あの時あの動き、過去から学ぶ

第51回 米為替報告書、日本を「監視リスト」から放免

2023年6月16日、米財務省は半期に一度の「外国為替報告書」で、2022年7月~12月の期間中に、中国を含む7カ国・地域(韓国、ドイツ、マレーシア、シンガポール、スイス、台湾)が為替の慣行に関する「監視リスト(Monitoring List)」の対象になっていると表明しました。そして、日本は「監視リスト」から除外されました。

また、6月20日に、スイスに拠点を置くビジネススクール・国際経営開発研究所が「世界競争力ランキング2023」を発表しましたが、日本は、64カ国中過去最低の35位という結果となりました。

 

すなわち、過去最大の貿易赤字を計上しつつある日本は、米国からは対米貿易黒字国としての脅威を喪失され、世界市場での競争力も喪失したと認定されたことになります。

 米国の対日政策は、「 ジャパン・バッシング(日本叩き)」から、「ジャパン・パッシング(日本素通り)」を経て「ジャパン・ナッシング(日本無関心)」になったようです。


アメリカは、1985年の「プラザ合意」で、世界最大の貿易黒字大国だった日本の輸出産業を叩きのめすために、ドル安・円高誘導を打ち出し、ドル円は240円付近から、最終的には70円台まで下落しました。

そして、1986年の「日米半導体協定」で、世界の半分の占有率を誇っていた日本の半導体産業を叩きのめしました。

2023年、ドル円が140円台に乗せても、日本の輸出産業は売るべきものがなく、海外からの食料・エネルギー購入により、貿易赤字に転落しています。

日本の半導体産業も、世界占有率は一桁台に落ち込み、2023年にはゼロになると予想されています。

 

為替報告書は、1988年に成立した「包括通商・競争力強化法」に基づいて、為替操作国に対して為替政策の是正を勧告し始めました。当時の米国では、「双子の赤字(財政+経常)」が問題視されており、対米最大の貿易黒字である日本との間で、日米貿易摩擦が問題視されていました。

 

2015年には、「包括通商・競争力強化法」と合わせて「貿易円滑化・貿易執行法701条」が根拠法として追加されました。

そして、2016年公表分の為替報告書から、為替操作国は、貿易黒字、経常収支、為替介入に関わる3つの条件に該当する国が認定されるようになりました。また、2つ該当する国向けに「監視対象国」リストが作成されるようになります。日本は2016年以降、常に「監視対象国」でしたが、今回、リストから外れました。

 

【為替操作国・監視対象国の判断基準】

1)財の対米貿易黒字:150億ドル以上

2)経常黒字額:対国内総生産(GDP)比3%以上

3)過去12カ月の外貨購入(介入):対GDP比2%以上

今回、2つの認定基準に抵触する「監視対象国」に指定されたのは7カ国で、日本は除外されました。

【監視対象国】(※2023年6月為替報告書)

・継続(7カ国):中国、韓国、ドイツ、シンガポール、マレーシア、台湾、スイス

・除外(1カ国):日本

 

中国(対米貿易黒字:3670億ドル)は、対米貿易黒字しか基準を満たしていませんが、監視対象国のままなのは、米中関係の対立が激化していることを反映していると思われます。中国に対しては、為替介入に関する統計を公表していないことや、為替メカニズムに関する透明性の欠如などを巡る懸念を表明し、引き続き中国の為替管理や規制などが為替レートに与える影響を財務省は注意深く監視していくと言及しています。

 

日本(対米貿易黒字:680億ドル)も、対米貿易黒字しか基準を満たしていませんが、監視対象国から除外されましたので、主要貿易相手国に関する分析・評価の枠の記述が無くなりました。日本が米国から多くの武器を購入することを確約していることを反映していると思われます。

 

 

 

 

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為替情報部 アナリスト

山下 政比呂

証券会社で株式・債券の営業、米系銀行で為替ディーラー業務(スポット、スワップ、オプション)に従事。プライベートバンクでは、為替のアドバイサーとして円資産からドル建て資産への分散投資を推奨してきたドル高・円安論者。 「酒田罫線法」「エリオット波動分析」「ギャン理論」などのテクニカル分析をベースに、ファンダメンタルズ分析との整合性を図り、相場観を構築。 ウォール街の格言「ゴルフと相場は、どちらもタイミングが全て」に出合い、ゴルフと相場の共通項を模索中。 2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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