東京商工リサーチは8月20日、2024年度「賃上げに関するアンケート」調査の結果を公表しました。同調査によれば、2024年度は84.2%の企業が賃上げを実施したもようです。
同社が定期集計を開始した2016年度以降、最大だった2023年度の84.8%には0.6ポイント届かなかったものの、2年連続でコロナ禍前の水準を超え、物価高やコロナ禍からの業績の回復を背景に、高い賃上げ率で推移しています。
一方、企業の規模別でみた実施率では、大企業が94.0%と前年度から4.1ポイント上昇しているものの、中小企業は82.9%と前年度を1.3ポイント下回り、その差は11.1ポイントとなっています。これは規模別の差としては、同社が調査を開始して以来、過去最大とのことです。
大企業は前年に続き賃上げを継続していますが、中小企業は人件費負担の重さから「賃上げ疲れ」の様相もうかがえ、今後も持続的に賃上げを実施できるかどうか不透明さを感じさせる結果となっています。
中小企業で賃上げ実施率が低下するのは4年ぶりで、2024年1-7月の「人件費高騰」倒産は60件(前年同期29件)と大幅に増加しています。7月時点ですでに過去の年間最多も更新しており、人手不足が深刻さを増すなか、安定的な賃上げ原資の確保に向け、生産性の向上と同時に適正な価格転嫁の実現も急がれると東京商工リサーチでは指摘しています。
賃上げ動向の年度推移(単位パーセント)
東京商工リサーチ公表データをもとにDZHFR作成
賃上げの内容についてみてみると、「ベースアップ」が61.4%で初の6割台に乗せたもようです。企業側はこれまで賞与の増額で一時的な賃上げに対応する傾向にありましたが、物価高が進むなかで実質賃金マイナスが26カ月連続と過去最長を更新。賃金に対する社員の意識や要求も以前と変わってきており、優秀な人員を確保するためにも対応せざるを得ないという面もありそうです
産業別では、賃上げ実施率が最も高かったのは、製造業の89.6%(1646社中1476社)。以下、運輸業が88.9%(299社中266社)、建設業が88.6%(861社中763社)、卸売業が87.7%(1291社中1,133社)、農・林・漁・鉱業が85.9%(64社中55社)、金融・保険業が82.6%(115社中95社)、小売業が80.4%(323社中260社)と続きます。
10産業中、7産業で賃上げ実施率が8割超。前年度との比較で最も実施率が上昇したのは運輸業で前年度(82.3%)を6.6ポイント上回りました。同業種では、いわゆる「2024年問題」の影響により、これまで以上に人手不足が深刻となっていることが指摘されており、賃上げにより人手を確保するインセンティブが働いているものと思われます。同じく人手不足が深刻といわれる建築業も高い実施率となりました。
また、トップとなった製造業では、円安や半導体需要の増加などで好調が続いており、外部環境が産業ごとの賃上げ率にも影響していることがわかります。実施率が低かったのが不動産業で62.9%(216社中136社)。これは基本給以外に成果報酬などによる報酬形態が多いことなどが要因として考えられます。また、情報通信業の72.1%(402社中290社)、サービス業他の79.4%(1682社中1336社)も、下位となりました。
賃上げ率を見た場合、1%刻みのレンジでは、最多は「5%以上6%未満」の26.8%(924社)となりました。レンジではなく「5%以上」の合計では、42.6%(1469社)にのぼり、前年度の36.3%を6.3ポイントと大幅に上回っています。それだけインフレが進み、求められる賃上げのレベルも高くなっていることが推察されます。賃上げ率の中央値は4%となっています。
産業別では、賃上げ率「5%以上」の割合が最も高かったのは、農・林・漁・鉱業の54.2%(35社中19社)。不動産業が50.6%(73社中37社)、建設業が49.5%(468社中232社)と続き、最も低かったのが製造業の36.7%(907社中333社)となりました。
賃上げ実施率が最大だった製造業が賃上げ率「5%以上」の割合では最も低く、逆に賃上げの実施率は低かった不動産が賃上げ率「5%以上」の割合では高くなっているのは面白い結果ですね。建設業は賃上げの実施率も高く、かつ賃上げ率「5%以上」の割合も全体で2番目の高さとなっていることから、人手不足がもっとも深刻化している業種のひとつと言えるかもしれません。