あの時あの動き、過去から学ぶ

第42回 タカ派かハト派か、それが問題だ

「インフレ指標は、現在の5%から今年末までに3%台半ばに低下し、来年は2%に一段と近づく見通し」(カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁:2023年4月11日)

 

カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁は、2021年まではハト派の急先鋒として「インフレ高進は一時的」と唱え続けていましたが、2022年からは、タカ派に転向して、インフレ抑制のために利上げを継続すべき、と主張し続けています。

 

カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁は、2023年4月11日にモンタナ州立大学で行った講演で、「われわれの金融政策措置や、銀行ストレスによる信用状況の引き締まりが景気低迷につながる可能性はある。景気後退につながることもあり得る」と述べました。そして「インフレ率を低下させる必要がある。それができなければ、就職の見通しは実に厳しくなる」と警鐘を鳴らしました。


3月21-22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でのドット・プロット(金利予測分布図)では、2023年末の見通しの最高水準の5.75-6.00%に投票した一人のタカ派は、ブラード米セントルイス連銀総裁だと本人が述べています。

その下の5.50-75%の3名のタカ派の一人が、カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁だと推定されます。


ドット・プロットの見立ては、5月3日のFOMCで第10次追加利上げ(+0.25%)を行い、FF金利誘導目標を5.00-25%まで引き上げて、年末まで維持することになっています。そして、2024年末は4.00-25%まで約1%低下する見通しとなっています。

 

2017年3月14-15日のFOMCでは、カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁を除く賛成多数で、FF金利の0.75%-1.00%への引き上げが決定されました。

カシュカリ連銀総裁は、利上げに反対した理由を文書で公表しています。

「当局が2大責務の達成にどの程度近いかを判断する上で私が重視するデータが、前回の会合以降ほとんど変わっていない。インフレ目標はまだ達成できていない。労働市場が力強さを増し続けているのは、スラック(たるみ)が残っていることを示唆している」

 

2022年6月のFOMCでのドット・プロットでは、カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁は、2022年末までに3.9%、2023年末までに4.4%への上昇を見込むとして、最もタカ派的な見通しを示しました。そして、8月には、「インフレ率が目標を大幅に上回っている可能性が非常に高い来年初めに利下げを始めるという考えは非現実的だと思う。ある時点まで金利を引き上げた後、利下げを検討する前に、インフレ率が2%に戻りつつあると確信するまで様子を見るというシナリオの方が可能性が高いとみている」と述べ、タカ派陣営での足場を構築しました。

 

クリントン米政権は、ゴールドマン・サックス最高経営責任者のルービン氏を第70代米財務長官に任命しました。ブッシュ米政権は、ゴールドマン・サックス最高経営責任者のポールソン氏を第74代米財務長官に任命しました。

ポールソン氏は、ゴールドマン・サックスに勤務していたインド系アメリカ人のカシュカリ氏を財務次官補に抜擢しました。

カシュカリ氏は、1964年にインドから米国へ移住してきた両親の下で、1973年にオハイオ州で誕生したインド系アメリカ人です。


2008年9月のリーマンショックを受けて、ポールソン第74代米財務長官は、金融市場と融資の安定化を図るために7000億ドルの不良資産購入計画(TARP)というバズーカ砲を創設し、不良資産買い取り業務の責任者にカシュカリ財務次官補を選任しました。


7000億ドルという金額は、当時の住宅担保証券市場の規模が約1.4兆ドルだったので、半分を買い取ることを表明すれば、金融危機は終息するのではないかとの意図だったとのことです。


この連載の一覧
第55回  ハト派とタカ派(2)
第54回 白川第30代日銀総裁と黒田第31代日銀総裁の「2%」
第53回 2024年米国大統領選挙のジンクス
第52回 2022年秋のドル売り・円買い介入
第51回 米為替報告書、日本を「監視リスト」から放免
第50回 「AIバブル」と「ドットコム・バブル」
第49回 40年周期の国策の失敗
第48回 チキンゲームという空騒ぎの閉幕
第47回  エルドアン=オアン体制の誕生
第46回 バーナンキ第14代議長とパウエル第16代議長の利上げ休止宣言
第45回 エルドアン・トルコ大統領、辛勝するものの信任されず
第44回  黒田総裁から植田総裁へ
第43回  米民主党大統領と下院共和党による茶番劇
第42回 タカ派かハト派か、それが問題だ
第41回 新デジタル円への切替という既視感
第39回 2008年と2023年の既視感
第38回 日銀10年の宴の終焉
第37回 パウエルFRB議長の「2011年夏の日の思い出」
第36回 「パンドラの箱」の中のリバーサル・レート
第35回 ワシントンでのインフレ巡る女子会
第34回 植田(元)日銀審議委員と第32代日銀総裁(候補)
第33回 勝つ介入
第32回 1兆ドルのプラチナコイン発行?
第31回 金融政策のパンドラの箱「YCC」
第30回  債務上限を巡る茶番劇
第29回 無能な議会 (Parliamentary Funk)
第28回 ドル高・円安8年サイクル
第27回 1987年と1998年に生まれて
ターミナルレートの後のリセッション
第25回【あの時あの動き、過去から学ぶ】カラー革命
第24回【あの時あの動き、過去から学ぶ】マラドーナ理論(Maradona theory)
第23回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ワールドカップの法則
第22回【あの時あの動き、過去から学ぶ】パリ合意
第21回【あの時あの動き、過去から学ぶ】カーターショック
第20回【あの時あの動き、過去から学ぶ】英国民主主義の黄昏
第19回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ルーブル合意(1987年2月:153.50円±2.5%)
第18回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ドルの価値を決める者:米国大統領
第17回【あの時あの動き、過去から学ぶ】10月はウォール街の危険な季節
第16回【あの時あの動き、過去から学ぶ】9月は金融危機の季節
第14回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ゴルバチョフ元ソ連大統領の光と影
第13回【あの時あの動き、過去から学ぶ】8月は円高トラウマ
第10回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ブラックマンデー
第9回【あの時あの動き、過去から学ぶ】消費増税と円安
第8回【あの時あの動き、過去から学ぶ】大地震と円高
第7回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ニクソン・ショック
第6回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ドル円固定相場(1ドル=360円)決定
第5回【あの時あの動き、過去から学ぶ】欧州統一通貨「ユーロ」誕生
第4回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ロシアのデフォルト(債務不履行)
第3回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ソロスが英中銀を撃破した日
第2回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ボルカー・ショック(1979年)
第1回【あの時あの動き、過去から学ぶ】1985年9月の「プラザ合意」

為替情報部 アナリスト

山下 政比呂

証券会社で株式・債券の営業、米系銀行で為替ディーラー業務(スポット、スワップ、オプション)に従事。プライベートバンクでは、為替のアドバイサーとして円資産からドル建て資産への分散投資を推奨してきたドル高・円安論者。 「酒田罫線法」「エリオット波動分析」「ギャン理論」などのテクニカル分析をベースに、ファンダメンタルズ分析との整合性を図り、相場観を構築。 ウォール街の格言「ゴルフと相場は、どちらもタイミングが全て」に出合い、ゴルフと相場の共通項を模索中。 2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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