FX やるならお得に

第173回 実質為替レート 1ドル=270円

円安は続くか

ドル円は先週に158円を迫ったが、今週はいったん上昇が一服し、155円台まで調整が入りました。日銀が12月会合で利上げに踏み切るとの見方や、米12月利下げ思惑の再燃が上値を押さえました。160円台に向けて上昇基調が再加速すると、日本当局の円買い介入への警戒感が高まることは必至で、ドル円の上値余地は限られそうだが、本邦の金利動向には注目です。

 

政府は28日に決定した令和7年度補正予算案に約11.7兆円の国債の追加発行を盛り込みました。補正後の7年度国債発行額は約40.3兆円で、6年度補正後(約42.1兆円)を下回ります。「責任ある積極財政」を掲げる高市早苗首相が述べた「財政の持続可能性にも十分配慮した姿」を反映した格好だが、「高市財政」に対する債券市場の疑念は消えたわけではなく、政府は財政健全化に取り組む姿勢を見せ続ける必要があります。

 

財源が足りない分を補うために行うのが、国債の発行であります。高市首相が自民党総裁選を制して以降、債券市場では超長期金利を中心に上昇基調が鮮明で、財政悪化へのシグナルを発し続けています。実際、補正で決めた発行額を比べると7年度は6年度(約6.7兆円)より増える計算で、国債頼みの構図が続きます。しかも、補正に盛り込まれた危機管理投資・成長投資や防衛力強化、ガソリン減税、所得税が発生する「年収の壁」の引き上げといった施策は、8年度以降も予算措置が必要となります。

 

金利の上昇が止まらず、当局の財政政策がマーケットの信認を得られなければ、「日本売り」と円も一段安になる可能性があります。

 

ドル円の実質為替レート、1ドル=270円

1995年は円が「世界最強の通貨」と呼ばれました。その年の4月に1ドルは平均すると83.6円でした。この値を基準にして日米の消費者物価指数(CPI)を取り込んで計算した10月のドル円の名目為替レートは1ドル=152.8円、実質為替レートは1ドル=270.9円の計算が出ています。(米10月CPIは政府機関閉鎖の影響で発表されず、8・9月データを参考に計算)

 

1ドル=270円台という水準は、過去に遡ると1971年の8-9月の水準に相当します。ただ、当時の実質為替レートは円高傾向であり、現状とは違います。つまり、同時は日本が豊かになっていく過程を象徴している一方で、現在は円がどんどん弱くなり、「日本が貧しくなっている」ことも示しています。

 

高市政権は高い支持率を維持しているが、円安が止まらず物価が一段高となれば、国民の不満は高まるでしょう。

 

財政懸念続くも、トラスショックはないか

高市政権の経済政策の副作用への警戒感が強く、一部では2022年の「トラスショック」を引き合いに出す向きもあります。

 

「トラスショック」は2022年9月に就任した当時のトラス英首相による、大規模な減税政策が引き金となり発生した同国金融市場の混乱のことです。トラスショックにより英長期金利は急騰、ポンドと株式市場は急落して「トリプル安」状態となり、トラス首相は就任からわずか44日で退任に追い込まれました。

 

最近は本邦の株式市場も売りに押され、10年債利回りが約17年ぶりの高水準となり、円安が進むなど、日本の金融市場でもちょっとした「トリプル安」が見られました。ただ、日本でも「トラスショック」が起こる可能性は低いでしょう。

 

日本の対外ポジションは英国とは大きく異なります。日本の経常収支は大幅な黒字であり、また日本国債の海外投資家による保有割合は約6.5%にとどまっていることを鑑みると、日本の債券市場がパニックになる可能性は低いと想定されます。

