あの時あの動き、過去から学ぶ

第16回【あの時あの動き、過去から学ぶ】9月は金融危機の季節

1928年からのウォール街の経験則では「9月は年間で最もパフォーマンスが悪い月」とされていますが、20世紀の基軸通貨ドルや19世紀の基軸通貨ポンドにとっても危険な季節となっています。


2022年9月のダウ平均は、12日の高値32504.04ドルから30日安値28715.85ドルまで▲3788.19ドル下落しました。

まず、パウエルFRB議長が、FF金利誘導目標の第5次利上げ(+0.75%)を断行し、インフレが抑制されるまで高金利政策を続けると表明しました。ドット・プロット(金利予測分布図)は、2022年末のFF金利誘導目標は4.4%程度と示されました。


また、プーチン露大統領が、部分動員令を発令し、ウクライナの占領地域での住民投票を断行してロシア領に併合し、戦術核の使用を警告したことも、欧州株式市場の下落に繋がらりました。

そして、トラス英首相が、公約通りの大型減税「トラスノミクス」を発表して、英国市場をトリプル安に陥れました。ポンドドルは、史上最安値の1.0350ドルまで下落しました。


ユーラシア大陸の西側では、ロシアによるウクライナ侵攻の泥沼化、欧州のエネルギー危機、東側では、台湾を巡る米国と中国の関係緊迫化が懸念材料となっています。

また、世界の中央銀行がインフレ抑制のために金融政策正常化に踏み出しており、物価所と景気減速によるスタグフレーション、そして、リセッション(景気後退)への警戒感が高まりつつあります。

 

9月の金融危機を振り返っておきたいと思います。


1985年9月22日のプラザ合意では、ドル円はドル高是正を受けて、244.10円から215.80円まで▲28.30円下落しました。

1985年1月の先進5か国(G5)蔵相・中央銀行総裁会議で、ローソン英蔵相とベーカー米大統領補佐官は、ドル高是正の必要性を確認しました。2月にベーカー米大統領補佐官が第67代財務長官に任命され、ドル高是正の機運が高まりました。

ドル円は2月の高値263.65円から1988年1月の安値120.45円まで、長期下落トレンドを辿りました。

 

1998年9月23日のLTCM危機では、ドル円は高値139.95円から安値128.80円まで下落後、終値は136.70円でした。

ドル円は、ロシア金融危機を受けたロングタームキャピタルマネジメント(LTCM:Long-Term Capital Management)の破綻により、1998年8月の高値147.64円から1999年11月の安値101.25円まで下落しました。

グリーンスパン第13代FRB議長は、FFレートを1998年9月、10月、11月と3ヶ月連続で引き下げました。

 

2001年9月11日の米国同時多発テロでは、ドル円は高値122.08円から安値115.80円まで▲6.28円下落しました。

 

2008年9月15日のリーマンショックでは、ドル円は高値109.19円から安値103.50円まで▲5.69円下落しました。

米国住宅市場のバブル崩壊を受けたリーマン・ブラザースの破綻により、ドルやダウ平均は大幅に下落しました。

英国ロンドンのシティは、ヨーロッパの金融センターであり、サブプライムローンを幅広く扱っていたため、金融危機の損失がヨーロッパ最大となりました。

ブラウン第74代英首相は、金融機関の救済策を打ち出したものの、英国経済はリセッション(景気後退)に陥りました。

ポンドドルは、1.8669ドルから1.3503ドルまで、0.5166ドル下落しました。

この連載の一覧
第55回  ハト派とタカ派(2)
第54回 白川第30代日銀総裁と黒田第31代日銀総裁の「2%」
第53回 2024年米国大統領選挙のジンクス
第52回 2022年秋のドル売り・円買い介入
第51回 米為替報告書、日本を「監視リスト」から放免
第50回 「AIバブル」と「ドットコム・バブル」
第49回 40年周期の国策の失敗
第48回 チキンゲームという空騒ぎの閉幕
第47回  エルドアン=オアン体制の誕生
第46回 バーナンキ第14代議長とパウエル第16代議長の利上げ休止宣言
第45回 エルドアン・トルコ大統領、辛勝するものの信任されず
第44回  黒田総裁から植田総裁へ
第43回  米民主党大統領と下院共和党による茶番劇
第42回 タカ派かハト派か、それが問題だ
第41回 新デジタル円への切替という既視感
第39回 2008年と2023年の既視感
第38回 日銀10年の宴の終焉
第37回 パウエルFRB議長の「2011年夏の日の思い出」
第36回 「パンドラの箱」の中のリバーサル・レート
第35回 ワシントンでのインフレ巡る女子会
第34回 植田(元)日銀審議委員と第32代日銀総裁(候補)
第33回 勝つ介入
第32回 1兆ドルのプラチナコイン発行?
第31回 金融政策のパンドラの箱「YCC」
第30回  債務上限を巡る茶番劇
第29回 無能な議会 (Parliamentary Funk)
第28回 ドル高・円安8年サイクル
第27回 1987年と1998年に生まれて
ターミナルレートの後のリセッション
第25回【あの時あの動き、過去から学ぶ】カラー革命
第24回【あの時あの動き、過去から学ぶ】マラドーナ理論(Maradona theory)
第23回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ワールドカップの法則
第22回【あの時あの動き、過去から学ぶ】パリ合意
第21回【あの時あの動き、過去から学ぶ】カーターショック
第20回【あの時あの動き、過去から学ぶ】英国民主主義の黄昏
第19回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ルーブル合意(1987年2月:153.50円±2.5%)
第18回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ドルの価値を決める者:米国大統領
第17回【あの時あの動き、過去から学ぶ】10月はウォール街の危険な季節
第16回【あの時あの動き、過去から学ぶ】9月は金融危機の季節
第14回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ゴルバチョフ元ソ連大統領の光と影
第13回【あの時あの動き、過去から学ぶ】8月は円高トラウマ
第10回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ブラックマンデー
第9回【あの時あの動き、過去から学ぶ】消費増税と円安
第8回【あの時あの動き、過去から学ぶ】大地震と円高
第7回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ニクソン・ショック
第6回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ドル円固定相場(1ドル=360円)決定
第5回【あの時あの動き、過去から学ぶ】欧州統一通貨「ユーロ」誕生
第4回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ロシアのデフォルト(債務不履行)
第3回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ソロスが英中銀を撃破した日
第2回【あの時あの動き、過去から学ぶ】ボルカー・ショック(1979年)
第1回【あの時あの動き、過去から学ぶ】1985年9月の「プラザ合意」

為替情報部 アナリスト

山下 政比呂

証券会社で株式・債券の営業、米系銀行で為替ディーラー業務(スポット、スワップ、オプション)に従事。プライベートバンクでは、為替のアドバイサーとして円資産からドル建て資産への分散投資を推奨してきたドル高・円安論者。 「酒田罫線法」「エリオット波動分析」「ギャン理論」などのテクニカル分析をベースに、ファンダメンタルズ分析との整合性を図り、相場観を構築。 ウォール街の格言「ゴルフと相場は、どちらもタイミングが全て」に出合い、ゴルフと相場の共通項を模索中。 2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

山下 政比呂の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております