あの時あの動き、過去から学ぶ

第52回 2022年秋のドル売り・円買い介入

「円安、過度な動きがあれば『適切』に対応」(神田財務官:6月28日)

 

 日本銀行の大規模金融緩和の継続を受けて、円は全面安の展開となりつつあり、ドル円は145円台まで上昇し、本邦通貨当局によるドル売り・円買い介入への警戒感が高まりつつあります。

 2022年秋の過去最大規模のドル売り・円買い介入(9兆1880億円)により、ドル円は、10月の高値151.95円から今年1月の安値127.23円まで、半値押し水準まで下落しました。


 本邦通貨当局のドル売り・円買い介入を主導している神田財務官は、ボラティリティーの抑制を介入の大義名分としており、ボリンジャー・バンド+2σ付近での介入断行が確認されています。

 また円買い介入時のIMM通貨先物投機部門の円売り持ち高が11~14万枚だったことで、円売り持ちポジションが膨らんだタイミングが確認できます。さらに、介入が断行された時間帯は、東京勢の参入直後や退出後、欧州勢の退出後などとなっていました。

 すなわち、孫子の兵法『軍形篇』「勝兵は先ず勝ちて、しかる後に戦いを求め」にあるように、介入で勝利する態勢(時間帯と投機筋のポジション)を整えてから介入を断行しています。


 ドル売り介入の原資である外為特会の外貨は1兆1264億ドルあり、持ち値は100円程度とのことで、いわゆる埋蔵金は、145円で換算した場合50兆円となっています。

本邦通貨当局は、ドル円が100円を割り込んでいた頃、本邦輸出企業のドル売り水準を防戦するため、ドル買い介入を行ってきました。

 ドル円が下落基調にある時は、為券を発行して低金利の円を調達し、外国為替市場でドルを購入し、高金利の米国債で運用していますので、世界最大規模の「円・キャリートレード」を行ってきたわけです。


 現状は、ドル円が上昇基調にありますので、本邦輸出企業から買い取ったドルを売却することで、本邦輸入企業のドル買い水準を抑える構図となります。

 

 神田財務官は、「あまりにおかしいボラティリティーに対し、正常化することが求められる」と述べ、ボラティリティーの抑制を円買い介入の錦の御旗として掲げています。米国財務省報道官は「日銀は外為市場に介入した。このところ高まっている円のボラティリティーを下げることを目的とした行動だった理解している」と述べ、ボラティリティー抑制のための円買い介入を容認していました。

 さらに、直近の米財務省の「為替報告書」では、日本は、監視国リスト(※ドル買い・当該国通貨売りの介入を監視)から除外されましたので、ドル売り・円買い介入は、自由に実施できる環境が整いました。


 本邦通貨当局のドル売り・円買い介入の水準を検証すると、ボリンジャー・バンドのミッドバンドに一目・基準線(過去26日間の中心値)とほぼ同様の「26日」移動平均線を使用し、標準偏差「+2σ」に接近したボラティリティー上昇局面で円買い介入を断行していることが確認できます。


 6月27日終了週のIMMの円売り持ち高は150888枚、「+2σ」は145.50円付近に位置しています。

 

■2022年9月22日(木)の第1弾の円買い介入(2兆8382億円)

・介入時間帯:日本時間17時半頃(アジア・東京勢が退場し、欧州勢が参入し始めた頃)

・IMM円売り持ち高:116047枚(※9/20)

・ドル円:高値145.90円から安値140.36円まで、5.54円(3.8%)下落しました。一目均衡表・基準線は140.28円だったので、高値との乖離率は3.8%となります。

・ボリンジャー・バンド+2σ:146.12円

 

■2022年10月21日(金)の第2弾の円買い介入(5兆6202億円)

・介入時間帯:日本時間23時半頃(欧州勢が退場し、NY勢が参入し始めた頃)

・IMM円売り持ち高:124919枚(※10/18)

・ドル円:高値151.95円から安値146.23円まで、5.72円(3.8%)下落しました。一目均衡表・基準線は146.16円だったので、高値との乖離率は3.8%となります。

・ボリンジャー・バンド+2σ:150.39円

 

■2022年10月24日(月)の第3弾の円買い介入(7296億円)

・介入時間帯:日本時間8時半頃(東京勢が参入し始めた頃)

・IMM円売り持ち高:140197枚(※10/25)

・ドル円:高値149.71円から安値145.56円まで、4.15円(2.8%)下落しました。一目均衡表・基準線は146.16円だったので、高値との乖離率は2.4%となります。

・ボリンジャー・バンド+2σ:150.69円

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為替情報部 アナリスト

山下 政比呂

証券会社で株式・債券の営業、米系銀行で為替ディーラー業務(スポット、スワップ、オプション)に従事。プライベートバンクでは、為替のアドバイサーとして円資産からドル建て資産への分散投資を推奨してきたドル高・円安論者。 「酒田罫線法」「エリオット波動分析」「ギャン理論」などのテクニカル分析をベースに、ファンダメンタルズ分析との整合性を図り、相場観を構築。 ウォール街の格言「ゴルフと相場は、どちらもタイミングが全て」に出合い、ゴルフと相場の共通項を模索中。 2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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