中国のネット通販最大手、アリババ集団は8月28日、香港の上場ステータスが同日付でこれまでの「セカンダリー」から「プライマリー」に切り替わり、香港と米国のデュアルプライマリー上場になったと発表しました。アリババ集団は2022年7月に香港の上場ステータスをセカンダリーからプライマリーに切り替える方針を発表していましたが、先月22日に開催された株主総会で切り替えの条件となる議案がすべて賛成多数で可決されたことで、ようやく香港の上場がプライマリーに切り替わる運びとなりました。
プライマリー上場切り替えでアリババ集団は「SW」から「W」に
香港証券取引所では、これまでアリババ集団を「アリババ集団-SW」と表記していましたが、8月28日からはセカンダリー上場を意味する「S」が外れ、「アリババ集団-W」と表記されるようになりました。ちなみに「W」は種類株を発行できる加重議決権(Weighted Voting Rights:WVR)構造を採用していることを意味し、この他にもバイオ企業(Biotech Company)の「B」や、ステープル証券(Stapled Securities)の「SS」、人民元建て取引の「R」、米ドル建て取引の「U」、預託証券(Depositary Receipts)の「DR」などの表記があります。
例えば、「ユニクロ」を中心に衣料品事業を展開する日本の企業、ファーストリテイリングは14年3月に香港上場を果たしていますが、「DRS」が併記されており、預託証券「DR」であり、セカンダリー上場「S」であることを意味しています。
アリババ集団、早ければ9月9日にも資金流入開始か
アリババ集団に話題を戻すと、上場ステータスの変更だけでは大したニュースでもないような気もしますが、実は重要な意味を持っており、今回のプライマリー上場が実現することにより、中国本土からの莫大な資金流入が見込まれています。というのも、アリババ集団は中国を代表する大企業であり、中国本土の投資家にとって身近な存在ではあるものの、プライマリー上場でなければ中国本土と香港証券取引所を結ぶ相互取引制度「港股通(香港コネクト・サウスバウンド:南向き取引)」の取引対象銘柄から外れてしまうため、中国本土の投資家はアリババ集団に投資できない状況が続いていました。
一方、プライマリー上場が実現したことにより、アリババ集団は早ければ9月6日にも相互取引制度の取引対象銘柄への追加が決まり、翌営業日(9日)からは制度を通じて中国本土からの資金流入が始まるとみられています。
金山雲は相互取引対象に加わって株価が一時2.8倍に
香港市場では「ATMX」と呼ばれるIT大手企業、すなわちアリババ集団、テンセント、美団、小米集団のことを指しますが、香港メディアはアリババ集団を除く3社について、8月最終週の中国本土からの資金の持ち株比率が10.0-14.4%に上っていた点に言及。アリババ集団の時価総額が1兆5000億HKドル超に上っていることを考慮すると、10.0-14.4%であれば約1500億-2160億HKドルの資金流入が期待できると試算しています。
一方、アリババ集団と同じように、香港の上場ステータスをセカンダリーからプライマリーに切り替えて相互取引対象となった前例として、ビリビリと金山雲をピックアップしています。両銘柄はいずれも23年3月13日から相互取引対象となっており、うちビリビリは初日に10%超上昇し、週間では22%上昇したと指摘。金山雲は当日こそ上昇率が5%強にとどまったものの、週間では34%、月間では株価が一時的に2.8倍に達していたとし、対象銘柄に加わった後のアリババ集団の株価パフォーマンスに期待を寄せています。
ゴールドマンは150億-160億米ドルの資金が流入と試算
ゴールドマン・サックスはアリババ集団が相互取引の対象に加わることで、中国本土から150億-160億米ドル(約1170億-1248億HKドル)の資金流入が期待できると試算しています。香港メディアの試算(約1500億-2160億HKドル)と比べてやや慎重な数字ではあるものの、広告関連の技術ツールのグレードアップやソフトウエアサービス費用などにより顧客管理収入(CMR)の増加が見込まれ、24年7-9月期(第2四半期)の利益成長を後押しするとの見方で、投資判断は「買い」を付与しています。
アリババ集団への中国本土からの資金流入については、話題に上がってから一定期間が過ぎていることもあり、機関投資家のなかには株価に織り込み済みとの声も聞かれますが、相互取引対象に追加されることは1つの大きなチャンスとみる向きも強く、いずれにせよ長期的にはプラス材料となっていきそうです。