あの時あの動き、過去から学ぶ

第53回 2024年米国大統領選挙のジンクス

「It’s the economy stupid!」(1992年米大統領選でのクリントン陣営発言)

 

クリントン第42代米大統領とオバマ第44代米大統領は、下院で多数派だった共和党と債務上限引き上げで揉めた後、2期目の再選を果たしました。

このジンクスからは、バイデン第46代米大統領は、今年、下院で多数派だった共和党と債務上限引き上げで揉めたことで、2024年の大統領選挙で再選される可能性が高いことになります。

しかし、米国経済が大統領選挙の年にリセッション(景気後退)に陥っていた場合、当然のことながら、現職の大統領は再選を果たせませんでした。

このジンクスからは、バイデン第46代米大統領は2024年の大統領選挙で再選される可能性が低いことになります。

 

1.2024年のリセッション(景気後退)の可能性

2022年春に、リセッションの先行指標として注目されている米国2年債と10年債の利回り差による「長短金利逆転(逆イールド)」が発生したことで、米国大統領選挙の年である2024年のリセッションの可能性が高まっています。2-10年債の「逆イールド」は、1978年以降の6回のリセッションを全て予告してきています。さらに、2023年春には、逆イールドの乖離が1%となり、リセッション入りをほぼ確実なものにしています。1%の逆イールドは、8カ月以内のリセッション入りを警告してきました。

米国の大統領選挙での再選に向けた選挙期間中にリセッションに陥った例は3回ありますが、いずれも現職が敗北しています。

 

・1980年カーター第39代大統領:イラン革命による原油価格の高騰

・1992年ブッシュ第41代大統領(父):湾岸戦争による景気減速

・2020年トランプ第45代米大統領:新型コロナのパンデミック不況

 

2.債務上限引き上げ協議

■クリントン第42代米大統領

1995年、民主党クリントン政権と下院議長ニュート・ギングリッチ率いる共和党による予算を巡る党派対立の高まりと債務上限引き上げ問題が同時に発生しました。議会両院の多数党を占めていた共和党は歳出法案と債務上限引き上げ法案を阻止することでクリントン政権から妥協を引き出そうとしたものの、クリントン政権が容易に屈しなかったことで、政府機関が閉鎖されました。

クリントン第42代米大統領は、1996年の大統領選挙で再選を果たしました。

債務上限はクリントン政権の下で、1993年4月に4兆3700億ドルに引き上げられ、1997年8月には5兆9500億ドルまで引き上げられました。

 

■オバマ第44代米大統領

2011年5月、債務残高が上限(14兆2900億ドル)に到達したことで、米財務省は8月2日までの「異例の措置」を採用しました。オバマケア(公的医療保険)の見直しや歳出の削減を求める共和党議会とオバマ大統領との交渉が難航したものの、7月31日に米議会は債務上限引き上げを承認したことで、米国のデフォルトは回避されました。

オバマ第44代米大統領は、2012年の大統領選挙で再選を果たしました。

債務上限はオバマ政権の下で、2009年2月に11兆3150億ドルから12兆1040億ドルに引き上げられ、2015年3月には18兆1000億ドルまで引き上げられました。

 

■バイデン第46代米大統領

2023年1月、債務残高が上限(31兆4000億ドル)に到達したことで、イエレン米財務長官は、米国がデフォルトに陥るXデイを6月1日(後に6月5日へ延長)と警告しました。

6月3日に、バイデン米大統領が、2024年11月の米国大統領選挙が終わった2025年1月まで「債務上限」の適用を停止する「財政責任法案(Fiscal Responsibility Act of 2023)」に署名しました。

この連載の一覧
第55回  ハト派とタカ派(2)
第54回 白川第30代日銀総裁と黒田第31代日銀総裁の「2%」
第53回 2024年米国大統領選挙のジンクス
第52回 2022年秋のドル売り・円買い介入
第51回 米為替報告書、日本を「監視リスト」から放免
第50回 「AIバブル」と「ドットコム・バブル」
第49回 40年周期の国策の失敗
第48回 チキンゲームという空騒ぎの閉幕
第47回  エルドアン=オアン体制の誕生
第46回 バーナンキ第14代議長とパウエル第16代議長の利上げ休止宣言
第45回 エルドアン・トルコ大統領、辛勝するものの信任されず
第44回  黒田総裁から植田総裁へ
第43回  米民主党大統領と下院共和党による茶番劇
第42回 タカ派かハト派か、それが問題だ
第41回 新デジタル円への切替という既視感
第39回 2008年と2023年の既視感
第38回 日銀10年の宴の終焉
第37回 パウエルFRB議長の「2011年夏の日の思い出」
第36回 「パンドラの箱」の中のリバーサル・レート
第35回 ワシントンでのインフレ巡る女子会
第34回 植田(元)日銀審議委員と第32代日銀総裁(候補)
第33回 勝つ介入
第32回 1兆ドルのプラチナコイン発行?
第31回 金融政策のパンドラの箱「YCC」
第30回  債務上限を巡る茶番劇
第29回 無能な議会 (Parliamentary Funk)
第28回 ドル高・円安8年サイクル
第27回 1987年と1998年に生まれて
ターミナルレートの後のリセッション
第25回【あの時あの動き、過去から学ぶ】カラー革命
第24回【あの時あの動き、過去から学ぶ】マラドーナ理論(Maradona theory)
第23回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ワールドカップの法則
第22回【あの時あの動き、過去から学ぶ】パリ合意
第21回【あの時あの動き、過去から学ぶ】カーターショック
第20回【あの時あの動き、過去から学ぶ】英国民主主義の黄昏
第19回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ルーブル合意(1987年2月:153.50円±2.5%)
第18回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ドルの価値を決める者:米国大統領
第17回【あの時あの動き、過去から学ぶ】10月はウォール街の危険な季節
第16回【あの時あの動き、過去から学ぶ】9月は金融危機の季節
第14回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ゴルバチョフ元ソ連大統領の光と影
第13回【あの時あの動き、過去から学ぶ】8月は円高トラウマ
第10回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ブラックマンデー
第9回【あの時あの動き、過去から学ぶ】消費増税と円安
第8回【あの時あの動き、過去から学ぶ】大地震と円高
第7回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ニクソン・ショック
第6回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ドル円固定相場(1ドル=360円)決定
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第3回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ソロスが英中銀を撃破した日
第2回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ボルカー・ショック(1979年)
第1回【あの時あの動き、過去から学ぶ】1985年9月の「プラザ合意」

為替情報部 アナリスト

山下 政比呂

証券会社で株式・債券の営業、米系銀行で為替ディーラー業務(スポット、スワップ、オプション)に従事。プライベートバンクでは、為替のアドバイサーとして円資産からドル建て資産への分散投資を推奨してきたドル高・円安論者。 「酒田罫線法」「エリオット波動分析」「ギャン理論」などのテクニカル分析をベースに、ファンダメンタルズ分析との整合性を図り、相場観を構築。 ウォール街の格言「ゴルフと相場は、どちらもタイミングが全て」に出合い、ゴルフと相場の共通項を模索中。 2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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