2023年1月19日に連邦政府の借金限度額を定める債務上限(debt ceiling)31.4兆ドルに到達したことで、債務上限引き上げを巡る共和党と民主党のチキンゲームが開幕してまし。
そして、6月3日、イエレン米財務長官が米国がデフォルト(債務不履行)に陥る「Xデー」と警告した6月5日の直前に、バイデン米大統領が、2024年11月の米国大統領選挙が終わった2025年1月まで「債務上限」の適用を停止する「財政責任法案(Fiscal Responsibility Act of 2023)」に署名したことで、閉幕しました。
ちなみに、クリントン第42代米大統領もオバマ第44代米大統領も下院共和党との間でチキンゲームを繰り返した後、再選されていますので、バイデン第46代米大統領にとっては、2024年の米国大統領選挙に向けて幸先のいい勝利となりました。
1.債務上限(debt ceiling)
■1917年:第2自由公債法(The Second Liberty Bond Act)
1917年、米国議会は、第1次世界大戦での戦費高騰を踏まえて、国債発行による連邦政府運営資金の借り入れ限度額を示す債務上限(debt ceiling)115億ドル「第2自由公債法」を制定しました。債務上限に達してしまえば、政府は新たな資金調達ができなくなり、これまで発行した国債の利払いなどができなくなるデフォルトに陥る可能性が増すことになりました。
しかし、第2次世界大戦前の1939年には、450億ドルまで引き上げられ、戦後は98回、1960年以降に限れば78回も上限は引き上げられており、2023年1月時点では31兆4000億ドルとなっています。
歳出削減による小さな政府を指向する共和党政権下で49回、歳入(税金)増大による大きな政府を指向する民主党政権下で29回引き上げられており、予算案などを人質にした政争、茶番劇ともいえるチキンゲームが繰り広げられてきました。
■1979年:ゲッパート・ルール(Gephardt Rule)
ゲッパート下院議員は、「予算が可決されたら、その時点で債務上限が引き上げられたとみなすべき」と提唱し、下院は予算決議を採択すれば債務上限引き上げ法案と一本化させて上院に送付できる「ゲッパート・ルール」が成立しました。しかし、1995年に共和党によって廃止されたことで、チキンゲームが再開されました。
■2011年:無能な議会での愚か者の争い
2011年、米国の外交専門誌フォーリンポリシーは、米国議会での連邦政府債務上限の引き上げを巡る不毛な論争に対して、ナンセンスな党派主義に陥った「無能な議会(Parliamentary Funk)」と揶揄し、バロンズ誌は、米国の民主党と共和党による「債務上限引き上げ」を人質にしたイデオロギー論争を「愚か者の争い」と揶揄しています。
2.格付け会社の警告
5月24日、格付け会社フィッチ・レーティングスは、米国の長期外貨建て発行体デフォルト格付け「AAA」を「レーティング・ウオッチ・ネガティブ」に置いたと発表しました。そして、米上院が債務上限停止法案を可決し、デフォルト(債務不履行)が回避されたにもかかわらず、米国の「AAA」格付けに対する「ネガティブウォッチ」を維持すると表明しています。フィッチは、今回の土壇場での合意の完全な意味合いと、中期的な財政と債務の軌道の見通しを考慮するとのことです。
格付け会社ムーディーズは、債務上限協議を行っている議員の公的な発言が格付け見通しの評価変更につながる可能性があるという見方を示しました。
【2011年】 【2023年】(※日付は米国時間)
・両党指導部が合意:7月31日 5月27日
・下院で可決:8月1日 5月31日
・上院で可決:8月2日 6月1日
・大統領署名:8月2日 6月3日
・Xデー:8月2日 6月5日
・格下げ:8月5日 ????