)。また結婚・子育て費用においても同様に1000万円まで非課税の制度があります。
当初教育資金は贈与後3年経てば相続資産は含まれない仕組み「だった」
この制度を活用しての生前贈与は活発に行われています。ただ同制度には、特定贈与後3年以内に贈与者が死亡した場合は相続税の課税対象に組み入れられる規定があり、制度活用のうえでネックとなっていました。特定贈与の残債が適用されるため、使っていない贈与分を極力少なくしましょう、というアドバイスが専門家から顧客へ発信されていました。
当然ですが贈与者は自分がいつ亡くなるのかわかりません。そろそろ身体の調子も悪いし、となってから特定贈与を活用しようとしても、相続直前における駆け込み贈与と見なされ課税の対象になっていました。課税対象を抜けられる期限は3年です。3年経てば特定贈与を受け使い残していた贈与残額も相続税がかからないという仕組みでした。
2023年現在、この3年の規定が継続しているのは住宅資金贈与のみです。教育資金、結婚・子育ての特定贈与については、令和3年税制改正にて3年が撤廃され、特定贈与後何年が経過したかにかかわらず相続資産に組み込む制度となりました。
住宅資金贈与の相続組み入れも既に3年以内ではない
残った住宅の特定贈与についても、2022年末の税制改正によって現行の3年から7年に拡大される法改正が予定されています。つまり、長いライフプランのなかで「この制度を使って家族(直系尊属)間で税負担のない資金移動をしよう」と考えていたライフプランに反し、10年以内のきわめて性急なペースで法改正がなされ、制度設計が大きく変わっていくことが読み取れます。
これまで日本で相談サービスといわれるものについては、生命保険や証券購入など商品購入に繋がる前の無料相談という意味合いが強く、どうしてもスポットの課題に対して専門家の力を借りるという側面がありました。これは富裕層、一般層という属性に限った話ではなく、全般的な傾向です。
ところがこのように性急な制度改正を見るに、スポットでは変更のスピードについていけないことが懸念されます。理想としては家計や資産運用のパートナーとなる存在を継続的に確保することですが、富裕層でもないとなかなか難しいかもしれません。保険販売、証券販売といった仕事ではなく、FPやIFAといった継続的なライフプランや資産運用、そして相続・贈与の活用方法に対応できる人間がより求められていると強く感じます。
懸念すべきは古いオウンドメディアを見ての情報判断
この時に懸念すべきは、これだけインターネット上に溢れている情報を見て、最新改正を掴むことなく意思決定することの恐さです。令和3年贈与税改正や今回の税制改正は、それなりの専門家であれば当然に把握していることでしょう。
ただ、その専門家の書いたメディアの記事や、専門家がファシリテータで参画したホームページ、シミュレーションサービスなどは様子が異なります。旧制度を反映して、ブラッシュアップしていないメディアも散見されます(むしろブラッシュアップされていないものの方が多いかもしれません)。その情報を最新と信じて疑いもなく、専門家の確認も取らず旧情報でライフプランを組むというリスクが、筆者には懸念に映っています。
高齢者世帯にとって、子や孫に生前贈与を活用するのは投資の側面もあります。本来投資において税解釈が誤っているのは仲介役の責任問題ですが、今回の相続・生前贈与まわりではその誤用が各所で頻発するのではという懸念があります。我々は記事の書き手として、ここに最新情報を把握できないことの隠れたリスクがあると強く発信し、誤った解釈を1件でも減らしていきたいものです。