相続の準備をしようと思うのは、亡くなる何年前でしょうか。当然ながら人はいつ亡くなるかはわかりません。その対策として多くの方は相続の発生する一定期間前に贈与を行います。税金面も同様で、これまで相続対策を目的とした生前贈与などの対策は、相続発生の3年前まで完了すれば大きな問題がありませんでした。
ところが2024年からこの制度が7年に変更されます。この対象期間延長は、相続対策の方向性を大きく変えるとても重要なものです。
相続資産の組入とは?
まず、これまでの3年ルールを理解しましょう。相続税は資産を所有していた人(被相続人)が亡くなり、資産を承継した人(相続人)が承継額による税金を支払う仕組みです。
一方、被相続人が元気なうちに、資産を特定の人に承継される仕組みが贈与(生前贈与)です。相続にも贈与税がかかりますが、相続のように資産を分割する仕組みではないため、資産を送りたい人に希望額を送ることができるようになっています。
・相続 被相続人が亡くなったときに、法律にもとづいて遺産を配分
・贈与 いずれ被相続人となる人が生前に、希望にもとづいて特定の人に資産を承継
つまり相続で資産が誰にどれくらい渡るか、被相続人はコントロールすることができません。そもそも死後なので、思い通りに相続が進まなかった場合に異議を唱えることもできません。よって多くの人は、相続よりも贈与で資産を送ろうと考えます。
そこで具体的な方法として活用できるのが、暦年贈与と呼ばれる制度です。相続や贈与まわりに詳しくはなくても、この暦年贈与だけは知っているという方も多いでしょう。
個人投資家の皆様が運用によって蓄えた資産は、理想をいえば天国の生活に持参したいものです(なかには行き先が天国では無い方もいるそうですが)。もちろん、それは叶わぬ望みです。現世に資産を置くときに、元気なうちに資産の行き先を定めることが大切です。
暦年贈与
暦年贈与は、1月1日から12月31日までのあいだで、1人につき110万円までの贈与は非課税となる仕組みのことです。金額内の贈与は、税務署への申告も不要です。毎年110万円以下で贈与を行い、将来の相続税の課税対象を少なくします。その時に気になるのが、贈与を行ってから3年以内に相続が発生した場合、贈与した資産は相続税の対象として課税対象となる仕組みでした。
2024年1月の贈与から3年→7年になった
言い換えれば贈与を実施して3年の時間が経過さえすれば、相続税の税負担は回避することができるものでした。2024年1月の相続からは、この3年が7年になります。この変更は現在、相続最大のトピックといえるでしょう。
3年で相続税の対象から外れるのと、7年間対象であり続けるのは、資産を送る方はもちろん、資産を受ける方にとっても大きく意味合いの異なるものです。3年先ならば何とか予想はつくけれど、7年先ならば自分がどうなっているかはわからない。ライフプランにおける不透明感は大きく増します。
特に個人投資家の皆様にとっては、いつ自分の資産から手放して次世代の所有とするか、タイミングはとても重要です。制度改定を受け、専門家を交えながら今一度自分の相続対策を再点検することをお勧めします。専門家界隈ではとても話題の変更点ですが、一般の方々まで浸透しているとは言い難いものです。
相続時組入れの対象範囲拡大によって私たちの相続が変わること
今回の変更のように、これからも相続の仕組みは定期的に変わっていくことが予想されます。制度途中での変更点なども重なり、専門家でも「最新の制度はどうなっているかな」となるほど複雑です。現行の制度で終わりではなく、これから相続と贈与が一本化するといった根本的な制度改定が導入されるとの予測もあります。
人はいつ亡くなるかわかりません。それと同時に、いつまでも自分の意志で資産を動かせる個人投資家であるかもわかりません。自分に適切な意思決定力が無くなるなら、円滑に子どもたちに承継したいと思うのも本音でしょう。ただ、現在の日本の相続の仕組みは正反対に設定されています。
意思決定力が無くなれば資産は動かしにくくなる
たとえば認知症になると、基本的に資産を子どもたちなど将来の相続人に移行しづらくなります。スムーズに移行するには生前贈与、もしくは昨今注目されている家族信託などを通して、元気なうちに資産が承継される道筋を整えておくのが正解です。それにより自分が思うような運用がしづらくなる可能性はありますが、同時に自分が思うような相続を実現するためのトレードオフの関係といえるでしょう。
このあたりは完璧な制度設計とはいえないため、今後も折を見て変わっていくか、周辺の仕組みが整備されていくことを視野に入れて、資産移行のプランを組み立てていきましょう。際立った動きがあれば、当メディアでも引き続き解説していこうと考えています。