あの時あの動き、過去から学ぶ

第33回 勝つ介入

 ヨーロッパ最強の通貨だった「ドイツ・マルク」を管轄していたドイツ連邦銀行のデーリング・ルームの壁には、マルクのチャートが貼られており、「勝つ介入」が至上命題でした。

 市場関係者は、ドイツ連邦銀行(通称:ブバ(BUBA)」がマルクでの為替介入に踏み切ると、恐れおののいて退散していました。

 

 本邦通貨当局は、1998年に当時における過去最大規模のドル売り・円買い介入を断行して、ドル円は、8月の高値147円台から翌年の安値101.25円まで下落しました。

2022年には過去最大規模を更新するドル売り・円買い介入を断行して、ドル円は、10月の高値151.95円から翌年1月の安値127.23円まで下落しました。

 そして、1998年と2022年の高値反落は、ドル円の高値8年サイクル(1974・1982・1990・1998・2007・2015・2022)に対応しています。

 

■2022年のドル売り・円買い介入(9兆1880億円)

 本邦通貨当局のドル売り・円買い介入の水準を検証すると、ボリンジャー・バンドのミッドバンドに一目・基準線(過去26日間の中心値)とほぼ同様の「26日」移動平均線を使用し、標準偏差「+2σ」に接近したボラティリティー上昇局面で円買い介入を断行していることが観察されます。


本邦通貨当局のドル売り・円買い介入を主導している神田財務官は、「あまりにおかしいボラティリティーに対し、正常化することが求められる。G20ではボラティリティーが高まったとの認識を初めて共有した」と述べ、ボラティリティーの抑制を円買い介入の錦の御旗として掲げています。

 米国財務省報道官は「日銀は外為市場に介入した。このところ高まっている円のボラティリティーを下げることを目的とした行動だった理解している」と述べ、ボラティリティー抑制のための円買い介入を容認していました。

 

 9月22日の第1弾の円買い介入(2兆8382億円)では、ドル円は高値145.90円から安値140.36円まで、5.54円(3.8%)下落しました。当時の日足一目均衡表・基準線は140.28円だったので、高値との乖離率は3.8%となります。

 10月21日の第2弾の円買い介入(5兆6202億円)では、ドル円は高値151.95円から安値146.23円まで、5.72円(3.8%)下落しました。当時の日足一目均衡表・基準線は146.16円だったので、高値との乖離率は3.8%となります。

 10月24日の第3弾の円買い介入(7296億円)では、ドル円は高値149.71円から安値145.56円まで、4.15円(2.8%)下落しました。当時の日足一目均衡表・基準線は146.16円だったので、高値との乖離率は2.4%となります。

 

■1998年のドル売り・円買い介入(3兆470億円)

 1997年のアジア通貨危機や日本の金融危機に続く1998年1月、ドル円は130.55円で始まったが、日本版金融ビックバンで金融取引に関する規制緩和を積極化することで、日本からの資本流出が一段と加速するとの思惑から、ドル高・円安への見通しが強まりました。


4月10日、榊原財務官は、円安を抑制するため過去最大規模のドル売り・円買い介入(2兆6201億円)を断行しました。ドル円は131.20円で始まり、131.45円の高値を付けた後、円買い介入により127.40円まで下落し、128.75円で引けました。


6月17日、ドル円が144円台まで上昇したドル高・円安の勢いが収まらないことで、日米協調円買い・ドル売り介入(米国:8億ドル+日本2312億円=約25億ドル)が行われました。「強いドルが米国の国益」というマントラを唱道していたルービン米財務長官と80円台の超円高を是正した「ミスター円」榊原財務官は、80-90円台で買ったドルを130-140円台で利食ったことになります。


ドル円は、8月11日の高値147.64円まで続伸した後、ロシアのデフォルト(債務不履行)、ロングタームキャピタルマネジメント(LTCM)の破綻により、10月に111.45円まで暴落し、年末は113.40円で引けた。1999年1月には108.20円まで続落したことで、6月にはドル買い・円売り介入が実施されました。

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第54回 白川第30代日銀総裁と黒田第31代日銀総裁の「2%」
第53回 2024年米国大統領選挙のジンクス
第52回 2022年秋のドル売り・円買い介入
第51回 米為替報告書、日本を「監視リスト」から放免
第50回 「AIバブル」と「ドットコム・バブル」
第49回 40年周期の国策の失敗
第48回 チキンゲームという空騒ぎの閉幕
第47回  エルドアン=オアン体制の誕生
第46回 バーナンキ第14代議長とパウエル第16代議長の利上げ休止宣言
第45回 エルドアン・トルコ大統領、辛勝するものの信任されず
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第36回 「パンドラの箱」の中のリバーサル・レート
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第34回 植田(元)日銀審議委員と第32代日銀総裁(候補)
第33回 勝つ介入
第32回 1兆ドルのプラチナコイン発行?
第31回 金融政策のパンドラの箱「YCC」
第30回  債務上限を巡る茶番劇
第29回 無能な議会 (Parliamentary Funk)
第28回 ドル高・円安8年サイクル
第27回 1987年と1998年に生まれて
ターミナルレートの後のリセッション
第25回【あの時あの動き、過去から学ぶ】カラー革命
第24回【あの時あの動き、過去から学ぶ】マラドーナ理論(Maradona theory)
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第21回【あの時あの動き、過去から学ぶ】カーターショック
第20回【あの時あの動き、過去から学ぶ】英国民主主義の黄昏
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為替情報部 アナリスト

山下 政比呂

証券会社で株式・債券の営業、米系銀行で為替ディーラー業務(スポット、スワップ、オプション)に従事。プライベートバンクでは、為替のアドバイサーとして円資産からドル建て資産への分散投資を推奨してきたドル高・円安論者。 「酒田罫線法」「エリオット波動分析」「ギャン理論」などのテクニカル分析をベースに、ファンダメンタルズ分析との整合性を図り、相場観を構築。 ウォール街の格言「ゴルフと相場は、どちらもタイミングが全て」に出合い、ゴルフと相場の共通項を模索中。 2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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