2023年1月19日、イエレン米財務長官は、米国が31兆4000億ドルの法定債務上限を超えたと発表しました。そして、議会指導部宛ての書簡で「財務省が米国のデフォルト(債務不履行)回避に向け特別措置に着手する必要がある」と指摘して、議会に債務上限引き上げに向け迅速に行動するよう要請しました。また「財務省は現時点で、特別措置によって政府の債務支払いを継続できる期間を推定することはできないが、現金や特別措置が6月上旬までに枯渇することはない」と述べています。
米国議会の勢力図は、上院は民主党が50議席、共和党が49議席、中立が1議席(※シネマ民主党議員が離党)となっており、民主党が多数派を占めています。下院は、民主党が213議席、共和党が222議席で共和党が多数派を占めています。
下院では、マッカーシー米下院議長の選出に15回の投票を要して米議会を一時的に機能不全に陥れたことが「第一幕」、そして、現在、「第二幕」として、米債務上限引き上げ交渉を巡るバイデン米政権と下院共和党との政治混迷ドラマが繰り広げられています。
かつて、民主党のクリントン第42代米大統領は、下院共和党と債務上限引き上げを巡る鬩ぎあいの後、2期目の再選を勝ち取りました。
そして、民主党のオバマ第44代米大統領も、下院共和党と債務上限引き上げを巡る鬩ぎあいの後、2期目の再選を勝ち取りました。
2011年8月、米国議会は連邦債務上限の引き上げ期限に向けて不毛な論争を繰り広げ、ウォール街だけでなく世界中の株式市場に混乱をもたらし、米国債の格下げをもたらしました。2011年、米国の外交専門誌「フォーリンポリシー(Foreign Policy)」は、米国議会での債務上限(debt ceiling)の引き上げを巡る不毛な論争に対して「無能な議会(Parliamentary Funk)」と批判しました。
2011年8月5日、ホワイトハウス(オバマ第44代米大統領・民主党)と下院共和党の米国債務上限引き上げ問題を巡る政争を受けて、米格付け機関スタンダード&プアーズ(S&P)が、アメリカの長期発行体格付けを「AAA」から「AA+」に格下げしたことで、「米国債ショック」が世界の株式・債券・ドル相場を下落させました。
そして、現在、民主党のバイデン第46代米大統領と下院共和党と債務上限引き上げを巡る鬩ぎあいを繰り広げていますが、過去のパターンでは、2024年の米大統領選挙での再選確率が高いことになります。
1917年、米国議会は、第1次世界大戦での戦費高騰を踏まえて、国債発行による連邦政府運営資金の借り入れ限度額を示す債務上限(debt ceiling)115億ドルを制定しました。債務上限に達してしまえば、政府は新たな資金調達ができなくなり、これまで発行した国債の利払いなどができなくなるデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が増すことになりました。
しかし、第2次世界大戦前の1939年には、450億ドルまで引き上げられ、戦後は98回、1960年以降に限れば78回も上限は引き上げられており、2023年1月時点では31兆4000億ドルとなっている。共和党政権下で49回、民主党政権下で29回引き上げられており、予算案などを人質にした不毛な論争が繰り広げられてきました。