年収を最大4割引き上げ
ファーストリテイリングは2023年1月11日、同年3月から国内のグループ従業員の年収を最大で約4割引き上げると発表しました。
同社発表資料によれば、報酬アップの一例として、現行25万5000円である新入社員の初任給を30万円に(年収で約18%アップ)、入社1~2年目で就任する新人店長は月収29万円を39万円に(年収で約36%アップ)、その他の従業員も、年収で数%~約40%の範囲でアップする予定とのこと。
発表を受けて、新聞やテレビなど各メディアで「初任給30万円」「年収最大4割引き上げ」などのタイトルで盛んに報じられ、話題になりました。
ファーストリテイリングでは報酬改定にあたって、「改定を世界各地で進めており、今回は特に、海外に比べて報酬水準が低位に留まっている日本において、報酬テーブルを大幅にアップするとともに、これまで以上に成長意欲と事業への貢献能力に基づいて個々の人材に報いることができるよう、人事制度を見直すことにしました」とのメッセージを公表しています。
海外に事業展開を進めるファストリでは、給与を世界水準に近づける取り組みは必須だと、会社側も考えているようです。
有価証券報告書よりDZH作成
そのファストリですが、平均給与はどのようになっているのでしょうか。同社の平均年収は直近の22.8期時点で959万円とかなり高額です。18.8期では877万円でしたから4年で約9%上昇したことになります。これは同社の業績が4年で拡大してきたことも無縁ではありません。この間に純利益は1548億円から2733億円まで77%も増加しました。
ここまでの説明で、もともと高額な給料なのに、そこから最大4割も給料引き上げて人件費の負担は大丈夫なのか、と気になった方もいるかもしれません。ですが、1月11日付の日本経済新聞朝刊の記事によれば、人件費の負担はおよそ15%増にとどまるもようです。
同記事によれば、今回賃上げの対象となるのは、ファストリ本社やユニクロなどで働く国内約8400人が対象。同社の従業員は22.8期時点でファストリ本社がおよそ1700人、国内ユニクロ事業が同1万3000人。GU事業が同5000人となっています。さらにこれにアルバイトが約3万70000人いるのですが、アルバイトについては2022年9月に改訂済みということで今回は対象になっていません。
グループの正社員約2万人のうち、給料アップの対象は半分以下ということなので、誰も彼もが年収アップというおいしい話ではないようです。
同社では職種・階層別に求められる能力や要件を定義し、各従業員に「グレード」が付与されており、給料もこのグレードによって決まるシステムということなので、一律に給料を何%アップということではなく、できる人により高い給料を支払う仕組みとし、海外と比べて給与水準が低いと言われる現状を改善する意図があるのでしょう。そのことは会社からのメッセージからも読み取ることができます。
では、会社の中でも能力があるとされ、経営を左右する役員の報酬についてはどうでしょうか。代表取締役の柳井正氏の報酬が4億円でトップとなっています。これは基本報酬が2.4億円に変動報酬1.6億円を加えたもので、変動報酬はいわゆる成果報酬となります。
先ほどグレードの話をしましたが、役員も変動報酬に5段階のグレードを設け、目標に対する達成度で算出される仕組みとなっています。22.8期の同社の純利益は過去最高益となるほど好調でしたから、変動報酬も高かったと推測できます。社員も役員も実力主義で給料が決まるのはグローバルに展開する同社にとって、必要な要素でもあるのでしょうね。
折しも岸田政権が賃上げを企業に要求し、春闘ではどれだけの企業が対応するのか注目されています。ファストリが賃上げの先陣を切ったことで、各企業もそれに続く流れとなるのか、非常に興味深いところです。