昨年10月、戦後日本の経済学を牽引した東京大学名誉教授の小宮隆太郎氏(1928年~2022年)が93歳で亡くなりました。小宮氏は、従来の経済理論や政府・日銀の経済政策を批判して数々の論争を引き起こし、「通念の破壊者」と呼ばれた異色の経済学者でした。小宮氏の教え子には、白川第30代日銀総裁や植田第32代日銀総裁がいますが、植田日銀新体制の船出をどのように見届けたのでしょうか。
白川第30代日銀総裁は「金融政策を通じ人々の期待に働き掛ければ物価が上がると当局者や学者が考えたことは、中央銀行や金融政策の『漂流』である」と述べていました。
小宮教授は、昭和48、49年(1973・74年)の石油ショックによるインフレー ションを巡って、日銀の金融政策「日銀理論(※日銀信用の受動性)」を批判してきました。そして、日本銀行は、1989年前後の土地・株式バブルの隆盛、バブル崩壊後のデフレ、デフレからの脱却を目指すリフレ政策など、数々の失敗を繰り返してきました。
小宮教授の視点は、「ハイパワード・マネー(マネタリーベース)は外生変数(政策変数)であり、マネー・サプライは内生変数という先行・遅行関係」というものです。
2013年1月、日銀と財務省、内閣府は、「2%の物価上昇」を目標とする政策協定(アコード)を締結しまし。黒田第31代日銀総裁の前任である白川第30代日銀総裁の最終盤に公表した「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」と題するアコードには、次のようなことが明記されています。
(1)政府・日銀が政策連携を強化し、一体的に取り組む
(2)物価安定目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする
(3)政府は財政運営の信認を確保する取り組みを着実に推進する
2013年4月4日、黒田第31代日銀総裁は、デフレからの脱却を目指して、異次元の量的・質的金融緩和政策を打ち出して、2%の物価安定の目標を、2年程度の期間を念頭において実現すると宣言しました。「物価目標2%の達成に向けて、達成期間2年を念頭に置き、マネタリーベースを2倍にする」
インフレ目標2%は、マネタリーベースを2倍にしても2年間では達成できず、10年目の2022年4月に前年比+2.1%に乗せることで達成できた。マネタリーベースは、過去最大規模の687兆4736億円で約5倍となっていた。
マネタリーベースの残高は2012年末が138兆円でしたが、黒田バズーカ砲第1弾では、2013年末が200兆円、2014年末が270兆円と示唆されていました。
2023年4月28日、植田日銀総裁にとっての初の日銀金融政策決定会合では、金融政策の現状維持が全員一致で決定されました。マイナス政策金利(▲0.10%)と10年物国債金利の誘導目標ゼロ%が維持され、許容変動幅も±0.5%で据え置かれました。
植田日銀総裁は「拙速な引き締めで2%物価目標が達成できないリスクの方が大きい」と述べています。
■1年~1年半程度かけて「政策レビュー」を実施
・1998年からの金融緩和策をレビューする
・レビュー期間中の政策修正の可能性は排除しない
■フォワードガイダンスの修正⇒利下げバイナスの排除
・削除:「新型コロナの影響を注視」「現在の長短金利の水準またはそれを下回る水準で推移すると想定している」
・追加:「内外の経済や金融市場を巡る不確実性が極めて高い中、経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していくことで賃金の上昇を伴う形」
■展望リポート:2025年度コア物価見通しは+1.6%