円安は続くか
ドル円は先週に158円を迫ったが、今週はいったん上昇が一服し、155円台まで調整が入りました。日銀が12月会合で利上げに踏み切るとの見方や、米12月利下げ思惑の再燃が上値を押さえました。160円台に向けて上昇基調が再加速すると、日本当局の円買い介入への警戒感が高まることは必至で、ドル円の上値余地は限られそうだが、本邦の金利動向には注目です。
政府は28日に決定した令和7年度補正予算案に約11.7兆円の国債の追加発行を盛り込みました。補正後の7年度国債発行額は約40.3兆円で、6年度補正後(約42.1兆円)を下回ります。「責任ある積極財政」を掲げる高市早苗首相が述べた「財政の持続可能性にも十分配慮した姿」を反映した格好だが、「高市財政」に対する債券市場の疑念は消えたわけではなく、政府は財政健全化に取り組む姿勢を見せ続ける必要があります。
財源が足りない分を補うために行うのが、国債の発行であります。高市首相が自民党総裁選を制して以降、債券市場では超長期金利を中心に上昇基調が鮮明で、財政悪化へのシグナルを発し続けています。実際、補正で決めた発行額を比べると7年度は6年度(約6.7兆円)より増える計算で、国債頼みの構図が続きます。しかも、補正に盛り込まれた危機管理投資・成長投資や防衛力強化、ガソリン減税、所得税が発生する「年収の壁」の引き上げといった施策は、8年度以降も予算措置が必要となります。
金利の上昇が止まらず、当局の財政政策がマーケットの信認を得られなければ、「日本売り」と円も一段安になる可能性があります。
ドル円の実質為替レート、1ドル=270円
1995年は円が「世界最強の通貨」と呼ばれました。その年の4月に1ドルは平均すると83.6円でした。この値を基準にして日米の消費者物価指数(CPI)を取り込んで計算した10月のドル円の名目為替レートは1ドル=152.8円、実質為替レートは1ドル=270.9円の計算が出ています。(米10月CPIは政府機関閉鎖の影響で発表されず、8・9月データを参考に計算)
1ドル=270円台という水準は、過去に遡ると1971年の8-9月の水準に相当します。ただ、当時の実質為替レートは円高傾向であり、現状とは違います。つまり、同時は日本が豊かになっていく過程を象徴している一方で、現在は円がどんどん弱くなり、「日本が貧しくなっている」ことも示しています。
高市政権は高い支持率を維持しているが、円安が止まらず物価が一段高となれば、国民の不満は高まるでしょう。
財政懸念続くも、トラスショックはないか
高市政権の経済政策の副作用への警戒感が強く、一部では2022年の「トラスショック」を引き合いに出す向きもあります。
「トラスショック」は2022年9月に就任した当時のトラス英首相による、大規模な減税政策が引き金となり発生した同国金融市場の混乱のことです。トラスショックにより英長期金利は急騰、ポンドと株式市場は急落して「トリプル安」状態となり、トラス首相は就任からわずか44日で退任に追い込まれました。
最近は本邦の株式市場も売りに押され、10年債利回りが約17年ぶりの高水準となり、円安が進むなど、日本の金融市場でもちょっとした「トリプル安」が見られました。ただ、日本でも「トラスショック」が起こる可能性は低いでしょう。
日本の対外ポジションは英国とは大きく異なります。日本の経常収支は大幅な黒字であり、また日本国債の海外投資家による保有割合は約6.5%にとどまっていることを鑑みると、日本の債券市場がパニックになる可能性は低いと想定されます。



