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「全国政協」、全人代と合わせて「両会」

中国株投資を始めるためのキーワード。3月が近づくと、「両会」という言葉が頻繁に中国関連のニュースに登場します。日本語の記事では、「両会」(全国政治協商会議・全国人民代表大会)との表記をよく使われます。前回の全国人民代表大会(全人代)に続き、今回は全国政治協商会議(全国政協)について紹介します。


全国政協は全人代と同時開催、諮問機関の役割


全国政協とは、「中国人民政治協商会議」の全国委員会が年に一度に開催する全体会議のことです。中国の国会に相当する全人代と合わせて「両会」と呼ばれ、毎年同じ時期に開催されます。近年では新型コロナウイルスの感染拡大で延期となった2020年を除き、全国政協が3月3日または4日、全人代が3月5日に開幕することが慣例になっています。


全人代が「国家の最高権力機関」という位置付けですが、いまの人民政治協商会議(人民政協)は「人民愛国統一戦線組織で、中国共産党が率いる多党協力と政治協議の重要機関」と定義づけられています。つまり、共産党の指揮の下で、共産党と各民主党派や各団体、各界の代表などが政治について協議する組織で、諮問機関のような役割を果たしています。「両会」は全国政協が全人代より早くに開かれるのも、最高権力機関の全人代を始める前に、多党協議の場を先に設けるというアピールになります。 


政協全国委員の任期は5年。清朝最後の皇帝だった愛新覚羅・溥儀氏、「アジアのカジノ王」といわれる何鴻シェン(スタンレー・ホー)氏、映画監督の張芸謀(チャン・イーモウ)氏、俳優の成龍(ジャッキー・チェン)氏などの著名人も政協全国委員に選ばれていました。

 

前身は1946年の「旧政協」、1954年までは立法機関として機能

歴史を振り返ると、人民政協の前身は、1946年1月に重慶で開かれた「政治協商会議」です。日中戦争で共闘していた国民党と共産党でしたが、日本との戦争が終結すると中国は再び内戦の危機に。各地で散発的な戦闘が起きるなか、内戦の回避に向けた話し合いの努力が一応は実り、国民党と共産党は1946年1月10日に全国に向けて停戦命令を発し、政治協商会議の開催が実現しました。中国国民党から8人、中国共産党から7人に加え、少数政党や有識者、資本家など計38人が参加し、最終日の1月31日に平和建国綱領も採択しました。しかし、最終的には内戦の戦火が広がり、政治協商会議は解散になりました。その政治協商会議は「旧政協」と呼ばれます。


内戦で勝利が確定的となった共産党は、中華人民共和国の建国直前の1949年9月21-30日に、「新政協」、すなわち人民政協の第1期全体会議を招集した。会議は北京(当時の北平)で開催し、662人の代表が参加しました。会議では臨時憲法となる「中国人民政治協商会議共同綱領」を採択し、毛沢東氏を中央人民政府の主席に選出したほか、首都、国家、国旗などを決定しました。このように、人民政協は1954年9月に全人代第1期第1回会議で「中国人民共和国憲法」が可決されるまで、立法機関として機能していました。 


人民政協全国委員会の初代主席に毛沢東氏が就任しました。立法機関としての役割が終了した1954年以降、第2-4期目の主席は周恩来氏、5期目は鄧小平氏、6期目は周恩来氏の夫人である鄧穎超氏。7期目は国家主席などを歴任した李先念氏、その後は中国共産党中央政治局常務委員など最高指導部のメンバーが主席を務めています。 


全人代代表?それとも政協委員?民営企業家の「政治的肩書」

「両会」には多くの上場企業の経営トップを務める民営企業家が代表として参加しています。社会主義の中国で私有制経済や私有財産を認めない時代も長く続きましたが、1988年の憲法改正で「私有制経済が存在・発展することを認め、私有制経済は社会主義公有制経済を補充するものである」との条文が付け加えられました。一から起業し、上場企業まで育てた民営企業家は、政治的な「肩書」を得ることで自分自身を守り、ビジネス展開の上でもプラスに働く、との考えも背景にあるのではないでしょうか。


2018年に就任した第13期全人代代表に小米集団(01810)創業者の雷軍会長、珠海格力電器(000651)の董明珠会長、テンセント(00700)創業者の馬化騰会長、全国政協委員には中国恒大集団(03333)の許家印会長、JDドットコム(09618)の劉強東会長、百度(09888)の李彦宏会長などが名を連ねています。全人代の代表になるか、または全国政協委員になるかはそれぞれの政治的スタンスや事情があるでしょう。ただ、同じく3月に北京で開かれる政治大会に参加するといっても、「最高権力機関」で投票権を持つ全人代代表と、「諮問機関」のメンバーである政協委員は、やや重みが異なる気がします。ある意味、そこから政治・政権との距離感も伺えるのかもしれません。


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中国株情報部 アナリスト

シ セイショウ

中国・上海出身。復旦大学を卒業後、外資系法律事務所で翻訳・通訳を担当。来日後は証券会社や情報ベンダーでの勤務を経て、2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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