ゲームメーカーのカプコンは2024年3月、2025年春に入社する新入社員の初任給を6万5000円引き上げ、30万円にすると発表しました。率にすると27%もの大幅な引き上げとなります。加えて、新年度より新入社員以外の正社員についても平均で5%を超える昇給を行うとしています。
それにしても6万5000円、27%もの引き上げはインパクトがありますね。実はゲーム業界では、近年、人材獲得競争が激しさを増していることから、初任給の引き上げが各社で相次いでおり、30万円の初任給は珍しくない状況でした。
そのなかでカプコンは前述したように引き上げ前の水準が6万5000円低かったとも言えるわけでしたから、いかに大企業といえども優秀な新人を獲得するためには、給与の引き上げは必須の状況だったとも言えるかもしれません。
ちなみに、参考までに他社の事例を挙げていくと、バンダイナムコHDは2022年に初任給を23万2000円から29万円に引き上げているほか、コーエーテクモは2022年に同23万4000円から29万円引き上げ、さらに2023年に29万円から30万5000円に再度引き上げています。わずかではありますが、大手メーカーのなかではコーエーテクモが初任給ではもっとも高給と言える水準です。
スクエアエニックスHDは、2023年に基本給の10%賃上げを発表し、4年制大学卒の初任給は28万8000円、大学院卒だと29万8000円に引き上げられました。また、セガサミーHD傘下のセガでは、2023年に大卒初任給は22万2000円から30万円に約35%引き上げています。
コナミグループでは、2022年に初任給を24万円から29万円へと大幅引き上げを実施しましたが、2023年にも再度引き上げ、29万円から29万5000円へとベースアップを実施しています。
ちなみに業界でも最大手の一角である任天堂の初任給は25万6000円と決して高くありません。ここ数年でも大幅な引き上げは行われていないと思われます。2023年には初任給に限らず、正社員や食卓、アルバイトも含めて一律基本給を10%引き上げていますが、水準だけを見ると、決して高くはありません。
一方で、同社は基本的にリストラを実施しません。2012年3月期、2013年3月期、2014年3月期に3期連続の営業赤字となってしまったことがありました。据置型ゲーム機「Wii」、そして携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」のヒットを引き継いで、「Wii U」ならびに「ニンテンドー3DS」という次世代機を発売した直後の時期にあたります。
このうち特に「Wii U」の販売不振を受けて、任天堂の業績は落ち込みましたが、それでもリストラなどは行いませんでした。ちょうどこの時期の株主総会で、「リストラを行った方がいいのではないか」との質問を受け、当時の社長だった岩田聡氏が受け答えした内容(同社ホームページ参照)は、ある意味で伝説になっています。
岩田氏は「短期の業績を求めてリストラをいたしますと、会社で働く人たちのモラール(士気)は下がり、その人たちが不安に怯えながら作ったソフトが本当に世の中の人の心を動かせるのかということがございます」と、株主への質問に対し答えました。なかなかしびれる回答ですよね。こうした姿勢が同社社員の士気向上につながっており、無理やり初任給を引き上げなくとも優秀な人材が集まってくるカルチャーが形成されている、という一面はあるように感じます。
ただ、任天堂といえども、これだけ他社が好待遇の条件を提示してくるのであれば、近いタイミングで初任給の引き上げを含めた改善を求められることはあるのではないかと、個人的には考えています。
ゲーム業界では、大手だけでなく、中小でも給与の引き上げの事例が増えてきており、人材獲得競争はますます激しくなっている印象です。こうした動きが広がることで、業界の給与水準が切上がり、優秀な人材が集まることに期待します。