あの時あの動き、過去から学ぶ

第20回【あの時あの動き、過去から学ぶ】英国民主主義の黄昏

2009年、バンクシーは、英国議会で議論しているイギリスの庶民院の政治家達をチンパンジー達に置き換えた絵画、『退化した議会』( Devolved Parliament『猿の議会』)を発表しました。

民主主義の本家本元、「議会の母」でもある英国議会は、民主主義の奔流の中で黄昏を迎えつつあるようです。

 

2022年10月25日、ヒンズー教徒として英国初の首相、過去200年間で最年少のスナク第79代英首相(42歳)が誕生しました。

与党保守党は、過去6年間で5人目、8週間で3人目の党首、すなわち、英国首相を選出してきました。英選挙予測サイト「エレクトラル・カリキュラス」によると、解散・総選挙になれば、労働党507議席、スコットランド民族党(SNP)52議席、保守党48議席、自由民主党19議席と、300年を超える歴史を誇る保守党は議会第3党に転落するとのことです。

保守党は、2010年に13年ぶりに政権を奪取しましたが、13年後の2023年には、奪取される可能性が高まりつつあります。

 

スナク英首相は、「保守党は生き残りが危うい事態にさらされている」と語り、保守党の信頼回復と分断した党内融和を進めるとともに、緊縮財政と金融引き締め下で、物価高騰による生活困窮対策と景気浮揚、エネルギー危機対策を講じる必要があります。

 

1979年、サッチャー第71代英首相は、選挙で3連勝して1990年まで長期政権を続けました。

1980年代のサッチャー第71代英首相とレーガン第40代米大統領が先導した「グローバリズム」は、有事のドル買いを後退させてドル下落トレンドを演出しました。

1990年、メージャー第72代英首相も選挙に勝ち、保守党は18年間の長期政権を続けました。

しかし、1997年にトニー・ブレア率いる労働党に大敗して、労働党政権が誕生しました。

英国民の保守党の長期政権に対する飽き、経済状況の悪化、党内の対立などが原因とみられています。


13年後の2010年、総選挙で306議席を獲得し、キャメロン第75代英首相の下で、自由民主党との連立政権を樹立しました。

キャメロン第75代英首相は、英国民は欧州連合(EU)からの離脱は望まない、との見立てから、2016年6月23日に『イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票』を実施しました。欧州連合離脱派が勝利した結果を受けて「明確な結果が出た以上、私が指導者であることは適切でない」として、辞任しました。

 

メイ第76代英首相(1956年生まれ:在任2016-2019年)は、欧州懐疑主義者として、ブレグジット(英国の欧州連合からの離脱)協議が難航したことで、辞任しました。

 ジョンソン第77代英首相(1964年生まれ:在任2019-2022年9月6日)は、ブレグジットの難航やパーティーゲート疑惑により、辞任しました。

 トラス第78代英首相(1975年生まれ:在任2022年9月6日-10月25日)は、財源のない大規模減税というトラスノミクスで、英国市場をトリプル安に陥れたことで、辞任しました。

トラス第78代英首相は、オックスフォード大学で経済学を学んだとのことですが、「マサチューセッツ・アベニュー・モデル」(財政・金融・通貨)の理解が浅かったようです。

 

スナク英首相には、ジョンソン英政権から逃げ出したという裏切者の烙印が押され、インド人富豪の娘である妻は、非定住者として登録されており、英国での納税を免除されていたことも、国民の反感をかっています。妻の資産は約10億ドルで、故エリザベス女王の4億ドルの2倍規模とのことです。

 

英国景気は、大型減税の規模圧縮、追加の財政赤字削減策、イングランド銀行による利上げ継続により、リセッション(景気後退)に陥る可能性が高まりつつあります。

エネルギー危機に襲われることは必至であり、家庭向けのエネルギー料金凍結を半年に短縮したことで、来年4月以降のエネルギー料金が再高騰する可能性が高まっています。

対外的には、欧州連合(EU)との北アイルランドを巡る協議が難航したままであり、スコットランド独立の可能性、北アイルランドの離脱の可能性も残されたままです。

格付け会社ムーディーズは、高インフレと軟調な成長見通しの中で政策の不確実性が高いとして、英国のソブリン債格付けに対する見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げました。


ポンドドルは、ユーロドルに続いて、パリティー(1ポンド=1ドル)割れの可能性が高まりつつあります。

 

 

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為替情報部 アナリスト

山下 政比呂

証券会社で株式・債券の営業、米系銀行で為替ディーラー業務(スポット、スワップ、オプション)に従事。プライベートバンクでは、為替のアドバイサーとして円資産からドル建て資産への分散投資を推奨してきたドル高・円安論者。 「酒田罫線法」「エリオット波動分析」「ギャン理論」などのテクニカル分析をベースに、ファンダメンタルズ分析との整合性を図り、相場観を構築。 ウォール街の格言「ゴルフと相場は、どちらもタイミングが全て」に出合い、ゴルフと相場の共通項を模索中。 2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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