この連載の一覧
第173回 実質為替レート 1ドル=270円
第172回 インフレと円安
第171回 予算案控え、慌ただしい英政府
第170回 トランプ氏、米中をG2と表現
第169回 ヘッジファンド資産、過去最高
第168回 通貨スワップ協定
第167回 カナダ経済は厳しい
第166回 自動売買のメリット・デメリット
第165回 FX活用の為替ヘッジ
第164回 利下げ再開、米経済は?
第163回 市場とFRB、来年以降の見通しにかい離
第162回 自民党総裁選と金融市場
第161回 英国の財政懸念
第160回 FRB理事の解任騒動
第159回 11人の次期FRB議長候補
第158回 「基調的な物価上昇率」
第157回 中国の政策金利
第156回 今年後半の米経済
第155回 日米合意、今後のドル円は?
第154回 トランプ氏、人民元の影響拡大の引き立て役になるか
第153回 香港ドル、キャリー取引が活発化
第152回 英国でもトリプル安
第151回 中東リスクに円買いではなくドル買い
第150回 悪いドル安
第149回 FX、マイルールを徹底
第148回 FX詐欺の手口
第147回 信認低下のドル、売り圧力が継続
第146回 半導体を制するものが世界を制する
第145回 米中会談、過度な期待は禁物
第144回 加ドル、米加首脳会談に注目
第143回 日米協議、円安是正に一安心も警戒残る
第142回 関税方針、トランプ氏の正念場
第141回 トランプ氏の脅かし、中国には通用しない
第140回 トランプ関税、ポンド相場への影響
第139回 RBA、追加利下げは5月か
第138回 英中銀、慎重な利下げペース維持
第137回 ドイツの大規模な財政拡大策
第136回 中国、今年GDP成長目標を5%前後に
第135回 米消費者信頼感指数、消費鈍化を示唆
第134回 リーダー不在のEU
第133回 各国中銀の利下げも、トランプ関税効果を薄めるか
第132回 円と加ドル、IMMポジションの変化
第131回 FX取引、投資詐欺に注意
第130回 FX、リスクも把握した上で取引を
第129回 トランプ氏VS中国
第128回 トランプトレードはいつまで続くか
第127回 ポジションの手仕舞い
第126回 今年最後の日米金融政策会合
第125回 中国景気、改善傾向もトランプリスク高まる
第124回 尹韓国大統領の戒厳令騒動
第123回 ポジションの管理
第122回 ドル円、160円台復帰はあるか
第121回 AI・FX取引
第120回 FX取引はギャンブルなのか
第119回 FXの確定申告
第118回 元キャリートレードの復活に注意
第117回 ドル円 8/1以来の150円台
第116回 ポンド、雇用・物価データの見極め
第115回 中国、景気支援策を強化
第114回 自民党総裁選、サプライズの結果に
第113回 景気回復が鈍いままの中国経済
第112回 最近の円相場、スキャルピング手法が有利か
第111回 最近主要国の金融政策(4)
第110回 最近主要国の金融政策(3)
第109回 最近主要国の金融政策(2)
第108回 最近主要国の金融政策(1)
第107回 投機筋、2週間以内での勝負多い
第106回 トランプVSハリス
第105回 来週の日銀会合、利上げは?
第104回 イベント・材料の認識から消化まで
第103回 経済指標の基本知識
第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
第98回 ドル・ブル=ドル買いではない
第97回 ドル円 200円になったら
第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
第46回 相場と真摯に付き合う
第45回 金相場と為替
第44回 うわさで買って、事実で売る
第43回 原油相場と為替
第42回 金利差拡大ならお金は金利の高い国へ
第41回 貿易収支と為替相場
第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?
第39回 景気と為替相場
第38回 先物市場で投機筋の動きを把握
第37回 米SVB経営破綻の為替相場への影響
第36回 インフレと為替
第35回 FX、最強の参加者は?
第34回 為替レートの安定は為替ディーラーに不利なのか?
第33回 FXの自動売買取引
第32回 注目度の高い米雇用統計
第31回 リスクオン・リスクオフ取引
第30回 注目度の高い経済指標
第29回 アフリカの人気通貨 南アフリカ・ランド
第28回 安全資産・逃避通貨のCHF
第27回 2023年の為替相場
【FX、やるならお得に】第26回 年末年始の取引に注意
【FX、やるならお得に】第25回 急落で魅力低下の高金利通貨(トルコリラ)
【FX、やるならお得に】第24回 多難も地位が上がりつつある通貨(人民元)
【FX、やるならお得に】第23回 NZドル、豪ドルに似た動き
【FX、やるならお得に】第22回 米国と結びつきが深い通貨(加ドル)
【FX、やるならお得に】第21回 資源国通貨(豪ドル)
【FX、やるならお得に】第20回 変動幅が大きい通貨(ポンド)
【FX、やるならお得に】第19回 取引量第3位(円)
【FX、やるならお得に】第18回 取引量が第2位の通貨(ユーロ)
【FX、やるならお得に】第17回 取引量が最も多い通貨(ドル)
【FX、やるならお得に】第16回 ファンダメンタルズ
【FX、やるならお得に】第15回 順張り・逆張り
【FX、やるならお得に】第14回 為替レートはテーマで動く
【FX、やるならお得に】第13回 為替の変動要因
【FX、やるならお得に】第12回 FXはゼロサムゲーム?
【FX、やるならお得に】第11回 FX取引の注文方法
【FX、やるならお得に】第10回 外国為替取引の中心はドル
【FX、やるならお得に】第9回 外国為替市場と為替レート
【FX、やるならお得に】第8回 FX取引で大事なこと
【FX、やるならお得に】第7回 スワップポイント
【FX、やるならお得に】第6回 FX、利益を得る仕組み
【FX、やるならお得に】第5回 買値、売値とスプレッド
【FX、やるならお得に】第4回 FXの「レバレッジ」
【FX、やるならお得に】第3回 まず「FX」のこと、ちゃんと理解しましょう
【FX、やるならお得に】第2回 そもそも為替って何?
【FX、やるならお得に】第1回 敵知らずして勝利なし!

為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

金 星の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております