松屋フーズは12月11日、2024年4月1日の給与改定により、正社員約1835名のベースアップの実施と新卒初任給の引き上げを決定しました。
賃上げ率は定期昇給分を含む10.9%となり、これは同社が2001年に当時の東証一部(現東証プライム)に上場して以来、過去最高の上げ率となるもようです。
具体的には、新卒者の場合、大卒初任給23万円から25万円に引き上げられるとともに、「ベア、定期昇給分等」が加味されることで10.9%の賃上げになるとしています。
さらに、同社では上記賃上げに先んじて「奨学金返済支援制度」や「海外人材の確保(ダナン外国語大学とのインターンシップ協定)」などについても決定済みとなっており、優秀な人材の確保や従業員の定着率向上、モチベーションの向上につなげる考えです。
12日付の日本経済新聞朝刊の記事によれば、同日までに会社側と同社の労働組合が合意したとしています。流通や外食などの労組が加盟するUAゼンセンが2024年の春季労使交渉での賃上げ目標とする「6%基準」を大きく上回る水準であり、前年の7.5%の賃上げに続いて2年連続での大幅な賃上げとなります。
働いている人にとっては賃上げは嬉しいものです。しかし、企業にとっては人件費負担が増加し、利益の圧迫要因になるわけで、これまでなかなか賃上げが進まないのが日本のデフレの要因の一つにもなっていました。それがこれほど一気に賃上げの流れに傾いたのはなぜでしょうか。
どの企業にも言えることではありますが、外食企業では特に、コロナ禍以降で人出不足が常態化しています。コロナによる営業規制などから人員を調整していましたが、その後の人流回復に伴い客数が回復するのに反して、従業員の確保が十分に進んでいません。
さらに、足もとのインフレの影響からアルバイトなどの賃金は上昇傾向にあり、地域によっては時給1500円以上を提示しても、人手を確保することが困難になっています。ちなみにindeedによる東京都の飲食店の平均時給は1358円(2023年12月10日時点)となっており、渋谷区や新宿区に限定すると1600円を超えています。
このように高い賃金でなければ、そもそも人を集められない。入社したあともつなぎとめておけないという状況になっており、それが賃上げの加速につながっているようです。
(松屋フーズホールディングス従業員の平均年収推移(単位 万円) 同社有価証券報告書よりDZHFR作成)
松屋フーズに話を戻しますと、同社は2年連続で大幅な賃上げを実施するわけですが、平均給与の推移を見た場合、どのようになっているのでしょうか。
実は同社はホールディングス制をとっており、有価証券報告書で開示されている社員の平均年収は、松屋フーズホールディングスのものです。こちらは従業員数が100名に満たず、2023年3月期末時点で松屋フーズなど国内事業会社の社員が1600名超、アルバイトを含むと7000名超となることを考えると、実態の全部を表しているいるわけではないことを先にお断りしておきたいと思います。
平均年収はおおよそ600万円台前半で推移しており、大きな変動はありません。2019年3月期のみ500万円強と水準が低いのは、この前後でホールディングス制に移行しており、いわゆる端境期であったことも影響していると思われます。移行前の2018年3月期の平均年収も500万円台前半であり、事業会社社員としての給与水準はこちらに近いのかもしれません。
ちなみに余談となりますが、同業である吉野家ホールディングスの平均年収は2023年2月期で719万円となっています。もしかしたらこの点も大幅な賃上げを進めている要因の一つかもしれませんね。
政府による税制の後押しなどもあり、2024年も賃上げの波は続くことが予想されます。同社に続いて大幅な賃上げを行う企業がまだまだ出てきそうですね。