中央銀行による伝統的な金融政策では、「短期金利の操作はできるが、長期金利の操作はできないし、すべきではない」というプリンシパルがあります。
「日銀理論」でも、日本銀行は、短期金利は操作できるが、長期金利は操作不能、となっています。
しかし、1929年の米国発の「暗黒の木曜日」の時、ジョン・メイナード・ケインズは、ルーズベルト第32代米大統領への公開書簡において、米連邦準備理事会(FRB)が積極的に長期金利の抑制(※2.5%)に動くべきだと提言しました。
「FRBが長期債を購入して短期債を売却するだけで、長期国債の金利は、2.5%かそれ以下に低下し、かつそれが債券市場に好ましい効果を及ぼすのであるから、私にはあなたがそれを行わない理由が分からない」
(1933年:メイナード・ケインズからルーズベルト第32代米大統領への公開書簡)
その後、米連邦準備理事会(FRB)は第2次世界大戦中から戦後にかけて「イールドカーブ・ターゲティング政策」(※2.5%)、イングランド銀行(BOE)は、第2次世界大戦後に2.5%を目安とする長期金利の抑制に動いたものの、どちらも戦時体制への緊急避難的な金融政策に留まっています。
FRBが長期金利の抑制を回避している理由は、以下の通りとのことです。
・コントロールを解除する「出口」の難しさ(長期金利をスムーズに正常化できるのか)
・FRBの独立性が低下する可能性(国債の利払い負担を抑えたい政府の利下げ圧力)
・長期金利の目標水準を適切に決められない可能性
・債券市場機能の低下
オーストラリア準備銀行(RBA)は、新型コロナウィルスのパンデミック(世界的流行)初期の2020年3月に3年国債利回りに目標を設定し、2021年11月に終了するまで1年8カ月にわたりイールドカーブコントロール(YCC)を行ってきました。
そして、YCCに関して、利回り目標を秩序立った形で停止できず、中銀の評判が一定のダメージを被ったとの認識を明らかにし、同様のプログラムを再導入する可能性は低いと総括しています。
日本銀行は、2%の「物価安定目標」を達成すべく、2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入し、2016年1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入するなど、大規模な異次元の金融緩和を推進してきました。
そして、2016年9月の金融政策決定会合では、それまでの政策効果に関する「総括的な検証」を行い、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和(※イールドカーブ・コントロール(YCC)」を導入しました。
YCCにより、短期金利はマイナス金利(▲0.10%)、長期金利はゼロ%に抑制してきましたが、許容変動幅は、±0.1%、±0.25%、±0.5%と拡大傾向にあります。
2023年1月中旬の時点で、日本銀行のバランスシート上には547兆円の国債が保有されています。
上限が0.25%だった2022年9月末の日銀の保有国債の含み損は8749億円と報じられています。
雨宮日銀副総裁は、2022年12月2日の参院予算委員会で、金利上昇(債券価格は下落)時の保有国債の含み損に関する試算を明らかにしました。国債金利が全体的に1%上昇した場合、含み損は28.6兆円、2%上昇すると52.7兆円、5%では108.1兆円、11%では178.8兆円、それぞれ含み損が生じるとのことです。
0.25%の金利上昇は7兆1500億円の含み損となり、2022年9月末の日銀の純資産は5兆円なので、日銀は債務超過に陥ることになります。
日銀が債務超過に陥ってまで、YCCで守りたかったものとは何なのでしょうか。