香港株のニュースを読んでいると、「シグナル3」や「シグナル8」などといった表現をみかけることがあると思います。実はこれ、台風の規模や接近状況に応じて出される台風警報で、シグナル1、3、8、9、10の5段階あり、10が最大警戒レベルとなります(なぜか2、4、5、6、7はありません)。台風が香港から約800キロ圏内に接近すると、日本の気象庁に当たる香港天文台がシグナル1を発令し、風速が時速41-62キロメートルに達するとシグナル3に引き上げられ、幼稚園は休みとなります。特に注意が必要なのはこの先で、風速が時速63-117キロメートルに達するとシグナル8が出され、学校や会社が休みとなり、公共交通機関の運休なども出てきます。香港証券取引所もシグナル8が発令されると、株式などの取引がすべて停止されることになります。
経済ニュースに気象情報? 取引再開は台風次第
取引再開までのスケジュールを具体的にみてみると、発令中のシグナル8が午前8時(以降すべて日本時間)までに解除された場合は通常取引となりますが、午前8時-午前10時に解除された場合は解除から2時間後に取引を再開することとなっています。また、午前10時-正午に解除された場合は午後2時に、正午-午後0時半に解除された場合は午後2時半にそれぞれ取引を再開し、午後0時半-午後1時に解除された場合は午後3時に取引を再開。午後1時まで解除されなかった場合は終日取引中止となります。割と細かくスケジュールが決められているため、香港株では台風の動向が極めて重要となり、「台風の中心は香港の南東200キロの海上にあり、およそ時速10キロで広東省東岸に向けて西北西に進む見込み」などといった気象情報のようなニュースが香港株のニュースとして配信されることになります。
また、台風とは別に黒色暴雨警報(ブラックレイン・ストーム)というのもあり、1時間当たりの雨量が70ミリを超えた場合に発令されます。取引開始前に発令された場合はシグナル8と同じように取引が停止となりますが、取引時間中や昼休み中にブラックレイン・ストームが発令された場合には、そのまま大引けまで取引が継続されることになります。
悪天候下での取引停止に見直し論、他市場との連携強化が背景
ちなみに、悪天候で学校や会社、証券取引所が休みとなる制度は台湾にもあり、大型台風が比較的多く接近する地域ならではの慣習かもしれません。台風や地震で電車が止まったとしても、どうにかして出勤しようとしてしまう日本人にとってはやや羨ましくも思える制度ですが、全体的にみてみればデメリットもあるようです。というのも、香港証券取引所は近年、上海・深センとの相互取引をはじめ、海外市場との連携を強化していることもあって、他市場と歩調を合わせて円滑な取引を確保することがますます重要となっています。また、香港が国際的な金融センターとしての地位を保つ上でも、天候に左右されない取引環境はポイントとなります。地球温暖化を背景に世界的に異常気象が頻発するなか、今後も大型台風の発生は増えると予想され、香港証券取引所は速やかな対応が迫られています。
一方、香港政府の財経事務・庫務局(Financial Services and Treasury Bureau:FSTB)の許正宇局長は11月上旬、悪天候下での株式などの取引について、香港証券取引所が11月中にも公衆諮詢(意見募集)を開始するとの見通しを明らかにしました。許局長は、上海や深セン、ニューヨーク、ロンドン、日本、シンガポールなどの世界の主要な取引所は悪天候下でも取引を行っていると説明。香港市場の競争力向上や海外市場との連携などを考慮すると、市場参加者にとって悪天候下でも通常取引を行うことの重要性やニーズは高まりつつあるとの見方を示しています。
コロナ禍で基盤整備進む、格好の予行演習に
悪天候下での取引継続を実現するに当たっては、証券取引所だけでなく、証券会社や銀行など各方面の協力が必要になってきます。末端の従業員を中心に反発の声は根強いものの、関連業界では取引継続の方針を支持する姿勢が目立っています。証券口座への資金移動などに関して一定のリスクを指摘しつつも、問題はおおむねクリアできているとの見方。新型コロナウイルスの大流行をきっかけに香港でも在宅勤務の導入が広がり、出社せずとも業務が正常に行うための基盤整備が一気に進んだことで、図らずも悪天候下での取引継続に向けた予行演習が出来てしまったとしています。香港では2008年以降の15年間で台風による休場(半日取引や短縮取引などを含む)が20回ほどありましたが、台風動向を気にしなくても良くなる日が近いうちに来るのかもしれません。