2020年11月25日、史上最高のサッカー選手と評されるディエゴ・マラドーナ氏(1960-2020年)が60歳で死去したと報じられました。マラドーナ氏は、1960年にアルゼンチンのブエノスアイレスに生まれ、15歳でプロデビューし、16歳でアルゼンチン代表となり10番を背負って、FIFAサッカーワールドカップ(W杯)に4度出場しました。優勝の立役者となった1986年メキシコ大会では、準々決勝のイングランド戦で「神の手ゴール」と「5人抜きゴール」という伝説のプレーを残しました。2008~10年にはアルゼンチン代表監督も務めました。
「神の手ゴール」では、本人が「神の手が触れた」とハンドを認め、テレビ中継の再生映像でもマラドーナがジャンプしながら振り上げた左手の拳でボールをはたいている瞬間が映っていたものの、審判はマラドーナがヘディングでボールにコンタクトしたと判断して、ゴールを認めました。マラドーナ氏は、自伝でハンドだったことを認め、「早く来て自分を抱き締めないと、審判が得点を認めないぞ」とチームメイトに呼びかけたことを告白しています。「ワールドカップで勝てるなら手だって使うさ。審判が認めれば、それでゴールだ」とのことです。
この時のボールは、試合の審判を務めたチュニジア人のアリ・ビン・ナセルさんが所有していましたが、2022年11月16日にイギリスのオークションに出品され、200万ポンド(@170円=3億4000万円)で落札されました。
当時、メキシコから遥か離れた東京でテレビ観戦しており、ハンドなのは明らかでしたが、間近で見ていた審判には見えなかったようです。
「5人抜きゴール」では、マラドーナは、5人のイングランドのディフェンダーが、彼の左右の動きを勝手に予想していたために、60ヤードを直線的に独走してゴールを決めました。
イングランド銀行のキング総裁(当時)は、2005年5月の演説において、1986年のFIFAワールドカップメキシコ大会のアルゼンチン対イングランド戦でのマラドーナ選手の「伝説の5人抜き」を引き合いに出して、「金利のマラドーナ理論(Maradona theory)」を命名しました。
「偉大なサッカー選手マラドーナが、イングランド戦で見せたゴールは、金利の現代理論における『期待の力』を示唆したものであり、金融政策も同様に機能する。市場金利は中央銀行が何をするかという予想に反応する」と述べました。
金融政策の考え方として、中央銀行がインフレ率の目標値を「フォワードガイダンス」として公表すれば、市場は中央銀行の今後の金融政策を予想して金利形成を行います。
2021年までは、世界の中央銀行は、「インフレ高進は一時的」と軽視して、ハト派的な金融緩和政策に邁進していました。
しかし、2022年になってからは、高進し続けるインフレを抑制するために、タカ派的な金融政策の正常化に乗り出しています。
マラドーナは、イングランドのディフェンダーの「予想」を巧みに利用して、5人を華麗に抜き去って得点を決めました。マラドーナが繰り出すであろう華麗なドリブルによって縦横無尽な動きを「予想」したイングランド守備陣は、その勝手な「予想」によって左右に動いてしまったことで、マラドーナは60ヤードを直線的に独走してゴールを奪いました。
市場は、2021年まではインフレ見通しを間違っていた世界の中央銀行が、2022年以降も間違っているかもしれない、と警戒しながら、債券、株式、通貨の売り買いに臨んでいます。