2011年、米国の外交専門誌「フォーリンポリシー(Foreign Policy)」は、米国議会での債務上限(debt ceiling)の引き上げを巡る不毛な論争に対して「無能な議会(Parliamentary Funk)」と批判しました。そして、無能な議会を持つ国として、アメリカ以外に、日本、ベルギー、台湾、イラク、アフガニスタン、などを挙げました。無能な議会の共通点として、ナンセンスな党派主義と虚栄心を挙げていました。
2023年1月、米国下院は多数派共和党トップのケビン・マッカーシー院内総務の議長選出まで15回の投票を行っており、2011年夏のような債務上限(debt ceiling)の引き上げが停滞する可能性が警戒されています。
かつて、英国の正体不明の路上芸術家バンクシーは、「民主主義の母」と呼ばれた英国議会を痛烈に風刺した「退化した議会(Devolved Parliament)」で、チンパンジー達が英議会下院の本会議場で討論する姿を描いていました。
2011年8月、米国議会は連邦債務上限の引き上げ期限に向けて不毛な論争を繰り広げ、ウォール街だけでなく世界中の株式市場に混乱をもたらし、米国債の格下げをもたらしました。
2011年8月5日、ホワイトハウス(オバマ第44代米大統領・民主党)と下院共和党の米国債務上限引き上げ問題を巡る政争を受けて、米格付け機関スタンダード&プアーズ(S&P)が、アメリカの長期発行体格付けを「AAA」から「AA+」に格下げしたことで、「米国債ショック」が世界の株式・債券・ドル相場を下落させました。
『余震(アフターショック)』(ロバート・ライシュ著)では、2020年の米国大統領選挙において、共和党でも民主党でもない独立党が勝利し、国際機関からの脱退、米国債のデフォルト(債務不履行)宣言、など内向的戦略に陥る仮定が描かれています。
2022年11月8日に実施された中間選挙の下院選(定数435議席)で、野党・共和党が222議席(改選前212議席)、与党・民主党が213議席(改選前220議席)となり、共和党が多数派を奪還しました。
しかし、多数派共和党トップのケビン・マッカーシー院内総務が過半数の218票で選出されるはずの米下院議長選挙では、21名の共和党議員の造反により、1859年の44回の投票以来164年ぶりとなる15回目の投票でようやく決着(216票対212票)しました。
マッカーシー下院議長には、法定上限(31兆4000億ドル)を上回っている連邦政府債務の法定上限引き上げや政府資金の手当てなどの重要問題が待っており、さらなる混乱が見込まれています。法定上限引き上げが難航した場合の最悪のシナリオは、2011年8月のような米国債格下げの可能性が高まることになります。
バイデン米大統領は、100年ぶりの再投票を経ても下院議長を選出できない状況について、「私の問題ではないが、世界中が注目している中で、恥ずかしいことだ」と述べました。
トランプ前米大統領は、保守強硬派のトランプ・チルドレンを説得してマッカーシー下院議長に恩を売ることができたので、2024年の大統領選挙での共和党候補になるという目論見通りだったのかもしれません。
国際情勢のリスク分析を手がける米コンサルタント会社「ユーラシア・グループ」が発表した2023年の世界の「10大リスク」では、8位に「米国の分断(Divided States of America)」が挙げられています。2020年の米国大統領選挙での「ブルー(民主党)」と「レッド(共和党)」の分断が2024年の米国大統領選挙に向けて激化する可能性が指摘されています。
メドヴェージェフ前露大統領の2023年の10の予想(What can happen in 2023)では、8位に米国で内戦が勃発し、イーロン・マスク氏が大統領に選出される、とのことです。