中国株投資を始めるためのキーワード

「房住不炒」:不動産投機を封じ込む中国の不動産政策基調

中国株を始めるためのキーワード。今回は「房住不炒」について紹介します。


中国の習近平・国家主席は2016年12月、翌年の経済政策指針を決定する中国における経済関連の最高級会議、中央経済工作会議で、「房子是用来住的、不是用来炒的」との表現を初めて使いました。日本語に訳しますと、「住宅は住むためのものであって、投機するためのものではない」。「炒」は日本語と同じく「炒める」の意味ですが、中国語では「投資・投機」の意味合いもあります。


「房子是用来住的、不是用来炒的」はその後、中国の重要会議で度々登場し、強力な政策を講じて不動産投機を徹底的に封じ込めるスタンスが習近平政権の不動産政策基調になっています。いつからか、「房住不炒」の略語が使われるようになりました。


住宅価格の上昇がとまらず、17年秋に「4つの制限」で“史上最強”の締め付け

中国当局による不動産市場の引き締めは、習近平政権から始まったものではありません。2010年あたりから、住宅価格の高騰を抑制するために、住宅ローン規制や住宅購入規制などがすでに導入されていました。しかし、中国人の「持ち家」に対する強い執着のためか、住宅価格の上昇はなかなか止まりません。値上がり期待が続くなか、「投資」目的での不動産購入も実際には跡を絶たず、1世帯につき住宅1軒を基本とする当局の規制を逃れるために夫婦が偽装離婚までして世帯を分け、2軒目の家を買うケースが多発する時期もありました。


「房住不炒」が初登場した翌年の2017年3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、「主要都市の不動産価格の過度な高騰を抑制する」との文言が入った政府活動報告(施政方針)が採決されました。それを受けて、全人代の閉幕後に北京市をはじめ、全国各地で締め付け強化の動きが広がり、住宅ローン規制や購入制限などの新措置が相次いで発表されました。主要都市で「4つの制限」(購入制限、ローン引き締め、転売制限、デベロッパーを対象とした値上げ制限)という、全方位的かつ強力な締め付けが実施され、“史上最強”と言われるほどの厳しい内容となりました。


厳しい引き締めが奏功して17年秋から大都市を中心に住宅市況が落ち着きをみせました。18年3月の全人代で李克強首相は政府活動報告で「房住不炒」の標語を繰り返しつつも、「過熱感の強かった都市では不動産価格の高騰にある程度歯止めがかかった」と政策の成果を報告しました。 



20年秋に「三条紅線」導入、やがて“史上最強”の効果を発揮

住宅価格が落ち着くと、地方政府が引き締め措置を緩め、引き締め懸念が後退すると市場が再び次第にヒートアップするのが、これまでの中国不動産市場の特徴でした。また、不動産デベロッパーは、負債が自己資本を大きく上回る高レバレッジの財務状態が昔から続き、ますますエスカレートしていきました。これがやがて金融リスクにつながることへの危機感を強めた中国当局は、20年秋に不動産デベロッパーを負債水準などで分類し、資金調達枠を制限する新たな規定、「三条紅線(3本のレッドラン)」を導入しました。これこそが後に不動産市場を冷え込ませる“史上最強”の効果を発揮することになりました。


「三条紅線」の導入で資金調達が厳しく規制され、不動産デベロッパーの資金繰りが著しく困難になりました。21年以降は大手の中国恒大集団(03333)をはじめ、民営デベロッパーの債務問題が次々と明るみに。債務問題が買い手の不信感を招き、買い控えから不動産販売が落ち込み、デベロッパーの資金繰りが一層悪化する、そして不信感がさらに高まる…という悪循環に陥りました。国家統計局が毎月発表する主要70都市の新築住宅価格も、かつてないほどに下落する都市が増えました。



デベロッパーの債務問題や不動産市況の悪化を受けて、中国当局は引き締め策の緩和に動きました。23年7月の中国共産党中央政治局会議では、「不動産市場の需給関係に重大な変化が起きている」との認識を示した上で、新たな形勢に合わせて政策措置を調整し、リスクの効果的な予防と解決を目指す方針を決定。これまで繰り返して登場していた「房住不炒」の文言は、少なくとも今回は消える形となりました。

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中国株情報部 アナリスト

シ セイショウ

中国・上海出身。復旦大学を卒業後、外資系法律事務所で翻訳・通訳を担当。来日後は証券会社や情報ベンダーでの勤務を経て、2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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