かつて、バーナンキ第14代FRB議長は、ジャクソンホール会合での夕食会で、「このテーブルで皆に共通していることは、我々皆、論文のアドバイザーがフィッシャー氏だということだ」と述べました。
FRB副議長やイスラエル中銀総裁を務めた著名経済学者スタンレー・フィッシャー氏のマサチューセッツ工科大学(MIT)の教え子は、バーナンキ第14代FRB議長、ドラギ第3代ECB総裁、サマーズ元米財務長官、ロウRBA総裁などがいます。そして、植田第32代日銀総裁が誕生した場合、4人目の中銀総裁となります。
サマーズ元米財務長官は、「日本のベン・バーナンキだと考えてもいいだろう」と述べています。
バーナンキ第14代FRB議長は、2008年1月に「米国のリセッション(景気後退)入りの可能性は低い」と述べていましたが、米国は2007年12月からリセッションに陥っていました。そして、2008年9月のリーマンショックを「住宅市場に限られた問題」として無視した人物であり、サマーズ流の皮肉に聞こえるのですが。
植田氏の最近の見解と日銀審議委員時代の見解を確認しておきます。
植田元日銀審議委員の最近、そして、2018年から2022年までの見解は以下の通りです。
■2023年2月10日
「現在の日銀の政策は適切であり、現状では金融緩和の継続が必要であると考えている」
■2022年7月日経新聞のコラム
「難しいのは、長期金利コントロールは微調整に向かない仕組みだという点である」
「異例の金融緩和枠組みの今後については、どこかで真剣な検討が必要だろう」
「拙速な引き締めは避けるべき」
「2%インフレの持続的な達成には程遠い」
「円安回避のための利上げは景気悪化招く」
「世界経済の減速が金融政策変更の重荷」
■2019年4月日経新聞のコラム
「低インフレ続きインフレ予想は低位安定」
「FRB検討の平均インフレ目標政策は疑問」
「危機対応の金融緩和が次のバブルの種に」
■2018年8月日経新聞のコラム
「長短金利操作やETF購入の副作用懸念」
「実質は極めて弱いフォワードガイダンス」
「物価低迷長引くほど対策の副作用は強く」
植田氏が日銀審議委員の頃の見解は以下の通りになります。
2000年の春、アメリカのITバブルが崩壊しましたが、しばらく日本経済の小康状態が続いきまし。そこで、2000年8月11日の金融政策決定会合で、ゼロ金利政策の解除が決定されました。解除案の採決では9人の政策委員の内賛成7、反対2(元東亜燃料工業社長の中原伸之氏と東大教授の植田和男氏)。
日銀はデフレ懸念は払拭されたとの見立てでしたが、その後世界的な同時不況に陥り、2000年末にリセッション(景気後退)が始まりました。このため、2001年2月末の日銀金融政策決定会合では政策金利である無担保コールレートは0.25%から0.15%に引き下げられ、3月には量的緩和が開始され、無担保コールレートは実質的にゼロに低下し、再びゼロ金利政策が始まりました。
■賛成7人:速水総裁、藤原副総裁、山口副総裁、武富委員、三木委員、篠塚委員、田谷委員
■反対2人:植田委員・中原委員
【植田委員】
・株式市場の動向等をもう少し見極めたい
・一定の前提に基づき試算した適正な金利水準が漸くゼロ近傍に達したという状況であり、これがもう少しはっきりとプラスになるまで待ちたい
・足許のインフレ動向から判断して、「待つこと」のコストは大きくない
【中原委員】
・ゼロ金利政策の解除は、先行きの日銀の独立性や経済政策運営における政府との関係等の問題に大きな影響を与える可能性がある
・政府の経済見通しと日本銀行執行部の見方との乖離が、特に設備投資と輸出で非常に大きく、アカウンタビリティーが不十分である
・今回の決定は内外からの政府・日本銀行の政策的一体感に対する不信感をさらに一段と強めることになるため、時間をかけて政府との間で擦り合わせを行うべきである
・量的緩和の実質的終焉は、株価、為替に悪影響を与えると思われるなど、金融市場に対して良い影響を与えない
・GDPギャップがかなり残存する中での利上げは、オーソドックスな経済理論では理解できないうえ、世界の経済学界での主流的意見にも反することから、諸外国より「日銀異質論」が生じかねない