日本一の企業の給与はどれくらい?
トヨタ自動車といえば、ほとんどの人には説明不要の会社。時価総額日本一。販売台数でも世界トップクラスの、日本を代表するエクセレントカンパニーです。
そんなトヨタ自動車の給与はどうなっているのでしょうか。2022年6月に公表された有価証券報告書によれば、22.3期の同社の平均給与は857万円。これまで何度か紹介してきましたが、国税庁が発表している「民間給与実態統計調査(令和2年分)」によると、平均給与所得は433万円となっています。比べてみると、トヨタ自動車はかなり高い水準であることわかります。
(有価証券報告書よりDZHフィナンシャルリサーチ作成 平均給与(棒-左軸)従業員数(線-右軸))
平均給与の推移を見てみると、コロナ禍においても、目立って給与が減少していません。有価証券報告書では、従業員数の推移(期間従業員や派遣社員など臨時従業員を含む)も開示されていますが、この数字もやや減少しているものの、大幅に変動している様子はみられません。
実はニュースなどでも報道されていることではありますが、トヨタ自動車では、コロナ禍においても「雇用を維持する」方針を表明していました。リーマンショック時に派遣労働者との契約を打ち切る雇い止め、いわゆる「派遣切り」の問題が繰り返し報道され、批判された経緯からこうした方針を決めた、との推測もなりたちますが、ビジネスの現場は非常にドライな判断を求められる場でもあります。義理や人情だけでこうした判断をしたというわけではないでしょう。
米国ではコロナ禍からの回復過程で、人手不足がさまざまな産業で問題となり、採用費用や従業員の給料高騰が企業の利益を圧迫する要因となっています。これらはインフレの問題なども関連していますが、コロナで人員を削減しすぎた反動が出ている面も否定できません。
雇用を維持したトヨタ自動車は21.3期こそ、営業収益、営業利益ともに前年を下回ったものの、22.3期にはともにコロナ前を上回り、過去最高を記録。同社グループの世界販売台数は2020年、2021年と連続で世界一を達成しました。仮に雇用を維持せず、大幅な人員削減や雇い止めを行っていたならば、新たな採用や生産ラインの確保に費用や時間を要し、ここまでの急回復は見込めなかったことでしょう。
競合他社と比較した場合についてはどうでしょうか。直近の有価証券報告書によれば、ホンダの779万円、日産の811万円、マツダの638万円、スズキの666万円となっており、一番高い平均給与額となっています。
(各社有価証券報告書よりDZHフィナンシャルリサーチ作成)
ボーナスの高さが特徴
高い平均給与の要因の一つには、一時金の高さが挙げられます。いわゆるボーナスですね。全トヨタ労連のまとめをもとに報じられたところによれば、トヨタ自動車の2022年の一時金は6.9カ月分となったもようです。(有価証券報告書では23.3期分の平均給与として算出される分の数字です)。これは同じトヨタ系列でもあるデンソーの5.8カ月、豊田自動織機の5.6カ月、ジェイテクトの5.1カ月などを大幅に上回る水準です。
トヨタグループ以外で比較した場合でも、ホンダの6.0カ月、日産自動車の5.2カ月(ともに日刊自動車新聞調べ)を大幅に上回っています。
このように高額の一時金を支払うことができるのも、前述してきたように同社の業績が好調であるからこそと言えるでしょう。
社員の給与とは別に役員報酬についてはどうでしょうか。21.3期の豊田章男社長の役員報酬は6億8500万円でした。かなりの高額ではありますが、日本最大の時価総額を誇る同社のトップの報酬としては、個人的にはいささか物足りない額のような気もします。また、このうち業績連動報酬としての株式報酬は23万株(約4.8億円分)となっていますので、現金は2億円ほどとなります。
このほかに、豊田章男社長以上の報酬を得ている役員もいます。それがJames Kuffner(ジェームス・カフナー)取締役で、報酬額は9億600万円。社長よりも2億円以上も高い報酬です。これはトヨタ自動車に限った話ではなく、日本企業では外国人取締役が、日本人社長よりも高い報酬を受け取るケースは決して珍しくありません。これはワールドワイドの報酬基準に合わせて、優秀な経営人材を雇用しようとすると、どうしても高額になってしまうためです。逆に言おうと日本の報酬水準が低い、とも言えるかもしれませんね。ですが、トヨタのようなグローバルで展開する企業の業績がますます拡大し、報酬もそれに併せて増加していけば、日本人経営者の、そして社員の給与水準も高くなっていくかもしれません。