中国株投資を始めるためのキーワード。今回は「中央1号文件」について説明します。
「中央1号文件」中国共産党中央委員会と国務院(内閣に相当)が毎年の初めに発表する政策文書のことです。新年最初の政策文書で、その年の最重要課題を示しているため、「1号文件」と呼ばれていますが、04年から20年連続で農業関連政策、いわゆる「三農」(農村・農業・農民)をテーマに据えてきました。もはや中央1号文件は「三農」の代名詞になっています。
以前、ある投資家の方から、「中央1号文件は必ず、三農に関する問題を取り上げるという前提ですか?それとも、その年の最重要課題を挙げていたら、たまたま毎年、三農になったということで、別の課題になる可能性も将来的にありますか?」と聞かれたことがあります。ごもっともな疑問だと思います。三農を取り上げることが「前提」というわけではありませんが、中国指導部は長年にわたって「1号文件」で三農を重視する姿勢をアピールしてきました。「1号文件=農業政策」がいまの中国社会の共通認識となっている以上、混乱を招かないためにもこれからも貫いでいくでしょう。
1号文件の起源は1982年、04年以降は20年連続で「三農」
1号文件の起源は改革開放初期の1982年に中国指導部が発表した「全国農村工作会議紀要」でした。農村の土地改革が重要な転換点を迎え、農家が国から決められた量の生産を請け負い、それ以上生産された農作物は農家が自由に売って収入にすることができる「生産責任制」などが推進された時期で、1986年までの5年連続で1号文件が農村関連でした。一方、1987年の1号文件は学生運動に関する鄧小平氏の重要談話を巡る内容に変わり、翌年の88年は経済情勢と経済運営に関する政策。その後も2003年までは農村関連以外の政策課題が1号文件のテーマとなっていました。
1号文件の農村復帰は2004年でした。食糧余剰、農村債務問題の深刻化、都市化の推進にともなう農村部の労働力減少に加え、中国の世界貿易機関(WTO)で輸入食糧の大幅増を背景に、2000-03年の国内の食糧生産量は4年連続で前年割れ。農民の貧困や農村部と都市部の格差拡大など、深刻化する「三農問題」に対処するために03年12月31日付で中国共産党中央委員会と国務院が「農民収入増の促進に関する若干の政策意見」を打ち出した。これが04年の1号文件となりました。
直近3年は「農村振興の全面的な推進」、年ごとにポイントがやや異なる
ここ3年間の1号文件は「農村振興の全面的な推進」との表現を採用していますが、その内容と注目ポイントは年ごとにやや異なります。21年に焦点となったのは、農業従事者の所得向上を後押しし、消費の牽引役とする構想。22年には農業の核心技術の向上を重点に挙げ、種苗業のイノベーションを進める方針を明確化しました。
23年の中央1号文件は9部から成るが、その最初に配置された最重要項目は「国家食料安全保障」で、自給率の向上(特に輸入依存度の高い大豆の生産強化)や現代化施設を備えた農業の発展、多元的な食物供給体系の構築などを盛り込みました。また、コロナ禍で台頭した「ミールキット」(中国語で「予制菜」)に初めて言及したことも注目されました。農業ビジネスのデジタル化の深化に関する部分で、ECプラットフォーム上での農産物の直売や、農副産物のライブコマース基地の建設、カスタマイズ式の注文生産など、新たなビジネスモデルの開発を奨励。さらに、セントラルキッチンビジネスなどのスタンダード化を図り、ミールキット産業の育成・発展を図る方針を示しました。