2018年、黒田第31代日銀総裁は、FT記者から「インフレ目標2%」に関する質問を受けて不可思議な回答をし、2023年、白川第30代日銀総裁は、サマーズ元米財務長官に「インフレ目標2%」に関する質問をしました。
白川第30代日銀総裁は、黒田第31代日銀総裁が主導した異次元の大規模金融緩和策を、壮大な金融実験の失敗、と断じており、両者の「インフレ目標2%」に対する見立てが窺い知れることから、確認しておきたいと思います。
1.黒田第31代日銀総裁の「インフレ目標2%」
2018年1月26日、ダボス会議で行われた会合に、黒田日銀総裁、カーニー・イングランド銀行総裁、ラガルドIMF(国際通貨基金)専務理事(※現ECB総裁)が参加しました。
進行役は、フィナンシャル・タイムズ紙の名物記者、マーチン・ウルフ氏でした。
会合の終わりに、ある人が「インフレ目標2%はいいことなのか?」と質問をしました。
ウルフ記者は、まずラガルドIMF専務理事に質問を回すと、ラガルドIMF専務理事は「インフレ目標2%は国によって異なることもある」と無難に答えました。
次に、ウルフ記者は、黒田日銀総裁に対して、「日本はデフレが長かったので、2%では低く、4%目標ではどうか?」と質問しました。
黒田日銀総裁は、「インフレ目標の物価統計には上方バイアスがあるので、若干のプラスが必要なこと、ある程度プラスでないと政策の対応余地が少なくなること、先進国間の為替の変動を防ぐことなどの理由で、先進国で2%インフレ目標が確立されてきた」と答えました。
日銀金融政策決定会合後の国内向けの記者会見では、通用する名回答かもしれませんが、国際会議では、意味不明の迷回答になりました。
2. 白川第30代日銀総裁の「インフレ目標2%」
2023年6月、サマーズ元米財務長官の講演会に、聴衆として参加していた白川第30代日銀総裁が質問しました。
「白川方明、日本銀行の元総裁です。財政政策はインフレ率を上昇させることができるということが良かれ悪かれ証明されてしまいました。であれば、インフレ目標に2%の余裕を持っておく必要はないという議論が出来るのではないでしょうか?こうした議論についてどう思いますか?」
2013年4月、黒田第31代日銀総裁がインフレ目標2%を達成するために導入した「異次元の大規模質的・量的金融緩和策」は、2022年4月までの9年間、まったく機能しなかった。しかし、コロナ給付金という大規模財政出動により、2022年4月のコア消費者物価指数は2%台に乗せました。
サマーズ元米財務長官の回答は以下の通りです。
「そのような見解は興味深いですね。従来の主流な見解は、インフレ目標を引き上げるべきだというものでした。そして、そういう見解は、景気後退を回避したい人々から出てきています。あなたの見解は、財政政策が万能の物価安定ツールであり、インフレ目標は2%ではなく1.5%でも良いのではないかということですね。その議論を試してみるために、あなたを米国議会に招待しましょうか」