中国当局、人民元連動ステーブルコインの海外発行を規制
2月に入り、香港のステーブルコイン(価格変動を抑えるため法定通貨などに連動させた暗号資産)について、大きなニュースが相次いで伝えられました。まず週明け2日、香港の中央銀行に当たる香港金融管理局(HKMA)のトップである余偉文総裁が、ステーブルコインを発行する免許の第1弾を3月にも付与すると明らかにしました。週末6日には、中国人民銀行(中央銀行)や国家外貨管理局など8部門が共同で、ステーブルコインに関する規制を発表しました。特に注目されたのは、人民元に連動するステーブルコインを当局の同意を得ずに海外で発行するのを禁じたことです。
「一国二制度」の下、香港市場は中国本土からみれば海外の扱いです。この連載の第78回(2025年6月20日)では、昨年8月施行の香港ステーブルコイン条例の規定に従い、「中国本土外の市場で取引されるオフショア人民元(CNH)であれば、香港金融管理局の認可を得れば裏付け資産とすることが制度上は可能になりました」とご紹介しましたが、結局は中国本土当局の承認が必須要件となるかもしれません。
実は、中国当局が民営企業によるステーブルコインの発行に神経を尖らせているとの観測が、昨年秋から広がっていました。英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)が2025年10月18日、事情に詳しい関係者の話として、アリババ集団(09988)傘下のアント・グループや中国ネット通販大手のJDドットコム(09618)を含む中国テック大手が、香港でのステーブルコイン発行計画を一時停止したと報じています。なお、HKMAの余偉文総裁は今年2月2日の香港立法会(議会)で、36件の免許申請を受理して評価中だと明らかにしています。
中国当局、ステーブルコインの統制不能を警戒
そもそも、ステーブルコインを含む暗号資産(仮想通貨)に対する中国本土当局の姿勢はかなり保守的です。かつて中国は、暗号資産の取引やマイニング(新規発行・取引記録業務)の中心地でしたが、2013年以降に規制が強化され、2021年には暗号資産取引が禁止されました。理由は価格急変動リスクや違法活動への懸念です。米ブロックチェーン分析会社Chainalysisは最近のリポートで、中国の犯罪組織が不正な資金移動の手段として暗号資産を利用しており、1日当たり最大4400万ドルが高度なネットワークを通じて移転されていたと述べました。
ただ米CNBCによると、中国政府が懸念しているのは犯罪のリスクだけではなく、通貨の統制が崩れることだと海外の暗号資産の専門家はみています。人民元に連動する金融商品が国境を越えて流通し、中国当局がコントロールできない事態を警戒しているというわけです。
例えば、ヘルシンキ大学の研究者、モニーク・テイラー氏は「ステーブルコインは通貨、決済、資本フローに対する国家の統制を揺るがすものであり、監督と国内金融安定を重視する中国の国家中心的な通貨ガバナンスモデルとは相容れない」と2月10日のCNBCの番組で述べました。その上で、香港で施行されたステーブルコイン免許制度の役割は、中国政府が人民元連動ステーブルコインを統制するための限定的実験だと位置付けました。
冒頭にご紹介したHKMAの余総裁にしても、「3月の免許交付を目指すが、第1ラウンドでの発行数は必ずしも多くはない。安定を最優先とする」と述べ、「小さく生んで大きく育てる」意向をにじませています。さらに、香港の規制枠組みに基づいて事業者が中国本土やシンガポール、ロンドン、ASEANなどで越境業務を展開する場合には、それぞれの地域の規制要件を順守する必要があると指摘しました。犯罪リスクにも配慮しており、ステーブルコインの免許審査においては申請機関のリスク管理能力、特にマネーロンダリング(資金洗浄)対策能力が重要な評価項目になると明かしています。

ステーブルコインは香港「Web3戦略」を支えるインフラ
この連載で何度か触れてきましたが、中国政府は金融政策の独立性(つまり金利の上げ下げ)、為替相場の安定、資本移動の自由の3つとも統制できるようにしておきたいと考えています。当然、人民元を裏付け資産とするステーブルコインも自由放任とするつもりはないでしょう。この状況下では香港が、中国本土外にある対外的に開放された金融拠点として、ステーブルコインが監督可能だと証明する役割を担うことになります。
香港政府の李家超(ジョン・リー)行政長官は2月11日、暗号資産・ブロックチェーン国際会議「コンセンサス香港」の開幕式辞のなかで、香港は世界のWeb3および暗号資産イノベーションセンターとしての地位を高めつつあり、その重要な施策の一つが、25年8月に施行された「ステーブルコイン条例」だと説明しました。Web3とは「ブロックチェーンを基盤とした分散型インターネット」を指す概念で、そこで行われるデジタル資産の売買やNFT(非対称性トークン)取引では決済手段としてステーブルコインが重要な役割を果たす見込みです。つまり香港にとって、ステーブルコイン制度の導入はWeb3エコシステムを構築するための基盤インフラの整備に相当する重要政策といえるでしょう。
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