くら寿司は6月4日、会社設立以来初めて、全社員を対象にベースアップ(ベア)を実施し、全国の1700人の社員に対して月額3万円の給与増額を実施したと発表しました。
これにより、来春2025年に入社する新入社員の初任給は、これまでの23万円から26万円になるということです。
飲食業界では賃上げの動きが広がっていますが、これは業界全体で人手不足が深刻化していることへの対応という面が大きいように思います。物価の上昇が続くなかで、従業員に対して給与の増加を実施することは、社員のモチベーション維持と企業の魅力を高める重要な手段となります。
回転すしチェーンは競争が激しいイメージがありますが、同社のライバルとなる「はま寿司」を運営するゼンショーホールディングスでも賃上げを実施していますし、かっぱ寿司を運営するコロワイドも同じくに賃上げを行っています。
当然、くら寿司でも賃上げをしっかり行わなければ、他社に転職してしまう、というケースも出てくるでしょう。ただでさえ人手不足のなかで、人材の流出は是が非でも防がなくてはなりません。こうした事情が飲食業界全体で賃上げの動きが広がっている要因の一つであると考えています。
同社の平均年収の推移をみると、2020年10月期には455万円、翌2021年10月期には454万円となっていましたが、コロナ禍から回復してきた2022年10月期には463万円とやや上昇。2023年10月期は460万円となっています。
日本全体の平均年収458万円(令和4年分民間給与実態統計調査による)とほぼ同水準ということになりますが、前述したように大幅なベア実施により、年間36万円の増額となりますので、この数字も500万に迫る水準となるかもしれません。
社員1700名が年間36万円の給与増額ということは、年間では6億円強の人件費増ということになります。同社の2023年10月期の純利益は8億6300万円ですので、非常に大きな負担増であると言えます。それでも賃上げを実施しなければ、前述したように社員をつなぎ留めておくことが難しくなります。
退職者が出れば、当然新たに採用活動をしなければなりませんし、採用した社員を育てることも必要です。それらを行うのにもまた別途お金が必要になりますので、結局のところ、今いる社員のエンゲージメントを高め、安定した労働力を確保することがコストメリット的にも優れているということになります。
国内1700名の社員に加え、くら寿司USAなど、海外の連結子会社についても人件費は上昇していると思われます。海外子会社の平均年収が有価証券報告書には記載されていませんが、特に米国などでは賃金上昇とインフレが日本以上に深刻ですから、おそらく賃上げの動きは出ているはずです。
北米の従業員数は2021年10月期に181名だったのが、2022年10月期には238名、2023年10月期には289名と伸び率では日本以上の増加ペースとなっています。アジア地域も2021年10月期に474名、2022年10月期が同474名、2023年10月期に659名と増加しており、海外展開を進めている同社にとって人材の確保は非常に重要な問題と言えるでしょう。